厄除け登山で山の神仏から元気を頂く! ~新春の名物・七福神めぐりと登山を楽しもう~
山岳ガイド&巡礼先達である太田昭彦ガイドの知識を通じて“新型コロナ退散を祈願し、心と身体の免疫力を上げる”新時代の登山スタイルを提唱する新連載。第3回目の今回は、新春にめぐることが多い「七福神」にスポットを当てて、七人の神さまの由来、七福神にゆかりのありそうな山や七福神めぐり歩きのモデルコースをご紹介します。
文=鷲尾太輔
お正月と言えば「七福神めぐり」と言う人は多いでしょう。現在は全国に七福神の札所が存在しており、年間を通して参詣者で賑わっていますが、元旦から1月7日(七草の日)までにめぐると良いとされていることから、新春の風物詩となっています。
七福神信仰の起源は室町時代と言われていますが、広く民間に浸透したのは江戸時代。徳川家康の側近として江戸幕府の政策にも大きな影響を及ぼした天海僧正が、七福神の功徳は江戸の町の鎮護に役立つと説き、家康がこれを信仰したのがきっかけです。
江戸時代後期には民衆にも七福神信仰が広がり、江戸の町に多くの七福神札所が生まれました。天海僧正が開祖である上野寛永寺のお膝元・不忍池弁天堂から始まる谷中七福神は、その中でも最古のものとされています。
今回は七福神の由来から、その名を冠した山々や七福神めぐりと合わせて楽しめる登山コースをご紹介します。
※2021年は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、密を避けるためにも、お正月休みの訪問を避け、2月3日の節分までにお参りすることをおすすめします。
七福神の由来・功徳とその名を冠した七つの山
それぞれに異なる功徳を持つ七福神、実は3つの国が発祥の多国籍の神さまから構成されています。大黒天・弁才天・毘沙門天はインド(ヒンドゥー教)の神さま、寿老人・福禄寿・布袋は中国(道教)の神さま、そして恵比寿が日本(神道)の神さまです。
それでは、七柱の神さまとそれぞれの名を冠した全国の山をご紹介して行きましょう。
大黒天
大黒天の起源はインド。ヒンドゥー教の神・シヴァが仏教に取り込まれた神さまです。破壊神として知られる恐ろしい形相が本来の姿ですが、「大黒」「大国」と読みが同じである日本の神さま・大国主命(おおくにぬしのみこと)と習合して信仰されるようになり、現在の柔和な表情になりました。
大きな耳は福耳、米俵の上に立ち、七つの宝を収めた袋を下げ、振ると願い通りの物が現れる打出の小槌を持ったその姿から、五穀豊穣や商売繁盛にご利益があるとされています。
こんな山が… 大黒岳(長野県/岐阜県・2772m)
乗鞍連峰のひとつである大黒岳。乗鞍スカイラインの畳平バスターミナルから約30分で登れる手軽な山です。東側が開けていることからご来光スポットとしても人気があり、夏には夜明け前から多くのカメラマンで賑わいます。
弁才天
七福神で唯一の女神さまである弁才天。ヒンドゥー教の女神・サラスヴァティーが起源です。古代インドの川の名前を冠された神さまであり、そのせせらぎの音が神格化されました。琵琶を持っていることからわかるように、音楽の神さまでもあります。
川の流れのように流暢な弁舌や、川のせせらぎのように心地よい楽器の演奏など、学業の成就や芸事の上達にご利益があるとされています。
こんな山が… 弁天山(徳島県・6.1m)
富士塚など人工的に作られた山ではなく、自然に出来た山で国土地理院の地形図に掲載されている中では日本一低いとされている弁天山。かつては海の小島であったことから、厳島神社の御祭神である市杵島姫命(イチキシマヒメ)が祀られています。
毘沙門天
