段差のある階段が続く道。上手く着地するには、身体を支持する後ろ足の使い方を確認しよう!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

長い下り道が続く道や、段差の大きな階段がある登山道が苦手な登山者は多い。膝への負担も、脚全体への衝撃も大きい。こんな場所では、どんな点に注意して歩けばよいのだろうか?

 

皆さんこんにちは、登山ガイドの野中です。今回も「山の歩き方」について頂いたご質問を元に、アドバイスを行います。今回は、長い下りや、段差のある階段での足の使い方についての質問を解説したいと思います。

※いただいた質問文は簡潔に再編集しています。

 

質問:階段が続く下りで、着地の仕方がわからない

三つ峠・燕岳のような2時間以上続く下りや、霧降高原のような階段が続く場所で、右膝のお皿の内側が痛み、足を降ろすのが遅くなってしまいます。とくに階段では右足から降ろすので遅くなってしまいます。
サポートタイツを使用していて、以前、スキーで左足首と左ひざのじん帯を延ばしたことに加えて、右足の膝蓋骨骨折を経験しています。
下りの時に「足をそっと」「力を抜く」などという着地の仕方がいまいちわかりません。

(60歳・女性・登山歴1-5年)

 

回答:体を支えている支持脚(後ろ足)をうまく使うことが重要

以前に左足首のケガをされているということですが、左脚の足関節(足首)が右脚と比べると硬くなっていないでしょうか? 左右の足関節に硬さの差がある場合、段差の下りなどでは支持脚(後ろ足)で十分に体重を支え切れなくなる場合があります。仮に左の足関節が硬いとすると、左足が支持脚になった場合の踏ん張りが弱く、右足の着地衝撃が大きい状態が起こりやすくなってしまいます。

また、その着地衝撃が大きいことに上手く対処し、「柔らかく着地しよう」と強く意識した結果として、着地した瞬間に膝関節を曲げて衝撃を吸収して歩いているのかもしれません。このような着地した瞬間に「カクっ」と膝を曲げる癖がある方が稀にいますが、こうした癖は膝関節に多大な負担をかけ、膝痛の原因になりやすくなります。

段差が大きい場所で着地衝撃を和らげたい場合に、つま先着地を行って足関節を曲げて衝撃を吸収するのは問題ありません。ただし膝関節を曲げるのは、膝のトラブル、特に「鷲足炎」という膝のお皿の内側下部が痛む原因につながりやすいので注意が必要です。

下山での歩き方は「足をそっと」とか「猫のように」とか「足音を立てずに」など、これまで抽象的な言葉で解説されることが多い傾向がありました。このような抽象的な解説は、理論的に歩行動作を解説したものではないため、全く間違ったことは言っていないですがが、歩き方に悩んでいる方が参考にできる情報ではないと考えています。 

 

結局、どう下れば膝への負担が少なくなる?

では結局のところ、具体的にどのように下山するのが膝関節などへの負担が少なく歩けるのでしょうか? 下山と言っても、なだらかな斜面、段差のある場面などいろいろな環境がありますが、全ての下山に共通することとして、重要となる動作のポイントを3つに分けて整理しますので、まずはこの点を確認してみてください。

 

1.スピードを制御して歩くためには姿勢を起こして、支持脚(後ろ足)に重心を乗せる

着地衝撃を抑えて下るためには着地する前足ではなく、前足を踏み出す時に体を支えている支持脚(後ろ足)がうまく使えることが重要となります。そして、その支持脚が十分に役割を果たすためには、支持脚の上にしっかり重心が乗った状態で下山が出来ていることが重要です。

背骨が曲がったり、前屈み姿勢だったりすると、頭が前に出る姿勢になるので、支持脚に重心が乗りにくく、着地衝撃の大きな歩き方になってしまいます。 

前屈み姿勢で重心が支持脚に乗っていない姿勢(左)と身体にうまく乗っている姿勢(右)の違いを確認

 

2.支持脚(後ろ足)の役割を最大限に生かすためには股関節を伸展させる柔軟性が必要

前足が着地するぎりぎりまで、出来る限り長く支持脚が体重を支えていることが出来れば、着地衝撃は少なくなります。このためには、支持脚の靴底全面が長く地面に接していることが重要です。

