【書評】揺るがぬ心で生き生かされて『凪の人 山野井妙子』
(評者=武石浩明)
本書では、自然とともに暮らす妙子の静かな日常が心地よく描かれている。その一方で、対極にあるような数々の壮絶な登山も明かされる。1991年、世界第5位の高峰・マカルーに無酸素で登頂後、デスゾーンともいわれる8000メートル以上の高所で、二晩ものビバークを余儀なくされたことも。
山に関する新刊の書評を中心に、山好きに聞いたとっておきもご紹介。
【書評】揺るがぬ心で生き生かされて『凪の人 山野井妙子』
(評者=武石浩明)
本書では、自然とともに暮らす妙子の静かな日常が心地よく描かれている。その一方で、対極にあるような数々の壮絶な登山も明かされる。1991年、世界第5位の高峰・マカルーに無酸素で登頂後、デスゾーンともいわれる8000メートル以上の高所で、二晩ものビバークを余儀なくされたことも。
【書評】当事者ならではのリアルな体験談『ドキュメント クマから逃げのびた人々』
(評者=高橋庄太郎)
8件のうち6件が20年以降の話で、これだけ直近のエピソードを集めた類書はない。だから、最近生態が変わりつつあるといわれる〝現在のクマ〟によるトラブルの詳細がリアルに伝わってくる。
【書評】友の痕跡を追う山仲間たちの苦闘の記録『いまだ下山せず! 増補改訂版』
(評者=羽根田 治)
これほどまでに長く読み継がれているのは、遭難した当事者に焦点を当てたものがほとんどだった山岳遭難ノンフィクションのジャンルにおいて、遭難者を捜索する側の視点で書かれているという点で異色だったことが大きいと思う。
【書評】挑む人たちの心の深淵に迫る『冒険者たちの心理 彼らはなぜ命を賭けるのか』
(評者=谷山宏典)
それでも書かずにはいられなかったのは、今の日本では冒険というものが正しく捉えられておらず、ときとして「胡散臭い」と思われていることに歯がゆさを覚え、何とかして冒険の価値や真の冒険者の姿を伝えたかったからではないだろうか。
【書評】ピッケルと口紅で拓き、築いた頂と友情『ピッケルと口紅 地球あちこち登った笑った考えた』
(評者=柏 澄子)
山が私たちに向ける姿には、男女の違いはない。けれど一般社会だけでなく山の社会でも、性別による周囲の態度の違いはある。北村たちの時代の風当たりはいっそう強い。けれどそれを一度は飲み込み、笑い飛ばし進んでゆく。それでも北村は書いている。「陽気さと鈍感さは違う」と。
【書評】浮かび上がる王者の人物像『山岳ランナー土井陵 王者の称号』
(評者=植田 徹)
日本一過酷なレースの王者に君臨する彼が経験してきた失敗、挫折、葛藤。順風満帆に思われる土井さんの人生だが、輝かしい記録は人並み以上に苦しんだ先にあるのだということが、さまざまな視点から語られることで重奏的に迫ってくる。トップランナーであると同時に、職業人であり、夫であり、父親である。
【書評】怪異を引き出し語らせる力『山怪 青』
(評者=安曇潤平)
田中さんの怪異の収集方法の根源は、その研究心にあるのではないだろうか。その土地の人々から話を引き出せる田中さんの人柄ももちろん含まれているのだろう。
【書評】驚きと納得がぎっしり詰まった本『日本の美しい 地形・地層図鑑』
(評者=小林千穂)
本書の楽しいところは、美しい景色に驚いてページをめくれば、そのすぐ後ろで、地質初心者にもわかりやすいイラストと文章によって、成り立ちを解説してくれていること。驚きと納得、そして長年の疑問が解決されるスッキリ感を味わいながら、日本中のさまざまな景色に出会える。
【書評】山とともに65年記憶の山をつづって『そうだ、山に行こう』
(評者=木元康晴)
記される内容への共感にとどまらず、内省的な思索の世界へと誘ってくれることが、40年にもわたって多くの読者を惹きつけ続ける、沢野氏の山岳紀行文の魅力なのだろう。
【書評】「中間の土地」に息づく命を追いかけて『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』
(評者=栗田哲男)
スピティとは現地の言葉で「中間の土地」を意味する。その周辺となるのはチベットであり、ラダックであり、はたまたインド・アーリア系の人々が暮らしている地という意味でのインドである。