山行後には、おいしいへぎそばと舞茸の天ぷらが待っている。越後湯沢周辺ご当地グルメ

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関越トンネルを抜けると雄大な山景色で迎えてくれる越後湯沢周辺の山々。22回目の「下山メシのよろこび」は、谷川岳、苗場山、平標山などの山行の起点となる、越後湯沢周辺で味わえるご当地グルメを紹介する。

 

山の行き帰りで越後湯沢駅に下り立つと、へぎそばが頭に浮かぶ。

越後湯沢が起点となる山のひとつ、苗場山。MKA10さん秋の登山記録より

 

へぎそばとは、新潟県魚沼地方のそばのこと。「へぎ」と呼ばれる木の器で供されることから、名付けられたと言われている。通常のせいろ、ざるよりも大きな細長い器に、一口で食べやすい程度に丸く束ねられて盛りつけられている。およそ3~4人前の量のそばを1枚の「へぎ」に盛りつけ、数名でへぎを囲んで食べる。

へぎそばの特徴はそば自体にもあり、つなぎに小麦粉ではなく「ふのり」と呼ばれる海藻を使っている。魚沼地方は小千谷縮や塩沢紬などの織物の産地でもある。着物をつくるときに「のり」として使われていたふのりを、そばのつなぎとして使っていて、独特の食感やのどごしのよさにつながっている。

一人前に盛られた「へぎそば」。つなぎに海藻の「ふのり」が使われている

 

へぎそばを味わえるそば処は魚沼地方に点在している。このあたりの観光や山行の起点となる越後湯沢駅の周辺でも、そば処や和食の店でへぎそばを味わえる。へぎそばを初めて味わったのは、越後湯沢駅から徒歩10分ほどのところにある「しんばし」。知人に教えてもらって家族で訪れて以来、何度も訪れている。気心の知れた山仲間と山帰りに越後湯沢に寄るときは、お腹をすかせているし重いザックを背負っていることもあり、駅から近くの店に入ることが多い。

ザックを置いて席についたらまずお酒。新潟は米どころであり、美味しい酒の産地でもある。さらに季節の素材のおつまみ…春は山菜、秋はきのこなどの料理があればオーダーする。さくさくに揚げられた天ぷらや、素朴な味わいのおひたしなどを味わいながら、お酒をちびちびと飲みながら、楽しかった(ときに辛かった)山行を振り返る時間の幸せなこと。

そばを味わうのは一番最後だ。適度にお酒が入ってお腹も心も落ち着いたところで、3〜4人でへぎそば1枚。ここでへぎそば以外のそばをオーダーする選択肢はない。

へぎに盛りつけられた、打ちたて、茹でたてのつやつや、きらきらのそば。丸く盛りつけられた束をひとつ掴み、つゆにさっとくぐらせてすする。そばの風味がふわりと広がり、すっとのどを通っていく。すっきりとした味わいに、どんどん箸が進む。山の話ではしゃいでいた面々も、そばを食べる時だけは無言だ。手打ちできちんと作られたそばほど、のびるのは早い。おいしく味わいたいなら休まずに手を動かし食べ続けなくてはならない。

JR越後湯沢駅近くの「しんばし」。盛り方はオリジナルだが、こちらも手打ちにこだわった「へぎそば」

 

あっという間にへぎがからっぽになり、幸せのため息。 もう少し若かった時は、ここでみんなで顔を見合わせて「もう1枚食べようか」とオーダーしていたけど、さすがに今は私も仲間も胃袋が小さくなってしまった。もう少し食べたいかな、と思うところで終了。

山はそろそろきのこの時期。おいしいへぎそばと舞茸の天ぷらが待っている。


【お詫びと訂正】
公開当初、「上越地方の」と紹介しましたが、本原稿内で紹介している「へぎそば」は、中越地方の食文化でした。お詫びして、原稿の一部を訂正します。

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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