ヒンドゥー教の神さま・クベーラの異名である「ヴァイシュラヴァナ」が語源である毘沙門天。東西南北を守護する四天王のうち、北方を守護する多聞天は実は毘沙門天であり、全国の寺院にある四天王門でもその姿を見ることができます。
七福神で唯一、甲冑に身を包み鉾を持った勇ましい姿は武道成就にご利益があるとされ、戦国武将・上杉謙信が自らをその生まれ変わりとして信仰したことは、あまりにも有名です。
こんな山が… 毘沙門山(栃木県・587m)
栃木百名山にも選定されている日光市にある山。ハイキング感覚で登れる低山ながら、日光連山や高原山の眺望にも優れています。
寿老人
寿老人の起源は古代中国・道教の神さま。カノープス(南極老人星)の化身とされており、長い頭で杖を持ち、穏やかな微笑をたたえた姿や、お酒を好むとされるキャラクターは親しみやすさを感じますね。
長寿の象徴である鹿が傍らにおり、これも長寿の象徴とされる桃を持っていることから、健康や長寿にご利益があるとされています。
こんな名所が… 寿老滝(岐阜県)
岐阜県恵那市にあり、養老の滝(岐阜県養老町)に対して名付けられた落差約10mの滝。滝壺も比較的安全で、水遊びのスポットとしても知られています。ここを起点に、名古屋市街まで見渡せる屏風山(794m)・八百山・馬ノ背山を縦走する周回コースがオススメです。
福禄寿
寿老人と同じくカノープス(南極老人星)の化身とされることから同一神とされることもある福禄寿。その名は、幸福・封禄(身分・財産)・長寿に由来しており、長い禿頭に長い髭をたたえ宝珠と巻物を括り付けた杖を持ち、鶴を伴っている姿が一般的です。
名前の通り、幸福や子孫繁栄、立身出世やそれに伴う豊かな財産、そして長寿にご利益があるとされています。
こんな山が… 福禄山(山形県・1217m)
さくらんぼの名産地でもある東根市から奥羽山脈へ伸びる稜線上にある福禄山。同じ稜線に連なる黒伏山・白森・銭山を結んで歩きごたえある縦走が楽しめます。
布袋
布袋(布袋尊)は、七福神の中で唯一実在したと言われる存在。中国の唐の時代に活動した僧侶で、弥勒菩薩の化身として敬われていました。太鼓腹で常に袋を持ち、喜捨された食物の残りを常に袋に入れて放浪生活を送り、常に笑みをたたえながら悠々自適な人生を過ごしました。
自然体でありながら人々に愛されたそのライフスタイルから、商売の千客万来や家庭の夫婦円満にご利益があるとされています。
こんな山が… 布袋岳(福井県・559m)
琵琶湖の西岸、滋賀県と福井県を分かつ江若国境尾根に連なる秘峰。一般登山道はなくバリエーションルートとなります。
恵比寿
七福神の中で唯一日本発祥の神さまである恵比寿。神の子でありながら3歳になっても歩けず、蛭子(ひるこ)として水に流し常世(とこよ)から再生して戻ってくることを願う風習に従って、芦の船に乗せられ海へ流されました。ところが浜辺に打ち戻され、常世からの使いとして地元の人々に大切に育てられたのです。
釣り竿と鯛を抱えた姿は大漁旗にも描かれ、漁業の大漁のみならず五穀豊穣や商売繁盛にもご利益があるとされています。
こんな山が… 恵比須岳(岐阜県・2831m)
冒頭に紹介した大黒岳と同じく、乗鞍連峰の一座。登山道はなく登頂することはできませんが、畳平バスターミナルから約10分で登れる魔王岳から、その堂々とした山容を望むことができます。
七福神めぐりと登山・ハイキングを楽しもう!おすすめコース3選
最後に七福神めぐりと合わせて登山・ハイキングも楽しめるスポットをご紹介。2021年の登り初めも兼ねて、出かけてみませんか。
越生七福神(埼玉県越生町)
例年1月4日にハイキングマップと記念品がもらえるイベントが開催されますが、2021年は密集を避けるため1月11日までの8日間にイベント期間を延長。ゆとりを持って七福神めぐりが出来るチャンスです。
