残雪の湿原に咲くヒナザクラを追って雲上の稜線を歩く 東北・栗駒山

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雪解け直後、東北の山々の雪渓や雪田の消えたあとの湿原に、真っ先に可憐な花を咲かせるヒナザクラ。中でも「花の百名山」にも選ばれている栗駒山のヒナザクラをもとめて須川コースから山頂をめざしました。

岩手県、宮城県、秋田県の東北三県にまたがる栗駒山。秋の紅葉は日本随一の美しさで名高いですが、「花の百名山」にも選ばれており、6月からはヒナザクラをはじめ、イワカガミ、ワタスゲ、ツリガネツツジなどさまざまな花が咲き誇ります。

なお、2020年6月5日現在、須川温泉から昭和湖や地獄谷を通る須川コースは、火山ガスが高濃度となったため通行禁止となっていて、産沼経由の自然観察路が迂回コースに指定されています。

モデルコース:須川温泉~産沼~栗駒山~東栗駒分岐(往復)

 

コースタイム:約4時間40分


⇒栗駒山周辺のコースタイム付き登山地図

花を愛でながら展望の山頂へ

2016年6月19日、晴れのちガス、やや強風。ヒナザクラ開花を伝え聞いて、やもたまらず、梅雨の晴れ間の一日をねらって、栗駒山へ向かいました。須川温泉の源泉がわき、もうもうと湯煙の立ち上る登山口より、出発します。残雪の残る湿原に雪渓の後を追うように次々と花を咲かせるヒナザクラに期待をふくらませて稜線に向かいました。

須川温泉登山口。豊富な湧出量を誇る源泉の脇から登り始める(写真=奥谷 晶)

早朝は文句なしの快晴で、賽の磧を経由し剣岳の旧火口跡をみながら木道を進むと名残ヶ原に出ます。名残ヶ原の湿原ではワタスゲの群落がはやくも迎えてくれます。ゼッタ沢に沿って登り、地獄谷を左手に見ながら登ると昭和湖に至ります。昭和湖は火口湖でエメラルドグリーンの不思議な色です。

1944年噴火のあとにできた火口湖。エメラルドグリーンの水をたたえる(写真=奥谷 晶)

ここから急登の胸突坂を登り切ると傾斜が緩み、賽走りではイワカガミの花々が出迎えてくれます。はやくもヒナザクラの花もちらほら。

稜線上はイワカガミの群落が続いている(写真=奥谷 晶)

天狗平から稜線へでて、天馬尾根をしばらく探査。引き返して稜線を進むとまもなく栗駒山山頂です。そこではイワカガミ平からの登山者で大賑わいでした。

栗駒山の立派な山頂標柱。360度の大展望がひろがる(写真=奥谷 晶)

さらに山頂から東栗駒山へ向かう稜線に進みます。登山道の階段にそって、ヒナザクラの群落が見られはじめます。多くは栗駒山から東栗駒山へ至る稜線沿いの岩礫地帯や雪が溶けた後の高層湿原に群落をなして咲いていました。折から風が強まってきましたが、ガスが稜線をかすめて流れていくなかでけなげに咲く姿は見事なものでした。

ヒナザクラ。東北の高山帯の高層湿原に咲く桜草の仲間。雪解け直後から次々と清楚で可憐な花を咲かせる(写真=奥谷 晶)

帰路は稜線途中より裏掛コースに入り、笊森コースから産沼方面へとつなげようとしましたが、谷をわたる雪渓が中途半端に残り、末端が大きく崩落している状態でした。傾斜も強く、アイゼンなしでは滑落の危険があり、雪渓自体も不安定で崩壊の恐れもあると判断し、結局、須川コースを戻ることにしました。

稜線から見下ろす昭和湖(写真=奥谷 晶)

 

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

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