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山菜とソウルフード|北信州飯山の暮らし

ずくなし暮らし 北信州の山辺から
その他 2020年06月13日

日本有数の豪雪地域、長野県飯山市へ移住した写真家・星野さん。里から森と山を行き来する日々の暮らしを綴ります。第5回は、春から初夏の食卓に並ぶ山菜の話。

文・写真=星野秀樹

 

 

「おとうさん、なんか食べるもの採って来て」と、かみさんが言う。

おいおい、何を気楽に。ウチの貧相な畑にゃあ、まだなんにも食べ物なんてありませんよ。
なんてヤボな返答はしない。
なにが食いてえんだ、なに、菜っ葉か。じゃあ、ウルイでもとってくっか。
と、こうなる。
春が、競り上がる周辺の山々の新緑とともに、初夏という季節に変わるころ。
晩飯ごとに繰り返される、我が家の会話である。

フキノトウ、コゴミで始まった山菜の季節は、ワラビ、ゼンマイ、タラノメ、ウルイ、ミツバアケビ、そしてウド、タケノコ、コシアブラ、という感じに標高を上げつつ移り変わっていく。今挙げた山菜が、だいたいウチから徒歩圏内で採れるもの。時期に合わせた「山菜地図」を頭の中に描いておくと、毎夕繰り返される奥様のリクエストにも応えやすい。特に我が家の強い味方はワラビだ。ウチの裏の斜面はワラビ畑になっていて、昼頃に採って、すぐに木灰でアク抜きをしておけば夜には食える。敷地に沿った道路端にも出るワラビは、時々路線バスの運転手さんが時間調整の合間に、「いつも悪いね」とか言って採って行ったりする。あのおじさん、いい職場で働いているなあ、なんて思ってしまうのだ。

 

 

そんなワラビはウチの常備野菜ならぬ、常備山菜の代表選手。他にはウルイ、ウド、そしてタケノコが常備山菜のメンバーだ。
ここで言う「タケノコ」は、いわゆる「根曲りダケ」のことで、雪国のヤブ山を覆うチシマザサを指す。人気の山菜なので、この時期のヤブ山はタケノコ採りで大賑わいだ。特に信越県境稜線が通る関田山脈上では、信越タケノコ争奪線が繰り広げられている。時にはタケノコ採りに夢中になって行方不明、消防団出動せよ!なんて事態も起きている。ありがたいことに我が家には小さな笹ヤブがあって、その日の分のタケノコを労せずして採ることができる。

このタケノコは、焼いたり煮たり炒めたり、水煮にして保存したりと、非常に汎用性の広い食材だけど、やはりなんといっても「タケノコ汁」でしょう。そこで重要なのが、「サバの水煮缶」。この「サバ缶」は、飯山市民のソウルフードとも呼ばれ、家庭料理には欠かせない存在(らしい)。飯山市民のサバ缶消費量は日本一とも言われ、最近の全国的なサバ缶ブームによって品薄が懸念された際には、「飯山市民のソウルフードの危機!」が囁かれたほどだ。豪雪地帯である飯山市をはじめとする北信地域や上越地方山間部では、かつては冬の物流が滞っていたため、保存の利く身欠きにしんなどが貴重なタンパク源として重宝がられてきた。それがもっと手頃な「サバ缶」に取って代わられ、今では食卓に欠かせぬ存在になったというわけ。そういえば我が家の食料棚にもサバ缶がいつもゴロゴロ入っていますなあ。

そしてそんなサバ缶で作るタケノコ汁は、まさにこの地方の「郷土料理」とでも呼ぶべき存在。淡白なタケノコの風味と、濃厚なサバの相性がすこぶるいい。なにしろこの時期にスーパーに行くと、特設コーナーに多量のサバ缶が山積みされていて、いかに飯山市民にとってタケノコとサバ缶の組み合わせが重要なのかが一目で分かる。他にニンジンやタマネギ、ジャガイモなど好みの野菜を入れて、味噌を溶けば出来上がり。ウチではシンプルにタマネギだけ入れて、その深い甘みとサバのコク、タケノコの野趣を味わっている。

家族が多いわりに冷蔵庫が空っ穴のことが多い我が家では、常備山菜と常備「サバ缶」で出来る、ありがたい「お助け郷土料理」。山の畑(山菜)に頼る暮らしには、ほんとにありがたい季節である。

 

 

●次回は7月中旬更新予定です。

星野秀樹

写真家。1968年、福島県生まれ。同志社山岳同好会で本格的に登山を始め、ヒマラヤや天山山脈遠征を経験。映像制作プロダクションを経てフリーランスの写真家として活動している。現在長野県飯山市在住。著書に『アルペンガイド 剱・立山連峰』『剱人』『雪山放浪記』『上越・信越 国境山脈』(山と溪谷社)などがある。

歴史・文化
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