参考モデルコース(歩行時間:約3時間)
JR八高線/東武越生線・越生駅=<バス約25分>=黒山バス停…(徒歩約1分・0.1km)…①金洞院(布袋)…(徒歩約35分・2.6km)…②龍穏寺(毘沙門天)…(徒歩約60分・3.7km)…③円通寺(寿老人)…(徒歩約15分・1km)…④最勝寺(福禄寿)…(徒歩約30分・2.1km)…⑤弘法山観世音(弁才天)…(徒歩約30分・2.2km)…⑥正法寺(大黒天)…(徒歩約9分・0.7km)…⑦法恩寺(恵比寿)…(徒歩約2分・0.2km)…JR八高線/東武越生線・越生駅
足利七福神(栃木県足利市)
室町時代に活躍した足利市ゆかりの地。七福神めぐりを楽しみながら、紅葉の名所としても知られる織姫神社から足利城本丸跡の両崖山を経て岩稜ムードも味わえる天狗山ハイキングコースを歩きます。
参考モデルコース(歩行時間:約6時間)
東武伊勢崎線・足利市駅…(徒歩約12分・1km)…①鑁阿寺(大黒天)…(徒歩約14分・1.2km)…②心通院(寿老人)…(徒歩約3分・0.3km)…③明石弁天(弁才天)…(徒歩約1時間・4.8km)…④長林寺(福禄寿)…(徒歩約1時間・5.1km)…⑤西宮神社(恵比寿)……(徒歩約11分・0.9km)…足利織姫神社…(登山道約70分)…▲両崖山(251m)…(登山道約30分)…▲天狗山(259m)…(登山道約70分)…⑥常念寺(毘沙門天)…(徒歩約5分・0.4km)…⑦福厳寺(布袋)…(徒歩約23分・1.9km)…東武伊勢崎線・足利市駅
都七福神(京都府京都市)
千年の古都・京都にある七福神札所で「日本最古」を名乗っています。銀閣寺・南禅寺の2つの名刹を結ぶ大文字山登山コースを組み込むことで、京の街並を眼下に見下ろすことができます。
参考モデルコース(歩行時間:約6時間半)
叡山電車・宝ヶ池駅…(徒歩約17分・1.3km)…①赤山禅院(福禄寿)…(徒歩約22分・1.8km)…②妙円寺(松ヶ崎大黒天)…(徒歩約50分・3.8km)…銀閣寺…(登山道約80分)…▲大文字山(465m)…(登山道約60分)…南禅寺…(徒歩約40分・3km)…③革堂・行願寺(寿老人)…(徒歩約30分・2.2km)…④ゑびす神社(恵比寿)…(徒歩約5分・0.4km)…⑤六波羅蜜寺(弁才天)…(徒歩約50分・3.9km)…⑥東寺(毘沙門天)…(徒歩約17分・1.3km)…京都駅=<JR奈良線・約23分>=黄檗駅…(徒歩約5分・0.4km)…⑦萬福寺(布袋)…(徒歩約5分・0.4km)…黄檗駅
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プロフィール
太田昭彦
高校ワンダーフォーゲル部時代に登山の魅力に目覚め、社会人山岳会で経験を積み、旅行業から山岳ガイドに転身。また、20歳の時に高野山で十善戒を授かってから神仏とのご縁が少しずつ深まり、42歳で巡礼先達の道を歩み始める。登山教室「歩きにすと倶楽部」を主宰して登山者に安全で正しい登山知識・技術を伝達しつつ、地元埼玉の秩父三十四観音霊場をはじめとする巡礼の道を歩く人々を先導する「語り部」としても活躍中。著書に『ヤマケイ新書 山の神さま・仏さま 面白くてためになる山の神仏の話』(山と溪谷社)ほか。
(公社)日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・埼玉山岳ガイド協会会長・四国石鎚神社公認先達・四国八十八ヶ所霊場会公認先達・秩父三十四ヶ所公認先達。
https://www.facebook.com/alkinistclub
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