6月の入笠山――、100万本のスズランをはじめ類を見ないほどの花の宝庫に巡り会える場所

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梅雨入り前後の時期は、花が咲き誇り、新緑が美しい山が多く目移りしてしまう。そんな中で、南アルプスの北端に位置する入笠山は、ゴンドラで標高1800m近くまで登れる手軽さに加え、他に類を見ないほどの花の宝庫に巡り会える場所だ。

ズミに囲まれた入笠湿原から入笠山を望むハイカー。離れがたい景観だ(写真=白井源三)


入笠山(にゅうかさやま)は赤石山脈に含まれた南アルプスの前衛の山です。南アルプス――、特に3,000m級の核心部の山々は、アプロ―チが長く深い谷とロングランの登山路となりますが、入笠山は麓から8人乗りのゴンドラに乗り、一気に730m差のゴンドラ高原駅に立てるのが魅力です。

そんな入笠山の最大の魅力は、なんといっても春から秋にかけての花の宝庫に巡り会えることです。その中でも、ゴンドラ駅近くのスキー場となる斜面には6月のドイツすずらんと、入笠湿原の日本すずらんは圧巻です。6月下旬のスズラン以降も、6月下旬か月ら7月中旬にはアヤメが咲き、7月下旬にはハナショウブと花の季節が移ろいます。

オレンジ色のレンゲツツジも初夏の山を彩る(写真=白井源三)


そして6月はそれだけに留まらず、オオアマドコロ、エンレイソウやレンガツツジが囲むように咲いているのも魅力的です。さらにこの季節は、湿原を取り巻く純白の花を付けたズミ(小梨)も高原の爽やかさを増します。ほかにも、幻の花「釜無ホテイアツモリソウ」も実験園に植裁されています。

左上:ゴンドラ駅前面に広がるすずらんの群落。右上:実験園内に咲く、幻の花、ホテイアツモリソウ。左下:枯れ木の根に群生していたマイズルソウ。右下:林床に目を惹く濃いピンクのクリンソウ(写真=白井源三)


さらに、カラマツ林へと散策していくと、マイズルソウやツバメオモトを見かけます。入笠山登山口からのお花畑では濃いピンクの九輪草の上をアサギマダラなどの蝶も飛来しています。このように、6月は花の宝庫となる山です。

もう一つの入笠山の魅力は、晴天率の高さと、大展望の山頂でしょう。ゴンドラ山頂駅には「恋人の聖地 八ヶ岳展望台」と呼ばれる展望台から、雄大な四季の八ヶ岳が望められます。山頂の入笠山からも360度の展望が待っています。富士山をはじめ、南アルプス、中央アルプス、北アルプスと日本100名山のうち22座を眺望可能なのです。

ゴンドラ山頂駅から入笠山山頂まで約1時間余りで登れ、家族連れにも最適な山としてもおすすめの山です。

モデルコース:富士見平ゴンドラ山頂駅から入笠山湿原散策&山頂へ

モデルコース行程:
ゴンドラ山頂駅・・・入笠湿原・・・山彦荘荘・・・御所平峠・・・入笠山・・・御所平峠・・・入笠湿原・・・ゴンドラ山頂駅(約1時間20分)

⇒コースタイム付き地図で計画を立てる

 

山野草を満喫できる6月の入笠山へ

梅雨の季節となる前となる2018年6月2日、晴れの予報で中央自動車道とゴンドラを利用して、入笠山ハイクをした際の様子を振り返りながらコースを振り返ります。

ゴンドラ山頂駅を降りると、前面に霞む八ヶ岳連峰を、背後に冬はスキーゲレンデとなる斜面に文字通り鈴なりとなったスズランが迎えてくれました。その付近にはオオアマドコロ、エンレイソウやレンゲツツジが咲き始めています。実験園では釜無ホテイアツモリソウを金網越に数株のぞきました。カラマツ林を散策するとマイズルソウやツバメオモトが点在しています。

これが「幻の花」、ホテイアツモリソウ。実験園内に5月下旬~6月中旬に咲く(写真=白井源三)


入笠山湿原に着くと、純白のズミ(小梨)並木が陽光を浴びて光り、木道の彼方に入笠山の稜線が見えてきました。登山道から下草の中、濃いピンクのクリンソウを発見しました。

マナスル山荘からは山野草鑑賞が終わり、入笠山を目指すようになります。お花畑コースから登山道に入ってみました。ハイカーがカメラを向けるズミが笠となって茂り、登りの喘ぎを和らげます。途中から道は岩道と分かれますが再び合流します。頂上直下で大阿原湿原からのルートを合わせますが、下山の際にここを降りないように注意が必要です。

晴天率の高い入笠山山頂は360度の展望台地となっている(写真=白井源三)


360度開けた山頂ではすでに登ってきたハイカーであふれていました。残念ながら富士山や北アルプス、中央アルプスは見えず、雲間に残雪の甲斐駒ヶ岳が望まれました。稜線に厚い雲を被せた八ヶ岳を展望しながらのんびり昼食をとります。

帰路は湿原からゴンドラ山頂駅に延びる階段を左右に分けて100万本と言われる日本すずらんの自生地を鑑賞しながら戻りました。

これから各月に開花する山野草鑑賞と入笠山ハイクは老若男女、家族連れにもお薦めです。

ゴンドラ駅前面に広がるすずらんの群落。背後には八ヶ岳が霞む(写真=白井源三)

プロフィール

白井源三

神奈川県相模原市生まれ。1989年ヒンドゥークシュ登山隊に参加、ゴッラゾム5100mに登頂。2005~2007年に南米取材。アコンカグアBCとインカ道をトレッキング。著書に『戸隠逍遙』(クレオ刊)、『北丹沢讃歌』(耕出版刊)、『冬の近郊低山案内』(山と溪谷社・共著)、『分県登山ガイド 神奈川県の山』(山と溪谷社・共著)など。丹沢の写真展を多数開催。

今がいい山、棚からひとつかみ

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