春を迎えた川苔山で、ランニングベストの要素が盛り込まれた小型バックパックを試す!

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今月のPICK UP ブラックダイヤモンド/ディスタンス15

価格:16,400円(税別)
容量:15リットル
サイズ:S、M、L ※容量は同じ
重量:S=392g、M=394g、L=396g

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ランニングベストの要素とは? 斬新なバックパック「ディスタンス15」の仕様を確認

今年は春になってから、多くの山でまとまった量の雪が降ったようだ。標高の高い山にはまだまだたっぷりと雪が残り、本格的な春の訪れは少し遅くなるのかもしれない。

それでも僕は十分に春の山の気分を味わいたいと、身軽な格好で山歩きへ。高山ではなく、標高が低い奥多摩の川苔山を選んだ。お供はブラックダイヤモンドの新作バックパック「ディスタンス15」である。

この小型パックはなかなか斬新だ。サイドにポケットなどはなく、ジグザグにコードが取り付けられているのみ。上部は本体から延びるパネル(フラップ)で覆われていて、ポケット付きの雨蓋がついているわけでもない。じつにシンプルな見た目だ。

容量は15Lで、重量は394gとかなり軽い。ちなみに、ほぼ同じ形状の8Lも発売されているが、重量は355gと、それほど変わるわけではない。重量よりも用途によって使用する大きさを使い分けるというモデルなのである。

最大の特徴は、基本となるデザインがランニング用パックだということだろう。本体はともかく、そのことはハーネス類の設計コンセプトからも一目瞭然だ。

肩のほうは狭く、下に向かうほど幅が広くなるショルダーハーネスは、上下2つのチェストストラップで左右が連結されるが、このストラップは簡単に取り外しが可能。位置を自由に変えられ、そのために生まれる体を包み込むようなフィット感がすばらしい。これはやはりランニングパックやランニングベストのような感触なのである。身に着けた感じはウェアに近く、背負い心地ではなく着心地という言葉さえ使えそうだ。

体を包み込むような着用感が引き出される理由は、サイドの工夫にも見受けられる。本体との連結は伸縮性のドローコード。思いっきり引っ張って固定すればほとんどくっついてしまうが、反対に緩めると6㎝ほど離せる。これが体の動きに追従して伸縮するので、常に程よく体にフィットしてくれるのだ。

撮影時はわかりやすさのために引き出したが、コードを止めるストッパーは隣にあるポケットの裏側に収納可能になっている。行動中に腕に当たらないようにする工夫で、細かなことだが気が利いている。

左右のショルダーハーネスにはそれぞれ3つずつ、計6つのポケットを備えている。最上部はファスナー付きでモノを落としにくく、マチもついているために、見た目以上の収納力だ。行動時に口に入れるエナジージェルやバーは数本まとめて収められる。下部のふたつのポケットはメッシュ製で、ひとつは深く、もうひとつは浅い。深いほうは500mlペットボトルが余裕をもって収納できるサイズ感だ。薄手であれば、ウインドシェルも押し込められるだろう。

開口部はコードで絞ることができ、しかも簡単にロックできるのがいい。上の2枚目の写真にはコードが2か所写っているが、そのなかの右側はロックされておらず、左側はロックされている状態だ。コードを通している小孔をわずか数㎜だけ下にずらせばロックされる仕組みで、重いボトルもしっかりと固定できる。僕は今回、左側のポケットには行動食とボトルを入れ、右側にはカメラとスマートフォン、地図を収めた。これくらいの収納力があれば、行動中に荷物を降ろす手間が激減する。

胸元のポケットの内部にはホイッスルも付属している。あえて外側のバックルなどにつけていないのは、少しでも邪魔にならないようにとの配慮からだろう。

だが、少し長めのコードが取り付けられているので、バックパックを背負ったままでも楽に口元に届く。安全対策として、こういう点はありがたい。

 

