貴重なヒメサユリ咲く浅草岳へ――、鬼ヶ面山コースの豪快な断崖絶壁を歩く

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新潟県と福島県の県境、豪雪地帯で知られる浅草岳は、6月が下旬に差し掛かる頃になれば、ようやく登山道の雪が消える。そしてその頃は、この山域周辺だけに咲く準絶滅危惧種のヒメサユリが稜線を彩る。美しいブナの新緑や豪快な断崖絶壁――、美しい風景が堪能できる。

浅草岳の山頂を背景に、稜線を彩るヒメサユリ(写真=奥谷 晶)


新潟県と福島県の県境に位置する浅草岳。越後山脈の北東、奥深くに位置する山で、豪雪地帯として知られるこの周辺は、1600mに満たない標高にもかかわらず、6月に入っても沢筋を中心に多くの残雪が残っています。

稜線の残雪が消え、まもなく山開きを迎えるという頃にこの山を訪れると、準絶滅危惧種でもある貴重なヒメサユリが咲き誇っています。東北南部から上越地方にかけての奥深い山々にしか群生していないというヒメサユリ、浅草岳の中でも、とくに鬼ヶ面山の勇壮な大岩壁を彩るヒメサユリの大群落は見逃せません。

しかし、浅草岳の南側、六十里越登山口からスタートする鬼ヶ面山コースは稜線に上がってからの起伏が激しく健脚者向きです。一般的には往復で8時間から9時間。私の場合、花の撮影に時間をかけたせいもありますが、下りのアップダウンに足が疲れ、10時間近くかかってしまいました。そんなヒメサユリと絶景が望めるコースを紹介します。

モデルコース:六十里越登山口から浅草岳を往復

モデルコース行程:
六十里登山口・・・マイクロ中継局・・・南岳・・・鬼ヶ面山・・・前岳・・・浅草岳・・・前岳・・・鬼ヶ面山・・・南岳・・・マイクロ中継局・・・六十里登山口(約9時間)

⇒モデルコースから計画を立てる

 

雪崩に磨かれた大岩壁と可憐なヒメサユリを楽しめる浅草岳へ

東北南部と上越の周辺山地などにだけ分布する貴重なヒメサユリ、その鬼ヶ面山の大岩壁を可憐に彩る姿を見ることができる浅草岳・鬼ヶ面山コースに、2018年の6月23日に行ってきました。

福島・山形・新潟県にまたがる飯豊・朝日・吾妻山山系と浅草岳・守門岳などに限られた山域に自生するヒメサユリ。黄色いおしべが目印(写真=奥谷 晶)


この日の登山口は六十里越登山口、午前5時頃にはほぼ満車、多くの登山者が詰めかけていました。樹林帯のゆるやかな登りから展望が開ける南岳まで登りが続きます。そして、南岳まで来るとようやく、緑の山肌の中に鮮やかなピンク色が見え始めるます。

このコースの最初のヒメサユリの群落です。可憐な姿に感激、疲れも吹き飛びます。ここから鬼ヶ面山にかけての登山道沿いにいくつもの群落が続いています。

鬼ヶ面山をへて前岳にいたる稜線は、雪崩によって磨かれた東面の断崖絶壁の上、痩せた尾根道のアップダウンが次々と連続するタフな登山道です。しっかり整備されていて、足下も緑茂る草や灌木で覆われているせいか、あまり高度感を意識することはありませんが、実際は東面は数百メートルも切れ落ちた急峻な崖になっており、決して油断することはできません。とくに下向きに咲くヒメサユリをカメラに収めようと斜面に踏み込むと、滑落の危険があるので、足元を確認して十分に注意してください。

鬼ヶ面山の緑の大岩壁を縫うように、登山者が進む様子が確認できる(写真=奥谷 晶)


浅草岳の山頂に向かう稜線からの展望は素晴らしく、目指す浅草岳をはじめ、越後三山、はるか燧ヶ岳などを見通すことができます。稜線に咲き誇るヒメサユリのあでやかな晴れ姿とみごとにマッチして、誰しも感動を覚える瞬間です。

前岳からは頂上付近の湿原と残った雪渓を越えると、木道が浅草岳へと続いています。この周辺の通過には、雪の状態によっては軽アイゼンなどがあると安心です。

浅草岳への山頂へは多くの登山道があるので、さまざまば場所から登山者が訪れます。この日の山頂は、入叶津(北東側)や田子倉方面(南東側・只見方面)から登ってきた大勢の登山者でいっぱいでした。下山は、行動時間の長い鬼ヶ面コースへの避けて、田子倉コースを下りることもできます。ただし、この場合は車が2台用意する必要があります。

なお、浅草岳のヒメサユリの季節は例年、6月中旬~7月中旬となります。

 

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

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