しかしながら股関節が硬い方は、支持脚の踵が早く浮き上がってしまい、靴底全面で接地できている時間が短くなり、支持脚に重心が乗っている時間も短くなることで、勢いの付きやすい下山歩行になってしまうのです。上手くスピードを制御した下山を行うためには、股関節を前後に伸展させることができる柔軟性が欠かせません。 

股関節を前後に伸展させることができる柔軟性が大切になる

 

3.支持脚が十分に力を発揮するためには、足関節の柔軟性と周囲筋の筋力が必要

特に段差の大きな場所で、長く支持脚が体重を支えるためには、支持脚の膝がつま先よりも前に出るほどに大きく足関節を動かして踏ん張れることが重要となります。

そのためのトレーニングとしてスクワットがあります。最も一般的なノーマルスクワットは注意点として、 「つま先よりも膝が前に出ないようにしゃがむ」ことを聞いたことがある方は多いと思います。しかし、スクワットはあくまで平地で立ち止まって何度も同じ動きを反復する運動ですので、関節などへの負荷を減らす目的で「膝を出さない」ことが重要視されているだけです。

ノーマルスクワット:お尻を落とすようにしゃがみ、立ち上がる動作を反復するトレーニング


登山ではつま先よりも膝が前に出た状態で膝を曲げ伸ばしする場合があるのに対し、お尻を落とすようにしゃがみこみことはほとんどありません。

前者は足関節を動かす動作になりますので、足関節の柔軟性や、足関節を曲げた状態で体重を支えるための前脛骨筋などの足関節周囲筋の筋力を鍛えることが登山では重要になります。

そこで、登山者が下半身の筋力強化を行う場合は、ノーマルスクワットよりもスプリットスクワット(足を前後に開くスクワット)の方が適していると言えますので、スプリットスクワットを行うことをオススメします。

なおトレーニングする際には、前後に開く脚を左右入れ替えて行うようにしてください。

スプリットスクワット:後ろ脚の膝を落とすようにしゃがみこみ、立ち上がる動作を反復するトレーニング

 

歩行癖の再確認を 

着地衝撃を抑えた、柔らかな下山歩行が出来ていないとすれば、上記3項目のどれかに問題があると思いますので、問題がある点があれば歩き方を変えられるように注意しましょう。

また、質問いただいた方は、これまでに怪我が多いようですので、必ず体のどこかに偏った体の使い方の癖が身についていたり、柔軟性に左右差がある場所があったりするのではないかと思います。

間違った歩行癖や柔軟性に差がある場所を見つけ、そこを改善することが出来れば膝への負担は軽減されると思われます。拙著「膝を痛めない、疲れない Q&Aでわかる山の快適歩行術」の中では12のチェック項目を設けて、自分自身の歩き方の中にある弱点を見つけられるようになっています。こちらも是非参考にしてみて頂ければと思います。

次回も、既に頂いたご質問の中からお答えしていく予定です。

膝を痛めない、疲れない Q&Aでわかる山の快適歩行術

「膝が痛くならないように歩くためにはどうすればいい?」、「どうしたら山をうまく歩けるの?」
500人以上の登山者に向けて実践講習会を開催し、歩き方の悩みを解決してきた著者が編み出した極意。登山ガイドを続けていく中でその弱点を克服するために作り上げた「歩き方」を理論的に紹介。

著者: 野中 径隆
価格: 1,500円+税

Amazon で見る

 

プロフィール

野中径隆(のなか みちたか)

Nature Guide LIS代表。大学3年の夏に「登山の授業」で山の魅力に取りつかれ、以来、登山ガイドの道へ進む。「初心者の方が安心して登山できる」環境づくりを目標に積極的にWeb上で情報を発信するほか、テレビ出演、雑誌、ラジオなど各種メディアでも活躍中。
日本山岳ガイド協会・認定登山ガイド、かながわ山岳ガイド協会所属。
⇒ Nature Guide LISホームページ

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

日頃、あまり客観視することのない「歩き方」。しかし山での身体のトラブルや疲労の多くは、歩き方の密接に結びついている。 あるき方を頭で理解して見つめ直せば、疲れにくい・トラブルを防ぐ歩行技術に近づいていく。本連載では、写真・動画と一緒に、歩き方を論理的に解説。

編集部おすすめ記事