厄除け登山で山の神仏から元気を頂く! ~高尾山のパワースポット&空海の足跡を巡る~

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見落とすなかれ…知ると楽しいスポット満載の表参道

色濃い修験の名残りを留めた登山道を登り切ると1号路(表参道)に合流します。舗装されていて、高尾山でも最も多くの人が行き交う道の傍らには、多くの史跡が点在していますが、一目散に薬王院を目指して通り過ぎてしまうことが多いもの。ところが、その由来を知ると印象は一変。太田さんが、ひときわ時間を費やして案内してくれたのも、この区間でした。

表参道周辺の史跡(ヤマタイムを元に作成)


薬王院の寺域の入口・浄心門には「霊気満山」の文字が。この“霊気に満ちた山”という意味の言葉は、日本遺産に登録された際のストーリー「霊気満山 高尾山 ~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」にも使用されています。あちこちに貼られた千社札は、江戸時代に流行した「千社参り」の名残。ここで一礼して、薬王院の寺域に足を踏み入れましょう。

たくさんの千社札が貼られた浄心門

 

【9】神変堂(しんぺんどう)

浄心門を潜ると左手に現れるのが神変堂。ここに祀られている「神変大菩薩(じんぺんだいぼさつ)」は、修験道の開祖である役行者(えんのぎょうじゃ)のことなのです。役行者は奈良県の吉野山を起点に全国の霊山を全て歩いて踏破した超健脚の人物です。太田さんの調べでも、数多くの日本百名山に足跡を残したとか。

神変堂の左右にいるのが善童鬼(ぜんどうき=前鬼・男性)と妙童鬼(みょうどうき=後鬼・女性)という役行者に仕えた鬼の夫婦。五人の子供は五鬼(ごき)と呼ばれ、修行者たちのための宿坊を開きました。今でもその末裔が奈良県で宿坊を営んでいるというのも、驚きですね。

役行者には健脚を、前鬼(ぜんき)からは険しい山道を前に進む力を、後鬼(ごき)からは危険を察知した時に戻る力を、それぞれ授かって安全登山ができるよう、お参りしましょう。

神変堂

 

【10】百八石段

しばらく進むと男坂と女坂の分岐にたどり着きます。ここは石段がそびえる男坂を進みましょう。石段の数は百八段、煩悩と同じ数ですね。一段ずつ着実に登りながら、ひとつずつ煩悩を消していきましょう。百八の由来は他にも様々ですが「四苦八苦(4×9=36+8×9=72)」が語源とも言われています。

ちなみに、八十八という数も人生の本厄(男性42歳・女性33歳・子ども13歳)を足した数であり、四国遍路をはじめ、高尾山内などの八十八ヶ所を巡ることは厄払いの意味も込められています。

右手が女坂・左手が男坂の百八石段

 

【11】苦抜け門・三密の道

百八階段を登り切ったら直進せず、右手にある苦抜け門を潜ってみましょう。苦しみを抜けるとその先に続いているのが“三密の道”です。2020年の現在に於いてはまったく違う意味で使われている言葉ですが、本来の仏教的な三密とは密教の秘密の教え、「身口意(しんくい)」身体と口と心のことです。

合掌する「姿」・真言を唱える「口」・仏さまを思い描く「心」の3つを修行することで、「即身成仏(生きたまま仏になる)」できるというのが、空海の教えなのです。

苦抜け門を潜って三密の道へ

 

【12】仏舎利塔(ぶっしゃりとう)

お寺で良く見かける五重塔や三重塔は実はお釈迦様のお墓です。遠くからでも拝めるように背が高くなっており、仏陀(お釈迦様)の遺骨が収められているとされています。まずは仏教の祖に合掌しましょう。

仏舎利塔


高尾山の仏舎利塔の背後には「十善戒(じゅうぜんかい)の道」が設けられており、仏教で最も大切な10の教えである「不殺生・不偸盗・不邪淫・不妄語・不綺語・不悪口・不両舌・不慳貪・不瞋恚・不邪見」が刻まれた門を潜りながら一周することができます。

十善戒の道を行く

 

【13】飯縄大権現(いいづなだいごんげん)像

仏舎利塔の前にそびえるのが、現在の高尾山薬王院有喜寺の御本尊である飯縄大権現です。出自とされる長野県の北信五岳のひとつ・飯縄山では、修行者たちが食べられる砂が採れたとされ、飯砂が飯縄(飯綱)になったと思われます。また、飯縄権現は戦勝の神として崇拝され、多くの戦国武将の信仰の対象とされました。羂索(けんじゃく)と剣を持ち、迦楼羅(かるら)の光背を従えた飯縄権現は、不動明王の化身ともいわれる存在です。山岳修験道を志す人たちは、不動明王となることを目指しているそうですよ。

飯縄大権現像

 

【14】十一面千手千眼(じゅういちめんせんじゅせんげん)観音像

様々な悩みや願いを抱く多くの人々の心が創り出した存在が、千手千眼観音です。その代表的な姿が、この十一面千手千眼観音像。ひとつずつの手に眼が付いています。これによって、それぞれ人々の困りごとを助けて下さるというご利益があります。

十一面千手千眼観音像

 

【15】天狗の腰掛杉

高尾山のシンボルと言えば天狗。御本尊である飯縄大権現の随身として、或いは高尾山で厳しい修行を重ねる修験者に姿を重ねて、崇められて来ました。そんな天狗は、杉の巨木が立ち並ぶ表参道の中でもひときわ大きなこの木に腰掛けて、参拝者を見守っていると伝えられています。

天狗の腰掛杉
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プロフィール

太田昭彦

高校ワンダーフォーゲル部時代に登山の魅力に目覚め、社会人山岳会で経験を積み、旅行業から山岳ガイドに転身。また、20歳の時に高野山で十善戒を授かってから神仏とのご縁が少しずつ深まり、42歳で巡礼先達の道を歩み始める。登山教室「歩きにすと倶楽部」を主宰して登山者に安全で正しい登山知識・技術を伝達しつつ、地元埼玉の秩父三十四観音霊場をはじめとする巡礼の道を歩く人々を先導する「語り部」としても活躍中。著書に『ヤマケイ新書 山の神さま・仏さま 面白くてためになる山の神仏の話』(山と溪谷社)ほか。

(公社)日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・埼玉山岳ガイド協会会長・四国石鎚神社公認先達・四国八十八ヶ所霊場会公認先達・秩父三十四ヶ所公認先達。
https://www.facebook.com/alkinistclub

山の神さま・仏さまに元気をいただく新時代の登山

山岳ガイド&巡礼先達である太田昭彦ガイドの知識を通じて“新型コロナウイルス退散を祈願し、心と身体の免疫力を上げる”新時代の登山スタイルを提唱する連載。

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