登山中にバテないために――。「重心移動」を意識しながら、シチュエーションによって歩き方を変えよう!

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多くの登山者は「バテた~」という経験をしたことがあるはずだ。この原因を単純に「体力が足りないから」とするのではなく、様々な面からバテない方法を指南したのが書籍『プロガイドの新提案 バテない登山技術』。本書を企画・執筆した野中径隆ガイドが、本書に記載した内容でポイントになる箇所や補足事項などを改めて説明する。


これまで登山ガイドとして活動してきて、その指導経験から、水分補給にしても、靴ひもの結び方にしても、登山の「基本中の基本」と言える部分をまだまだ知らない方が多いと感じています。そうした経験を踏まえて、私自身が「これだけは知ってもらいたい」と考えた、バテないための最低限のノウハウを集めて、一冊の本にしたのが2022年3月に発売した「バテない登山技術」です。

発売から半年が経ちましたが、今でも反響が続いていて有難く感じています。イラストや表を多く入れて、分かりやすくまとめたつもりです。しかし、特に体の動きに関する部分などは、やはり動画での解説もあるとより理解が深まります。

そこで、山での歩き方について、より理解を深めて頂くために、毎回1つのテーマを動画を交えて解説することにします。今後複数回に渡って連載していく予定です。

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さっそくですが1回目のテーマとして「重心移動」を取り上げます。バテない登山技術では、第3章「重心をコントロールして歩くコツ」にて19ページにわたって登山歩行時の重心移動について解説していますが、本を読んでいない方のために少しおさらいしながら説明します。

陸上競技では早く走るために、そして長距離を楽に走るためにも、重心移動を活かした体の動きが指導されています。登山でも同様に、登り坂でもスムーズに前進するため、また長時間にわたり楽に歩き続けるために、重心移動を活かした体の動きが必要になります。そこでまずは、そもそも「重心移動とは?」という点から触れておこうと思います。

山で歩く時は基本的には常に前方に向かって足を踏み出して歩きます。足を前に一歩踏み出して、一歩前進する際に、

(写真1)のように右足だけを踏み出して進むと、身体重心は後ろ足側に残っているので重心移動が起こっていません。

これに対して、②(写真2)のように右足が一歩前に踏み出す動きに合わせて上半身が動いていると、重心移動が起こります。

①右足だけを踏み出して進むと、重心移動が起こっていない
②右足が一歩前に踏み出す動きに合わせて上半身が動き重心移動が起こる

歩行運動において主に活動するのは下半身の筋肉であり、上半身はただの“重り”で、何の役にも立っていないように思っていませんか? 確かに歩くだけなら上半身の筋力を積極的に使うことはありませんが、歩行時の姿勢(上半身と下半身の位置関係)や体の傾き具合などは重心移動に大きく影響を与えているのです。

次にスローモーション動画で、①と②の動きを見比べて、動作の違いを確認しましょう。

一歩前に進むだけであれば両者の歩き方では大きな差は感じられないかもしれません。しかし、これが一日何時間も歩き続けると積もり積もって大きな差になるのです。

では登山では常に②の重心移動が出来ている歩きをマスターして実践すればいいのでしょうか?

答えはNOです。②は登りや平坦地など、スムーズに前進したい時に適した歩き方です。これに対して①は重心移動をしない歩き方なので、下りに適した歩き方です。歩行速度を制御してスピードが出過ぎない、着地衝撃を抑えて進みたい時に適した歩き方になります。

このように、登山では登りと下りで適した歩き方が異なってくるのです。そのため、登りと下りが連続するルートを歩くと、その切り替えが大変になり、上手く適応することが難しいので、疲れやすくなってしまうという側面もあります。

しかし、それも登りの歩き方、下りの歩き方の切り替えのコツを掴んでいれば、負担を軽減することが可能です。その歩き方を切り替える際に、下半身の中で最も重要な役割を果たしているポイントが「足首」になります。次回はその足首の役割について解説していきたいと思います。

なお「山の歩き方講習会」を定期的に開催しています。11月は滋賀長浜、12月は神戸六甲でも講習を行います。詳しくはホームページをご覧ください。

プロフィール

野中径隆(のなか みちたか)

Nature Guide LIS代表。大学3年の夏に「登山の授業」で山の魅力に取りつかれ、以来、登山ガイドの道へ進む。「初心者の方が安心して登山できる」環境づくりを目標に積極的にWeb上で情報を発信するほか、テレビ出演、雑誌、ラジオなど各種メディアでも活躍中。
日本山岳ガイド協会・認定登山ガイド、かながわ山岳ガイド協会所属。
⇒ Nature Guide LISホームページ

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

日頃、あまり客観視することのない「歩き方」。しかし山での身体のトラブルや疲労の多くは、歩き方の密接に結びついている。 あるき方を頭で理解して見つめ直せば、疲れにくい・トラブルを防ぐ歩行技術に近づいていく。本連載では、写真・動画と一緒に、歩き方を論理的に解説。

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