このエントリーをはてなブックマークに追加

見た目が「気持ち悪い」生物は、じつは理にかなった形をしている――アンコウ、ハゲタカ

カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?
たしなみ 2020年07月01日

『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』の著者であり、動物行動学者の松原始さんによる連載。鳥をはじめとする動物たちの見た目や行動から、彼らの真剣で切実で、ちょっと適当だったりもする生きざまを紹介します。第2回は、「キモカワイイ」生き物の話。

キモカワイイの逆襲

アンコウ。この完璧な機能美を見よ!

 キモカワイイ、というのは、考えてみたら残酷な言葉である。「キモいと言われるよりいいでしょ?」を報酬として、いじられキャラの立ち位置を確保してはいるが、決して前置きなしの「カワイイ」には昇格できない。ただしキモカワ系がアイドルグループのセンターを取ったら、この言葉は撤回してもいい。まあ、ないと思うが。

 しかしまあ、言いたいことはわからなくはないのだ。世の中には「外見が整っているわけではないのだが愛すべき存在」というものがある。
 ダンゴウオなんてのはまさにこの類いで、見た目はほぼ『崖の上のポニョ』のポニョか『ドラゴン・クエスト』のスライムである。クサウオ、コンニャクウオになると「キモ」成分が強くなってくるが、愛嬌(あい きよう)はある。

 このキモカワ系の心理は生物学的にどう解釈していいのか全くわからないが、キモカワイイを通り越して完全に「キモい」系の動物もいろいろある。いちいちあげつらって読者を失いたくはないが、ヌタウナギの採餌シーンなんかは相当に気持ち悪い方だろう。

 だが、気持ち悪い系と言われる生物たちを、少し弁護しておこう。
 例えば、アンコウ。鍋に唐揚げにアン肝に、と舌を楽しませてくれる魚だが、見た目は到底、美しいとは言えない。はっきり言えばブサイクである。

 だが、あれは非常に理にかなった形をしている。まず、海底にへばりついて身を隠すための平べったい体。砂地と同化して餌となる生物に存在を気づかれないための、地味な色合い。上を通る餌を見逃さないために、上方に向いた目。
 そして、いかなる餌も決して逃さず飲み込むための巨大な口と鋭い歯、大きな胃袋。これを合理的に配置して設計したら、はい、アンコウになりました。

 彼らは別に見てくれで繁殖相手を選ぶわけではないので、美しさに投資する必要はない。
 生物は生き残ってなんぼなのである。第一、彼らの基準で美醜を決めるなら、むしろ「大きな口が素敵」「たぷたぷ腹こそ美人」となるであろう。

 アンコウを超えて、世界一ブサイクと言われている魚はニュウドウカジカだ。
 これも深海魚なのだが、写真を見ると、なんというか、「リアル人面魚」としか言いようがない。ぶよんとした肌色の皮膚、オバQのような唇、そしてお茶の水博士のような鼻まである。

 とはいえ、海中で撮影された映像を見ると、ちゃんと魚の姿をしている。
 この魚の体には筋肉が少なく、代わりにゼラチン質がたっぷり含まれている。水中でないと形を保てず、網にかかって引き揚げられるとぶにょんぶにょんのグニョングニョンになってしまうようだ。

 なんでそんな不思議なことになっているかというと、ゼラチン質は比重が水よりもわずかに小さく、何もしなくても、かすかに海底から体が浮くらしい。
 ニュウドウカジカはなるべく筋肉を使わずに海底付近を浮遊することでエネルギー消費を最小化しているとのこと。なお、ブサイクと言われつつも縫いぐるみが作られたりして、それなりにウケている魚ではある。

ハゲだから清潔に生きられるのだ

サバンナの太陽が照りつけるとどうなるか……

 鳥の中で気持ち悪いといえば、ハゲコウにハゲワシ、ハゲタカといった連中が筆頭だろう。
 鳥は羽毛に覆われているからこそ美しく、またかわいく見えているので、羽毛をむいてしまうとまさに鶏ガラ、やせ細った姿になる。そういうわけで、「ハゲ」系の鳥の顔はだいたい、美しくない。断っておくが、頭髪が薄い人間がどうだとかは一言も言っていない(私だってそろそろヤバい年なのだし)。

