新ブランド「パヤック」のフード無し寝袋を、晩秋の櫛形山の無人小屋でためす!
南アルプスの前衛峰・櫛形山にある、お気に入りの無人小屋へ
今年のコロナ禍は、登山の世界にも大きな影響をもたらした。山道具の使われ方にも変化があり、昨年以上に売れ行きを伸ばしたものもあったようだ。
そのひとつが“寝袋”である。これまでは主に山小屋へ泊まっていた登山者がテント泊へチェンジしたり、山小屋に宿泊する場合でも備え付けの布団ではなく持参した寝袋を使う人が増えたりしたからだ。
僕は今回、新しい寝袋を背中のバックパックへ収め、南アルプスの外れにある櫛形山へ。お気に入りの無人小屋に宿泊する計画を立てた。
出発は池の茶屋林道の終点にある登山口。紅葉もほとんど終った晩秋の山は少々寂しい雰囲気だが、乾いた空気が気持ちいい。
登山口から山頂までは1時間程度である。軽く汗ばむ程度で、あっという間に到着してしまった。山頂付近からは天気がよければ甲府盆地を見渡せるが、この日はあいにく曇り空だ。
麓では晴れていたのに、山の上空には雲がたまっていたのである。ちょっと残念だが、仕方がない。
下り道は地面に降り落ちた落ち葉で滑りやすい。その代わりに解放感は高く、樹林帯でも遠くまで見通せる。
前方を数頭のシカが横切り、僕の姿を見ると驚いて走り去っていった。
今晩の宿である、ほこら小屋に到着。トイレや水場が近くにあり、とても居心地がよい無人小屋だ。
近くの大木の根元に「祠」があり、それが小屋名の由来となっているようである。
小屋の中は非常にきれいだ。
内部は明るく、無人小屋にありがちな重苦しい湿った空気とは無縁である。宿泊する人も少なく、ここは“穴場”の小屋といってよいだろう。
日本に入りたて! ポーランドブランド「パヤック」の「ULZ」
さて、こちらは僕が持ってきた寝袋、「パヤック(PAJAK)」の「RADICAL ULZ」(以下、「ULZ」と表記)。この会社はダウンの産地であるポーランドに本拠地があり、日本では今年から本格展開された“新顔”だ。製品は1点1点がハンドメイドされている。
スタッフバッグの形状は一般的な円筒状ではないので説明しにくいが、上から平面的に見るとA5サイズといったところ。容量でいえば2Lくらいだが、圧縮すれば1.5L以下にもできる。このスタッフバッグは寝袋の内側に縫い付けられており、ひっくり返して本体を収納するという仕組みだ。取り外すことはできず、紛失する恐れがない。
タグにはガチョウのイラストが使われていて、ちょっとかわいらしい。
しかも自分の名前を書き込むスペースまで設けられているのはイマドキ珍しい。
「ULZ」に使用されているダウンは、900フィルパワーという超高品質だ。寝袋の中に頭を入れると、ふんわりと膨らんだダウンがうっすらと透けて見える。封入されたダウンは160gで、総重量は325gだ。
使用温度帯の目安は、いわゆる“ヨーロピアン・ノーム”の規格で、“T-LIMIT”が「標準的な男性ならば“丸まった姿勢”で0℃」、“T-CONFORT”は「女性ならば“リラックスした姿勢”で5℃」というのが、同社のカタログ的な説明である。なんだかわかりにくいが、そういうことらしい。
全長は160㎝。フード部分を省いた形状で保温するのは肩まで。軽量性を重視したデザインだ。このあたりが、商品名に「UL(ウルトラライト)」という文字が入っている理由である。
ちなみに「ULZ」の「Z」のほうは、ダウンを封入したチューブ(バッフル)の縫製方法を表しており、Zを重ねたかのような形状(ZZZZZZZZ)でチューブが組み合わされていることを示しているようだ。なんとなくイメージできるだろうか? ともあれ、この縫製方法ならば表面と裏面を同時に貫通する縫い目がなくなり、保温性が大いにアップする。
首元の右側には赤いドローコード。左側の赤い引き手は、サイドを開くファスナー部分だ。
また、吊るして乾燥させられるように、両側には赤いテープも取り付けられている。
ドローコードにはコードストッパーが固定されており、ただ引くだけで簡単に引き絞れる。
取り立てて珍しい工夫ではないが、やはり便利だ。
ファスナーのほうには面ファスナーで固定できる小さなフラップがつけられ、ファスナーが不用意に開かないように配慮している。
“UL”系のモデルならば省いてもよさそうなディテールだが、この点は使い心地のよさを重視しているようだ。
夕方前で寝るには早い時間帯だが、小屋の一角にマットを広げ、枕を置き、自分の“寝床”を作り上げる。床もきれいで、これなら快適な一夜を過ごせそうだ。
今のところ小屋には僕ひとりだが、他の利用者がこれから到着するかもしれない。人前でバタバタと撮影を続けるのは申し訳ないので、このまますばやく細かな部分のチェックを続けていく。
肩までしっかり覆い、保温力も◎。収納袋は…、なぜここに!?
