登山活動もいよいよ本格的な局面へ。アウトライアー南西壁を仰ぎ見た第一印象とは

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C1からC2へのルート工作と荷揚げなど登山活動が本格的な局面を迎える中、新しい高度で体調不良を訴える隊員も・・・。これから萩原編集長らが登ろうとしているアウトライアー南西壁は、どのような姿でそびえ立っているのだろうか。

 

ヨタヨタ歩きでキャンプ1へ・・・その理由は?

Date 2013年10月03日(木)


10月1日、荷揚げもテント設営も無事終了し、いよいよ全メンバーがキャンプ1(以下、C1)に登る日がやってきました。各自、前回の荷揚げで運びきれなかった装備を肩にC1をめざします。

ここで私の誤算。通信用の器材や光学機械関係は自分で運びたかったので、PC2台にカメラ3台、そして双眼鏡と、あれこれザックに詰め込んでみたら軽く中国南方航空の重量制限23キロを上回る重さとなってしまいました。

見た目的にも実際にも、はるかに軽そうなザックをかつぐ他の隊員たちとともに、最後のほうからヨタヨタと歩いてなんとかC1入り。5600mは先日の高所順応で経験済みのはずなのに、オーバーワークがたたって一挙に高山病の症状が出て苦しみました。しかしなんとか夕食時にはリカバー。ジャガティスが作ってくれたおいしい和風カレーをお代わりすると、Sp-O2値も80台中ほどまで回復していました。

いくら重荷を担いでがんばったといっても、高所ポーターさんのレベルにはまだまだかないません・・・


ここ、C1は標高約5600m。周囲を高峰に囲まれて通信は厳しいかと思いましたが、幸いにも東方の太平洋上にある衛星をつかまえることができて連絡が可能です。あいにく雲が低く垂れこめているため、めざすアウトライアーの姿は見ることができませんが、チベットとの国境にあたる氷河の山々を間近に見ると、本当にネパールの東の果てに来てしまった実感が湧いてきます。

ちなみにC1へのルートは、ブロークン氷河の右岸の台地をトラバース気味に登高。このあたりはおだやかな草原地帯がひろがっていて、エーデルワイスの群落はもちろんのこと、ブルーポピー(残念ながらドライフラワーで色はわからず)や、枯れそびれた(?)サクラソウが一輪だけ紫の花を咲かせているなど、苦しいながらも気持ちのいい登りでした。夏にはきっと素敵な花と緑の草原となっていることでしょう。ただし、重荷を肩にしたまま息を止めて花の写真などを撮っていると心拍数は爆発的に上昇! ここには平地の半分しか酸素がないことを実感させられます。

C1への途中で一輪だけ咲いていたサクラソウの仲間


隊員たちのなかには、やはり新高度での不調を訴える者多数。明日は氷河を渡ってアウトライアー南西壁の基部にあたるC2への荷揚げですが、さて、大丈夫だろうか・・・?


ようやくC1に到着。残念ながらアウトライアーは雲の中に隠れていた

 

第一印象は「今年は雪が多い!」。登山活動もいよいよ本格的な局面へ

Date 2013年10月03日(木)


10月1日にC1へ移動、10月2日はC2へのルート工作と、登山活動もいよいよ本格的な局面を迎えることになりました。長い間、キャラバンの話が続いて退屈されている読者の方もいらっしゃるかもしれませんが、ここから登攀活動はいっきに急展開を見せますのでどうぞお楽しみに。とはいっても、通信環境、(特にソーラーバッテリー関係)のために更新が滞るかもしれませんが、その節はご了承ください。

本日、10月2日はC2予定地まで登攀用具の荷揚げとルート工作を行ってきました。メンバーは高所ポーターたちのほかに萩原・村上・本田の3名。他の隊員たちはC1にて待機となっています。