 彼らに共通するのは、大型動物の屍肉を漁る鳥だという点だ。
 自分より大きな死体から内臓や肉を引きちぎって食べる場合、どうしても死体の中に頭を突っ込んで食べなくてはいけない。羽毛が血まみれになった上、熱帯の日差しで乾いてしまったら、これはもう大変である。少々洗ったくらいでは落ちない。
 そうして血肉が付着した羽毛は雑菌が繁殖しやすい状態にある上、その間近に目、口といった感染経路になりやすい部位がある。

 そういった感染の例として、シャレにならない例を挙げておこう。
 1800年代の半ばまで外科医はロクに手や道具類の消毒もせず、どうかすると固まった血でバリバリのエプロンをつけたまま手術を行っていたというが、さぞ恐ろしい状況だったろう。

 実際、外科医が処置する場合と助産師が処置する場合とでは出産後の産褥熱(出産後の感染症の総称)による死亡率が全く違い、外科医が処置すると10倍ほど高かった、という統計まである。
 外科医は様々な病原体に接触するため、きちんと手洗いや殺菌を行わないと自分自身が感染源になってしまうからである。

 というわけで、ハゲタカやハゲワシはいっそ頭の羽毛をなくしてしまい、清潔を保ちやすくしていると考えられている。
 あれがモフモフで美しかったら即死なのだ(まあその前に血まみれでカピカピになっていると思うが)。

(本記事は『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』からの抜粋です)

 

『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』発売中

蛇蔵氏(『天地創造デザイン部』原作者)、驚愕! 
「待ってた! ヘンで終わらない、動物のワケがわかる本!」
発売たちまち重版!

じつは私たちは、動物のことをぜんぜん知らない――。私たちが無意識に抱いている生き物への偏見を取り払い、真剣で切実で、ちょっと適当だったりもする彼らの生きざまを紹介。動物行動学者が綴る爆笑必至の科学エッセイ! 本書では、ベストセラー『カラスの教科書』の著者・松原始氏が動物行動学の視点から、 人が無意識に生き物に抱いている〈かわいい〉〈狂暴〉〈やさしい〉〈ずるい〉などのイメージを取り払い、真実の姿と生きざまを紹介します。 身近な生きものを見る目が変わるとともに、生物学の奥行きと面白さが感じられる一冊です。


『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』
著者:松原 始
発売日:2020年6月13日
価格:本体価格1500円(税別)
仕様:四六判288ページ
ISBNコード:9784635062947
詳細URL:https://www.yamakei.co.jp/products/2819062940.html

amazonで購入 楽天で購入


【著者略歴】
松原 始(まつばら・はじめ )
1969年奈良県生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了。専門は動物行動学。東京大学総合研究博物館 ・ 特任准教授。研究テーマはカラスの行動と進化。著書に『カラスの教科書』『カラス屋の双眼鏡』『鳥マニアックス』『カラスは飼えるか』など。「カラスは追い払われ、カモメは餌をもらえる」ことに理不尽を感じながら、カラスを観察したり博物館で仕事をしたりしている。

同じテーマの記事
山というフィールドでどう楽しむか 動物行動学者・松原始先生 著者インタビュー【後編】
発売後、増刷を重ねている話題の話題の科学エッセイ『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』。その著者であり、動物行動学者の松原始先生へのインタビュー後編です。 生き物の専門家ならではの山の歩き方、楽しみ方についてお聞きしました。
カラスは意外と気が弱い? 動物行動学者・松原始先生 著者インタビュー【前編】
発売後、増刷を重ねている話題の科学エッセイ『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』。その著者であり、動物行動学者の松原始先生へインタビュー! カラスの研究や、ユーモア溢れる文章の背景、山を楽しむヒントもお伺いしました。今回は前編です。
カラス、ハト、イカ、ベラーー鏡に映る自分がわからない「意外すぎる動物」とは?
『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』の著者であり、動物行動学者の松原始さんによる連載。鳥をはじめとする動物たちの見た目や行動から、彼らの真剣で切実で、ちょっと適当だったりもする生きざまを紹介します。第11回では、動物、人間それぞれの「知能」とは何かを考えます。
「アホ扱い」される生物の意外な真実――ハトとアリとイワシ
『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』の著者であり、動物行動学者の松原始さんによる連載。鳥をはじめとする動物たちの見た目や行動から、彼らの真剣で切実で、ちょっと適当だったりもする生きざまを紹介します。第10回は、動物たちの「賢さ」について。
記事一覧 ≫
最新の記事
記事一覧 ≫
こんにちは、ゲストさん
◆東京の天気予報[山域を変更]
明日