川苔山へのアップダウン。ポケットの使い勝手やフィット感をチェック

4月の晴れた奥多摩は、春の陽気を感じさせてくれた。麓には桜が咲いていたが、同じ東京の都心に比べると満開の時期は20日くらい遅いようである。春になると花粉症で山に行くのが少々億劫になる僕だが、今回は思ったほど症状がひどくなることはなく、気楽な気分でJR鳩ノ巣駅から歩き始めた。

当初はウインドシェルを着ていたが、次第に体は熱を帯び、Tシャツ1枚でもまったく寒さを感じない気温と日差しになっていった。

脱いだウインドシェルをサイドのコードにつけてみる。少しザラついた肌触りがあるコードは、コードストッパーとの相性もよく、しっかりとウェアを固定してくれる。このコードはコンプレッションをかけるときにも活躍し、荷物が少ない場合でも中身をしっかりと押さえこむのに役立つものだ。

このバックパックの下部には台形状に見えるスリットがあり、ここにアックスのピックを収められる。このときもサイドのコードはシャフトを押さえるのに役立つ。なお、この部分の写真は、登山中ではなく、川苔山から下山後に撮影したものであることを一応補足しておきたい。

前述したように、上部にはポケット付きの雨蓋がなく、パネルで覆うだけというシンプルな構造だが、本体内部へのアクセスは簡単だ。パネルを固定用のフックから外し、そのまま引っ張るだけで荷室への入り口が大きく開くのである。

反対に閉めるときはコードを引くだけ。開けるにしろ、閉めるにしろ、“瞬間”だ。

このパネルの裏側は、わずかながら窪んでおり、ヘッドランプを収められる程度の小さなポケットのように使える。ただし、ファスナーなどで閉められるわけではなく、そのままでは簡単に中身がこぼれ落ちてしまうが、パネルをフックで固定して覆えばしっかりと押さえられ、紛失の恐れはあまりないだろう。

本体内部にはハイドレーションパックが収められる縦長のポケットとともに、ファスナー付きのメッシュポケットもあり、カギなどを固定できるフックも取り付けてある。貴重品はこちらに収納したほうがよさそうだ。

歩いているうちに川苔山が近づいてくる。雲ひとつない快晴で、歩いているだけでひどく汗ばんでくるほどだ。

このあたりは人気の山域だが、平日の昼過ぎとあって、他の登山者は少なかった。東京の山なのに、のんびりとした雰囲気である。

低山が連なる奥多摩らしく、登山口からはつねに登山道の周囲は木々で覆われ、視界が開ける場所はあまりない。しかし、葉がまだ成長していないので風通しがよいのはうれしいことだ。僕はスピードハイクのようにすばやく山中を進み、ときには体をあえて揺すりながら歩いて、フィット感を中心に使い心地をチェックしていった。

大ダワから舟井戸までは鋸尾根コースを使い、こまかな上り下りを繰り返す。足場がよい場所ではトレイルランニングのように走ってみたが、ディスタンス15はいつも体と一体になっている感覚で、荷物がぶれる感覚が少ない。まさに、ランニング用パックを母体に、アルパイン方向にシフトさせたモデルといった趣である。

しかし僕が今回使ったボトルとは相性が悪かったようで、小走りになって進んでいるとわき腹がボトルの角で圧迫され、痛いほどではないが、違和感を覚えずにはいられなかった。一般的な円筒形のボトルではなく、柔軟なソフトボトルを使ったほうがよさそうである。

調子に乗ってスピーディーに行動していると、いつしか大量の汗をかいてくる。だが、ディスタンス15のショルダーハーネスは透けるほど薄いメッシュ素材で、非常に通気性が高く、不快な感じがあまりしない。背面にも同じ素材が使われており、本体の生地との間にはグレーのフォーム材のパッドが入っている。このために背中への当たりも悪くないが、通気性という意味ではショルダーハーネスほどの効果は感じられない。実際、僕が着ていたTシャツは、ショルダーハーネスに覆われていた部分はあまり汗で濡れていなかったが、背中は汗染みができていた。とはいえ、不快なほどではなく、このメッシュ素材は速乾性も高そうであった。

