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山というフィールドでどう楽しむか 動物行動学者・松原始先生 著者インタビュー【後編】

カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?
その他 2020年09月23日

発売後、増刷を重ねている話題の科学エッセイ『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』。その著者であり、動物行動学者の松原始先生へのインタビュー後編です。 生き物の専門家ならではの山の歩き方、楽しみ方についてお聞きしました。

⇒前編はこちら

空間・展示デザイン © UMUT works
 

松原 始(まつばら・はじめ)
1969年奈良県生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了。専門は動物行動学。東京大学総合研究博物館 ・ 特任准教授。研究テーマはカラスの行動と進化。著書に『カラスの教科書』『カラス屋の双眼鏡』『鳥マニアックス』『カラスは飼えるか』など。「カラスは追い払われ、カモメは餌をもらえる」ことに理不尽を感じながら、カラスを観察したり博物館で仕事をしたりしている。

 

ゼミ発表で大喜利開始? 面白さの秘密とは

――――『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』は、登場する生き物が面白い、ということはもちろんなのですが、先生の語り口が面白いということも大きくて、いったいどのようにこんな風にユーモアある文章力を身に着けられたのでしょう?

それは……わからないです(笑)。わかりませんが、いちおう関西人なので、オチがない話は嫌いってのはありますね。ゼミ発表だろうが学会発表だろうが、ちょっとどこかにオチがないと嫌なんですよ。

僕がいた研究室がそうだったからかもしれません。動物行動学のゼミはなんでオチがつくんだって言われたことがあります。

――――研究発表なのに?

はい。毎週ゼミがあって、学生が自分の研究の進捗などを発表していくんですけど、何故かキャチーなタイトルをつけて盛り上げて、最後に落とす、という風潮があったんです。それで学会発表を含めてそういうものだと思いこまされたのかも。

――――そこで鍛えられたんでしょうか。

ゼミ発表で「ハシブトガラスはなにができないか」という発表をやったんです。そのときは、着席するなり、先輩から「車が運転できない」「因数分解ができない」ってものすごい茶々をいれられました。

――――大喜利みたいに(笑)。

大喜利じゃないぞ、と。
それから一ヵ月くらいしてから、鳥の潜水の研究をしていた先輩に、「ハシブトウミガラスはなにができないか」っていう発表をされまして…しかも「ウミ」だけわざとフォントが小さいんですよね。カラスとは全然関係ない鳥です。そういうことをやられるのにも慣れていました。

――――先輩、いじってきますね…! 先生の文章のおもしろさのルーツがわかった気がします。

 

山へ行って、何もしない

――――ピークハントだけではない、山の面白さというものも、登山者に知ってほしいなと思うのですが…どんな歩き方をされていますか?

登り方はいろいろですが、僕は基本的には生き物がいない山が嫌いなので、というか生き物がいないところが嫌いなので、高山帯はほぼ行かないですね。ライチョウはいるけど…うまくすればホシガラスもいるけど…。
森の中で生き物を探しているのが好きなので、あまり登頂することには興味がなくて、ピークの手前で引き返すこともよくあります。あそこまで行ってなんで登らないの、とは言われますが。
いわゆる低山徘徊みたいなのは大好きですね。麓をうろうろして鳥を探すんです。

行くだけで何もしないのもいいですよ。歩き続けていると動物の方も逃げちゃうので、座り込んで動かない。
屋久島で猿の調査しているときにもやりましたね。森の中や尾根で定点を決めて、朝7時から夕方4時くらいまで、石の上にずーっと一人で座っている。森の中にこれだけ生き物がいるんだってよくわかります。
アリは横切るし、虫は飛んでくるし、サンコウチョウが鳴いているなと思ったらペアで目の前の枝にとまったり。友人はヤマガラが爪先にとまったそうです。

登山は歩いて登っていくものですが、何もしないでじっとしているっていうのもなかなかいいですよ。

 

生き物の専門家・愛好家たちの目線

――――図鑑編集者のような生物に詳しい人と山に行くと、目が違うというか、植物だったり、生き物だったり、見ている場所が全然違うことに気づかされるのですが、先生もやはりそうなのでしょうか?

見つけるの早いでしょう?

――――すごく早いです。「あっ、○○だ!」ってすぐに何か見つけてしまいます。

鳥屋は突然立ち止まって耳に手を当てて「あ~!」とか叫びだしますよ。虫屋も突然立ち止まっては、葉っぱの裏を覗きますからね。
生物系の人間と歩くといきなり止まったり飛んだりしゃがんだりするってよく言われますね。

※生き物の研究者や愛好家を「○○屋」と呼ぶそうです。

――――こっちはバッチリ山の装備で来ているのに、向こうはトートバッグを肩から下げたような恰好で…でも何か見つけると素早いです。シダをどんどん見つけて来たり。

わかります。そうですね、トートバッグに足元もてきとうにスニーカーでどんどん行っちゃいますから。それで慣れちゃってるんですよね。ざかざか採って、バッグにぶちこむ。

蝶々屋とかもそうですね。持ち物は三角紙、それから毒ビンがどこからかサッと出てくる

――――毒ビン?

麻酔薬を小ビンに入れたものです。甲虫などを入れると中でお亡くなりになる。

――――先生はどんな装備ですか?

鳥屋は必ず双眼鏡が出てきます。絶対いるのは双眼鏡とノート。必要なら望遠鏡と三脚。カメラも記録用に持っていきます。あとは目的によりけりですね。

カラスの営巣環境の調査ではレーザー距離計も持っていきました。巣の高さを測るんです。
ほかに、カラスの巣の見え方の調査でドローンを飛ばしたり。杉の木の巣は上からだと丸見えでしたね。逆に松の木では上からは見えないで下からは見えるんですけど。君たちはいったい誰から巣を隠したいんだ…ってわからなくなりました。

――――上をとるか、下をとるかなんですかね…。やはり、生き物を観察するような楽しみ方には知識が必要でしょうか?

知っている方が楽しめはしますが、知識を得るのに必死になる必要はないです。
ハンディ図鑑でも持っていって、分かれば嬉しいですから、はまる人はそれではまるし、はまらない人はどうせはまらないし。あんまり深く考えずにやってみればいいと思います。
子どもだって遊びながら覚えますからね。トンボの採り方とか、ザリガニの釣り方とか。

 

屋久島での調査風景(写真提供=松原 始)

 

濃いめのカラス成分は先生のカラス愛?

――――では最後に、『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』の読みどころを教えてください。

あまりつっこんだところは書いていませんが、動物学の基本的な繁殖戦略や進化戦略のことにも、いろいろな動物の例を挙げて触れました。人間による勝手な吹き替えでない、生物学から見た動物の本音を覗いてみたい方にはお楽しみいただけるかと思います。もちろん、より詳しく知りたい方にはほかにいい本がありますが。

あとは、タイトルにいろいろ並んでいる割に、カラス成分が濃いです。微妙にあちこちにカラスが出てくる。

――――読者からは、カラス愛が溢れている、という声もありました。

愛が溢れているんじゃなくて、カラスの話が一番アクティブにできるからです(笑)。

――――そうは言いつつ愛もあるだろうなと思いますが、これから読む人にはぜひ本を読んでそのあたりも確認してほしいですね。それでは、ありがとうございました。

文=編集部 写真=菅原孝司

 

『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』

著者:松原 始
発売日:2020年6月13日
価格:本体価格1500円(税別)
仕様:四六判288ページ
ISBNコード:9784635062947
詳細URL:https://www.yamakei.co.jp/products/2819062940.html

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書籍・書評 自然観察
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