氷の道「チャダル」をたどり、奥地の村へ 『冬の旅ザンスカール、最果ての谷へ』

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評者=栗田哲男(辺境写真家)

冬の旅ザンスカール、最果ての谷へ

著:山本高樹
発行:雷鳥社
価格:1800円+税円+税

チベット文化が色濃く残るラダックとザンスカール、二つの地域は隣り合いながらも険しい山々に隔てられている。夏の間は峠道でつながっているものの、冬になれば大雪により道は閉ざされてしまう。そうしたなか、両地を結ぶように一本の川が激しく流れている。ザンスカール川だ。驚くことに、この川が凍結することによって、そこに「道」が現われるという。彼らはその危険な氷の道を「チャダル」と呼ぶ。本書は、著者自身がチャダルを歩きラダックからザンスカールの町へ、さらにはその奥地の村へと、冬の四週間を費やして旅をした記録である。

しかし旅行記という形をとりながらも、その本質は、訪れる先々で触れ合うザンスカールの人々の生活を描いた作品と言えるだろう。彼らの暮らしの事細かな描写により、私たち読み手は異国の辺境地の人々の営みを目の前で見ているような気分となる。その丁寧な綴り方に、長期滞在も含め幾度となく現地へ通い続け、人々と交流を深めてきた著者の並々ならぬ思いを感じる。

本書は、重厚な写真が多数掲載され、写真集の一面もある。当地の様子をうかがい知ることのできる数少ない資料としても大きな価値があるだろう。

なお、著者は過去に『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々』も執筆。互いに独立した作品ではあるが、セットで読むと当地の理解がより深まる。

山と溪谷2020年7月号より転載)

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