氷河末端付近を行く村上隊員


クレバスを避けながら氷河地帯の迷路を行く


BCからしばらくガレ場を登ると、ブロークン氷河の舌端に到着。20~30mほどの厚さの氷が、谷底に向かって傾いでいる姿は見ものです。ここからアイゼンに履き替えて雪と氷の上を、クレバスを避けながら登高。正面にはアウトライアー東峰の巨大な南西壁が、まるで我々の行く手をさえぎるかのように高くそびえたっています。

今年は雪が多い! というのが第一印象でした。

今回、我々がルートとして選ぼうとしているのは、前回(2010年)と同様、東峰の肩に向かってせりあがる雪の斜面を詰め、懸垂氷河の左端からコルへと登り、国境稜線を頂上に向かうというラインです。雪面をルートに選ぶ以上、雪のコンディションが重要なのですが、前回の写真と比べると明らかに壁全体に着雪が多いようです。

ここのところ天気も朝だけがよくて午後には雲が湧き、霰を降らせるという周期が続いていますが、登頂予定日の10月10日前後にはなんとか乾季の晴天に恵まれたいものですね。


氷原の奥、南西壁の取り付き手前付近をC2予定地とした。標高は5800m。右のドーム状のピークが今回目指すアウトライアー東峰で、右肩に向かって伸びる雪壁が今回の登攀ルート。懸垂氷河を左から回り込んだのち、稜線に向けて核心部となるミックス壁が待ち受ける

 

食の最終兵器

Date 2013年10月04日(金)


「炎の料理人」ジャガティスの愛情料理も、アマノフーズの超美味フリーズドライ食品でも、どうにも食が進まない日というのがあります。そんなときのために用意してきているのが食の最終兵器。やっぱり日本食が基本でしょう、というなかで、私が持ち込んだのは「雲丹(うに)のり」と「雲丹めかぶ」でした。

7月に大山に行った帰りに、米子鬼太郎空港の売店で目にして「ぜったいにヒマラヤで食べてやる!」と、心に誓って持ち込んだ自信のひと品です。効果は絶大! 高度障害に侵された胃袋に心地よい刺激が加わり、元気回復。白いごはんに、「とりあえずひとりスプーン半分ずつだからね!」 という隊長命令にもかかわらず、学生たちの無限胃袋の前にあっという間にカラになってしまいました。

これに懲りて、あとひとつの「雲丹めかぶ」のほうは、頂上アタック前夜の戦闘食として、ザックの奥深くにしまいこんであるのです。

食の最終兵器、「雲丹のり」と「雲丹めかぶ」

⇒次号/天候が一転、悪天が続き停滞を余儀なくされる

プロフィール

萩原浩司(はぎわら・ひろし)

1960年栃木県生まれ。青山学院法学部・山岳部 卒。
大学卒業と同時に山と溪谷社に入社。『skier』副編集長などを経て、月刊誌『山と溪谷』、クライミング専門誌『ROCK&SNOW』編集長を務めた。
2013年、自身が隊長を務めた青山学院大学山岳部登山隊で、ネパール・ヒマラヤの未踏峰「アウトライアー(現地名:ジャナク・チュリ/標高7,090m)」東峰に初登頂。2010年より日本山岳会「山の日」制定プロジェクトの一員として「山の日」制定に尽力。
著書に『萩原編集長危機一髪! 今だから話せる遭難未遂と教訓』、『萩原編集長の山塾 写真で読む山の名著』、『萩原編集長の山塾 実践! 登山入門』など。共著に『日本のクラシックルート』『萩原編集長の山塾 秒速!山ごはん』などがある。

アウトライヤー 萩原編集長のヒマラヤ未踏峰挑戦記

NHKの「実践! にっぽん百名山」の解説などでおなじみ、萩原編集長こと萩原浩司氏は、2013年秋、ネパール・ヒマラヤ未踏峰、「アウトライアー(現地名=ジャナク・チュリ)」を目指した。 母校である青山学院大学の山岳部のOB会長も務める萩原氏は、自ら総隊長としてこの遠征隊に参加、その準備から登頂、そして帰国までを萩原氏の目を通しながら伝えていく。

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