そういえば、ディスタンス15は、本体の表側に使われている素材も面白い。格子状のリップストップが入った強い張りのある素材で、メーカーの説明によれば「重量あたりの引き裂き強度が鉄の10倍強い超高分子量PE糸のリップストップ」で「+210D(デニール)ナイロンボディ」なのである。今回のテストではそれだけの強度を確認するテストは行わなかったが、岩場で擦れたくらいではほとんど傷がついていなかったことは報告しておきたい。

ひさしぶりに訪れた川苔山の山頂には、立派な山頂標が置かれていた。逆光のために撮影しにくかったが、山名が入る角度で記念カットを一枚撮る。

遠くには西側に広がる奥多摩や奥秩父の山々が墨絵のように並んでいた。ここから下山口の川乗橋までは下り坂が続くため、僕は持参してきたトレッキングポールを使うことにする。

トレッキングポールを持ち運ぶために、ディスタンス15にはユニークな工夫が凝らされていた。本体のサイドに、「Zポールスリーブ」という細長い専用ポケットをわざわざ設けられているのである。ディスタンス15は高さが40㎝ほどであり、大概の折りたたみ式トレッキングポールの収納サイズよりも数cmだけ大きいくらいだ。だから、まさにジャストなサイズ感。ここでこれまでにお見せしてきたほとんどの写真でも、じつはトレッキングポールをサイドに刺したままにしてあったのだが、きれいに隠れていたので気付いた方は多くなかったのではないだろうか。

そこで上の写真では、トレッキングポールをあえていくらか引き出して撮影してみた。Zポールスリーブが、どのような位置になるのかお分かりいただけるはずだ。

このスリーブの内側には丈夫な素材が使われており、トレッキングポール先端の金属チップを露出させたままダイレクトに突っ込んでも破損の恐れは少ない。また、口径が折りたたんだトレッキングポールにぴったりなので、わざわざ留めたり、コンプレッションしたりする必要がないのも長所だ。

500mlの一般的な太さのペットボトルもちょうど入るくらいの大きさでもある。ただし、かなり深さがあるので、一度入れると取り出しにくく、ボトルホルダー的に使用しようとしても、あまり便利ではない。あくまでも主役はトレッキングポール用だと考えておくべきだ。だが、これまでにありそうでほとんどなかった面白い工夫で、とても感心してしまった。

 

まとめ: 「ディスタンス15」はランニングパックの性質を持ちながらも、登山やクライミングに十分使えるバックパック

下山中は百尋ノ滝に立ち寄った。雪解け水がたくさん流れ込んでいる様子はなく、迫力に欠けるタイミングだったようだが、それでもなかなかのもの。これから新緑の季節で、周囲に緑が増えてきたら、いっそう美しくなると思われる。

夏前にもう一度訪れてもいいな、などと思いながら、僕はさらに下山していった。

ブラックダイヤモンドはアルパイン系に強いメーカーだけあり、ディスタンス15はランニングパック、ランニングベストの性質を持ちながらも、一般登山やクライミングにも有用なバックパックに仕上がっていた。胸元のポケット類は使いやすく、フィット感も上々と、新機軸の製品なのに非常に完成度が高いという印象だ。シンプルなルックスはとてもスタイリッシュでもあり、山でもカッコよいものを使いたいという人にも人気が出そうである。

ただ、クライミングやランニングではなく、一般の登山用に使うとすると、容量15Lでは小さすぎると感じる方は多いだろう。もしかしたら、容量25Lや30Lのバリエーションもあればいいのかもしれない。僕個人としては、今回のような日帰り登山には15Lもあれば十分すぎるので非常に魅力的だと思うが、小型バックパックのわりには高価だけに、簡単には購入を決心できず……、いまだ迷っているところなのである。

 

今回登った山
川苔山
東京都
標高1,363m

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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