イメージに 騙されるべからず 『カラスはずる賢い、 ハトは頭が悪い、サメは狂暴、 イルカは温厚って本当か?』

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評者=小野泰子(フリーランス編集者)


「本当か?」と、タイトルでいきなりフックをくらった。つまりは、ずる賢いと思っていたカラスはそうではないし、温厚そうなイルカも実のところ違うというオチなのか?

本書は、動物たちに着せられた“濡れ衣”を晴らすべく、動物行動学者である著者が数々の実例を紹介した一冊になっている。

動物行動学とは、動物がとる行動を観察し、その行動にはどんな意味があるのかを研究する学問だ。学問と聞くと、膝を正して読まねばと若干緊張しそうだが、笑いを交えながら、科学エッセイとしてフランクな言葉遣いで綴られているので、大変読みやすい。

読み進めるほどに、私たち人間はこれほどまでも間違って動物たちをとらえていたのかと愕然。とりわけ、見た目での誤解ははなはだしい。たとえば、カラスもカモメもゴミ漁りの常習犯だが、いっぽうは真っ黒というビジュアルから極悪人扱い、かたや白いほうは『かもめの水兵さん』でのどかに歌ってもらえるほどの愛されよう。パッと見で惑わされてはいけないのだ。「こいつはひどいやつだ」「かわいいやつだ」など、その動物をどう感じるかは、個々人の自由だと著者はいうただし、事実を知らずに決めつけてほしくないと。彼らの性格や生き方を理解し、敬意を払った上でニュートラルに見つめてほしいと願っている。

最後に個人的な話になるが、今、チベットスナギツネの冷めた目付きにハマっている。あの表情とは裏腹に、はっちゃけた性格だとおもしろいなと思う。早速、探りを入れてみようかな。

山と溪谷2020年9月号より転載)

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