サイドが開く長さは、74㎝。先ほど説明したように、横たわったときには左手側に位置する。
個人的には自分の利き手である右手側にファスナーがあったほうが使いやすくて好きだ。だが、これはあくまでも好み。寝袋のよしあしとは直接的には関係がない。
実際に寝袋へ体を収めてみると、身長177㎝・体重70kgほどの僕が肩まで入って、ぴったりのサイズ感。体の幅もちょうどで内部のスペースには過不足がなく、この寝袋が持つ保温力が正しく発揮されそうである。
気温が高くて暑苦しそうな夜には肩のドローコードを広げ、サイドのファスナーを開けば、上半身は換気もスムーズ。生地の肌触りもよく、調子はよさそうだ。
しかし、寝袋に体を入れたときに気になったことがあった。それは、寝袋の裏側に縫い付けられた、本体を収納するためのスタッフバッグである。
これが首元付近に位置しているために、体を入れようとしたときには顔近くにぶら下がって邪魔なのだ。また、体を内部に入れてからも何かの拍子に外に出てきて、寝ている顔にコードストッパーといっしょに触れてしまい、異物感があって少々不快である。この問題は些細なことに感じるかもしれないが、僕にとってはかなり大きい。スタッフバッグを縫い付ける部分は背中側や足元でもよかったのではないだろうか。
足元の高さは、外側から測ると26㎝。それに対して、僕の足は28cm。つまり、足がやたらと大きい僕には少し高さが足りず、わずかながら圧迫感があった。
とはいえ、実際に眠るときには足首を直角にしているわけではなく、とくに問題があるわけではない。一般的な足のサイズの方ならば、むしろ収まりがよいのではないだろうか。
今回は小屋泊まりなので寝袋が濡れる心配はないが、テント泊のときは雨水や結露で表面に水滴がつくはずだ。そこで、ボトルから水を振りかけてみる。
表面生地の撥水力は上々であった。ただし、縫い目が防水処理されているわけではなく、縫い目から内部へ徐々に水がしみこんでいく様子も確認できた。このあたりは一般的な寝袋と同様であり、場合によっては防水カバーと組み合わせて使ったほうがよいだろう。
小屋のなかの気温は、夕方前で10℃ほど。外部の冷気が吹き込む恐れもなく、夜中でも5℃くらいではないかと想像された。じつは、より低温になることも考え、僕は別の寝袋も用意。寒くて眠れないときは、以下の写真のように「ULZ」と2つ重ねて使用しようと思っていた。
フードを省いた「ULZ」は、このように他の寝袋の“インナー”としても使いやすい。厳冬期はメインの寝袋をサポートする“サブ”としての利用もよい手である。
もっとも、今回は夜中でもあまり寒くはなく、朝まで「ULZ」で十分であった。
僕は普通の人よりもかなり寒がりだ。だが、「ULZ」の保温力があれば、夏はもちろんOK。防寒着を組み合わせれば、秋のテント泊、晩秋の小屋泊でも凍えずに済みそうであった。
ところで夕方になると、ほこら小屋には他の登山者が到着。同宿することになり、迷惑をかけないように夜間の撮影は中止した。そのためにこれ以降、実際に夜に使っている写真はないが、ご了承いただきたい。
翌日の朝、十分に熟睡できたというのに、僕はのんびりと起床。あとは巻き道を使って登山口まで戻るだけなので、そのまま昼近くまで小屋でゆったりと寛いだ。
天気はよく、昨日よりもますます気持ちよく歩ける。早めに出発して、山頂へもう一度向かってもよかったかもしれないとも思ったが、櫛形山のように森がきれいな山では展望がなくてもそれなりに満足できるのであった……。
まとめ: 十分な保温力を持つ「RADICAL ULZ」。真冬のインナーとしても便利そうな寝袋だ
今回、パヤック「ULZ」を使ってみて“惜しい”と思った点は、先に述べたスタッフバッグが縫い付けられている位置である。細かいことでも使用時のストレスはできるだけ少ないほうがいい。
しかし寝袋でもっとも重要な“保温力”は確かなもの。コンパクトに収納できて軽量なのに、見た目以上の暖かさであった。さすが900フィルパワーのダウンを160gも使っているだけのことはある。今回は外界と遮られた無人小屋でのテストだったが、僕はむしろ夏場にテント泊で使いたくなった。夏の低山では保温力が高すぎて暑苦しいだろうが、日本アルプスなどの高山ならば、僕のような寒がりの人にはこれくらいの保温力があってもよい。フードが省かれ、軽量化されているのも比較的温暖な春から秋の時期に向いている。
ただし、この「ULZ」、価格は安いとはいえない。寝袋としてはかなり高級な部類だ。だが、防寒着とのコンビネーションで秋の低山にも活躍し、“インナー”として真冬の出番も考えられる。汎用性の高さを考慮すれば、意外とお得なモデルといえるかもしれない。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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