雪上歩行の際に正しいフォームで歩けてますか? 積雪期・残雪期の登山で特に役立つ「回内と回外」の知識

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今回のテーマは「姿勢や体の動かし方が崩れる原因」についての解説です。足首の「回内と回外」についてご存じでしょうか? 自身の歩行フォームを知っておくと、足のトラブルにどう対処すれば良いかが見えてきます。とくにアイゼン歩行の際には、この足の状態は顕著に見えてくるので、過剰回内・過剰回外がないかどうか、確認することをおすすめします。


これまで、拙著「バテない登山技術」の内容を補足する解説を続けて来ました。今回は今までと少しテーマを変えて、姿勢や体の動かし方が崩れる原因についてのお話です。特に、積雪期・残雪期の登山で役立つ内容が含まれているので、このタイミングで解説しておきたいと思います。

歩行フォーム(姿勢)が膝痛や筋肉痛などの色々なトラブルに影響することはこれまでもお伝えしてきました。
今回は、そうしたフォームや動作の崩れに影響する足首の「回内と回外」について動画を交えてご説明します。

「回内? 回外?」、聞きなれない言葉だと思いますが、歩行時に足は必ず回内と回外を繰り返しています。下のイラストでは踵を接地した状態で、思いっきり回外・回内すると一般的にどの程度指先が上がるかの角度を示していますが、実際の歩行時はこのように指が上がることはありません。

しかし、歩行時に回外した状態で着地し、着地の際の衝撃を吸収するために土踏まずをつぶす様に回内し、その後地面を蹴る際に再び少し回外するというのが足の構造上必要な動きになります。

衝撃を吸収する時は回内し、力を入れる時は回外、という形で足はその複雑な骨格構造を生かして動くように設計されています。しかし、中には必要以上に大きく回内・回外をしてしまう人もいて、この状態を「過剰回内」「過剰回外」と呼んでいます。

私は講習などで多くの登山者の登山靴を履いた状態での歩行の様子を見てきました。その中で、「過剰回内」「過剰回外」でなかったとしても、通常よりも少し大きく回内したり、回外したりする状態であると(回内足傾向・回外足傾向)、登山時のパフォーマンス低下や足のトラブルに影響を与えていることに気づきました。

日常生活では問題ないレベルの回内足傾向・回外足傾向であったとしても、登山は強度の高い運動を長時間行うために、そのわずかな足首の動きの癖が、下半身全体、場合によっては全身に影響を与えるのです。

ではここでさっそく動画を見て、順を追って解説していきます。

動画1人目と2人目の2人は回内足傾向があるため、それに伴って歩行時に膝が内側に動く「ニーイン」の状態が見られます。両膝の距離が近く、それに対して両足の距離が離れています。また、回内足傾向が強い方ほど母指球で踏ん張る癖があるため、外股(つま先が外側を向く)になり、それに対して膝が内側に動くので、膝関節に捻じれの負担がかかり、膝痛を起こしやすくなってしまいます。

また、こうした回内足の癖が膝や股関節の動きに偏りを生み出すので、大きな段差など大股で歩かなければならない場面でバランスを崩しやすくなってしまいます。

回内足の癖がある、1人目(左)と2人目(右)
回外足の傾向がある、3人目(左)と4人目(右)

動画3人目と4人目は回外足の傾向があるため、歩行時に両膝が離れた歩き方になります。両膝の距離が遠く、それに対して両足の距離が近くなります。

また、回外足傾向が強い方ほど小指側に体重が掛かりやすく、体のバランスを外側に崩しやすくなります。特に雪道など足場が沈む場所では足場が外側に崩れるため歩きにくくなります。脚の外側で踏ん張ることが多く、外側広筋(前太腿外側の筋肉)などに負荷が集中する傾向もあります。

さらに、靴底が内側を向くような状態になるため、アイゼン歩行の際はアイゼンの爪を反対側の足にひっかけやすくなる歩き方になります。

回外・回内で動く足首はそれほど大きく傾く必要がないため、正常な範囲で回外・回内をしている分には登山靴を履いた後ろ姿を見ても足首が傾いてようには見えないものです。

5人目は私の歩いている様子ですが、回外・回内の癖が少ないとこのような歩き方になります。

登山のバランス能力は足元から

登山は不整地を歩きますので、動画のような雪道や、大きな段差を登る時などに、片足立ちが不安定であればあるほど疲れやすくなります。そして、バランスを崩したり、転倒などの原因につながったります。足場が崩れやすい不安定な路面を歩く時に、地面を崩したりスリップせずに歩く能力は、こうした足の癖の影響を受けているのです。