曇時々雪
明後日

曇のち晴
(日本気象協会提供:2021年1月22日 17時00分発表)
[ログイン]
ユーザ登録・ログインすることで、山頂天気予報を見たり、登山履歴を登録・整理・分析して、確認できます。
NEW 冬の必携装備! チェーンスパイクの新モデル
冬の必携装備! チェーンスパイクの新モデル ブラックダイヤモンドから新登場の3つのチェーンスパイク。元ガイドの保科雅則さんと、12月下旬の八ヶ岳でチェックしました。
NEW パタゴニアの新しいテクニカルフリース
パタゴニアの新しいテクニカルフリース パタゴニアのRシリーズに、寒冷下での活動に適したジグザグ織りの新モデルが登場。アンバサダー3人の使い方にも注目! 
NEW 悠久の大自然を体験 秋田白神山地レポート
悠久の大自然を体験 秋田白神山地レポート 小林千穂さんと、公募で選ばれた6名が秋田白神山地へ。ベテランガイドと五感で楽しんだモニターツアーをレポートします!
NEW 六甲山に登ろう。六甲山ナビOPEN!
六甲山に登ろう。六甲山ナビOPEN! 神戸のシンボル、六甲山。初心者向けの六甲山登山情報を掲載するWEBサイト「六甲山ナビ」が12月18日にオープン!
NEW スノーシューで 雪山を楽しもう!
スノーシューで 雪山を楽しもう! この冬は真っ白でふかふかの雪の上を歩くスノーシューハイキング! おすすめエリアや楽しみ方を紹介します。
NEW 晩秋の蒜山で最新保温ウェアを試す【山MONO語り】
晩秋の蒜山で最新保温ウェアを試す【山MONO語り】 山岳ライター高橋庄太郎さんの連載。今回は新素材を使ったノローナのアクティブインサレーションをチェック!
NEW アルプス山麓5市町村 移住者に聞く【山の麓に住む】
アルプス山麓5市町村 移住者に聞く【山の麓に住む】 北アルプスの山麓、小谷・白馬・大町・松川・池田の5市町村で暮らす。5人の移住者に仕事、遊び、暮らしについて聞きました。
NEW 山で見つけた「巨岩」「奇岩」フォトコン開催中
山で見つけた「巨岩」「奇岩」フォトコン開催中 なぜ、ここにこんな岩が? スマホの中に、そんな巨岩・奇岩の写真がありましたら、ぜひご投稿ください!
NEW 初心者から楽しめる、関西の日帰り登山コース
初心者から楽しめる、関西の日帰り登山コース 3~4時間で気軽に登れる、滋賀・京都・奈良・大阪・兵庫にある人気・定番コース6選
紅葉フォトコンテスト、開催中!
紅葉フォトコンテスト、開催中! 紅葉シーズンも終盤、街の街路樹の木々も色づいてきました。今は標高1000m以下の山が、紅葉の見頃です!
登山は「下山」してからが楽しい!?
登山は「下山」してからが楽しい!? 登山後、すなわち下山後の楽しみの1つが山麓グルメ。ご当地名物料理から、鄙びた食堂の普通の料理まで、その楽しみ方を指南!
渋滞の心配なし! 駅から歩いてらくらく登山。
渋滞の心配なし! 駅から歩いてらくらく登山。 日没時間が早まる時期は、アクセス時間を減らして行動時間を長くするような登山にしたい。「電車で行ける・帰れる山」で時間を短...