片足立ちを安定させるために、「バランス能力」が登山では重要なことは皆さんご存じだと思いますが、このバランス能力に回内足・回外足が大きく影響します。片足立ちなどのバランス能力のトレーニングを行うことも大事なことですが、もしあなたが「回内足・回外足」の傾向があるようであれば、その癖を直すことはそれ以上にもっと重要なことです。

例えば、過剰回内の方は、そのために偏平足になり、歩行時の「ニーイン」動作につながります。そして、そのことが体への負担を引き起こし、膝痛や外反母趾、足底筋膜炎など、様々な足のトラブルにつながっていく可能性があります。

私が主催する講習会にも外反母趾や歩行時のニーイン癖による膝痛などに悩まされている方が受講されていますが、ご自身が「過剰回内」であることを認識できている方は稀です。そのため、登山時に何らかの足のトラブルを抱えている方は、スポーツ整形外科やスポーツ治療が得意な整骨院などに足の構造を理解した専門家に足を見てもらい、過剰回内・過剰回外がないかどうか、確認されることをおすすめします。

そして、そうした癖があった場合は、足の状態を改善するためのストレッチやトレーニングを教わって取り組み、そして回内・回外への対策を考えられているインソールを使用することをオススメします。

積雪期・残雪期登山で、安定して歩くために

まず、回外足傾向がある方は、その癖が強い方ほど歩行時にアイゼンの爪をひっかけやすくなります。また、回内足傾向がある方も外股の癖が強い方ほど、踵の内側側の爪をひっかけやすくなります。

これは、足の動きの癖が原因ですので、どんなに「アイゼンをひっかけないように」注意をしていたとしても、疲れて集中が途切れたり、他のことに意識が向いた時に爪をひっかけたりしてしまいます。そのため、アイゼンの爪をひっかけることが多い方は、回内足傾向・回外足傾向を改善したいところです。

これ以外にも、回内足傾向・回外足傾向がある方は、転倒・スリップなどのトラブルが起こりやすくなります。これは、どちらの場合も靴底に対する荷重に偏りがあって、アイゼンの爪を全て使う「フラット・フッテッィング」が上手く出来ないことが原因です。そのため、雪道のトラバースや斜登行など、急斜面での動きも苦手になってしまいます。

さらに、踏み込むと靴が沈みこんでしまうような、踏み固められていない新雪の雪道や、残雪期の緩んだ雪道では、荷重が偏っているために踏み抜きやすく、バランスを崩しやすい状態になります。これは雪道に限ったことではなく、無雪期でも足場の悪いガレ場・ザレ場で足場を崩す原因になります。

それに対して、踏み固められた雪面や、安定した路面の登山道では、多少の回内足傾向・回外足傾向があったとしても、足元が崩れないためそもそもバランスを崩しにくいのです。ですから、不安定な雪道やガレ場・ザレ場が苦手だという方や、上手く歩けずにスリップすることが多い方は、それは脚力(体力)や集中力の問題ではなく、回内足・回外足に原因があるかもしれません。

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今回説明した、回内・回外は専門的で少し難しいテーマのため、これまで雑誌や本でも取り上げられることが少なく、「知らなかった」という方も多いかもしれません。しかし、情報が少ないながらも、足にトラブルを抱えた方にとっては、特に重要なテーマになります。

回内足傾向・回外足傾向を改善し、健康な足を手に入れることが出来れば、登山のパフォーマンスが上がるだけでなく、高齢になってからの歩行寿命が延びます。ご質問などありましたら、ヤマケイオンラインのお問合せフォームからご連絡ください。

なお、私が定期的に開催している講習会では、動画撮影の後に、回内・回外も含めてフォームチェックを行ってアドバイスを行っています。興味のある方はホームページから最新の開催情報をご確認ください。

プロフィール

野中径隆(のなか みちたか)

Nature Guide LIS代表。大学3年の夏に「登山の授業」で山の魅力に取りつかれ、以来、登山ガイドの道へ進む。「初心者の方が安心して登山できる」環境づくりを目標に積極的にWeb上で情報を発信するほか、テレビ出演、雑誌、ラジオなど各種メディアでも活躍中。
日本山岳ガイド協会・認定登山ガイド、かながわ山岳ガイド協会所属。
⇒ Nature Guide LISホームページ

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