北欧ブランド「フーディニ」がめざす“何も無駄にしない”モノ作り

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「フーディニ」は北欧のスウェーデンで誕生したアウドドアウェアブランド。どこにもストレスを感じない抜群の着心地と、北欧ブランドらしいスタイリッシュなデザインが人気を集めています。その土台には、新しい地球の資源を使わず、何も無駄にしない、すべてが循環するように考え抜かれた、モノ作りに対する深い考えがありました。

文=吉澤英晃

環境先進国で誕生した、人気アウトドアウェアブランド

フーディニは、北欧の一国、スウェーデンのアウトドアウェアブランド。1993年にロッタという女性クライマーの手によって誕生しました。

ブランドコンセプトは、伸縮性があり、着心地がよく、さらにアウトドアウェアとして充分な機能を備える服を作ること。フーディニが創業する以前、伸縮性に優れ、かつ耐久性が高いアウトドアウェアが市場には多くありませんでした。

そこで当時では珍しかった、伸縮性に優れるアンダーウェアを開発。さらに、まるで毛布に包まれているようなソフトな着心地と、驚異のストレッチ性と耐久性を持つ「パワー・フーディ」の大ヒットから順調に成長を続け、いまでは世界的なブランドとして人気を集めています。

ブランド名は、脱出マジックで世界的に有名なハリ−・フーディニ(Harry Houdini)が由来。自然界でいかなる困難にぶつかっても魔法のように脱出できる、動きやすいウェアを作るという想いが込められている

 

アウトドアウェアに求められる機能性を追求する一方、スウェーデンという世界的な環境先進国で誕生したフーディニは、アウトドアで遊ぶためのウェアを作る企業として、地球の環境に配慮するビジネスモデルの実現をめざしています。それが、新しい地球の資源を使わない「循環型ビジネス」です。国内でフーディニの輸入代理店を担うフルマークスの広報担当、高橋さんに話を聞きました。

 

新しい資源を使わない循環型ビジネス

多くのアウトドアウェアに採用されている化学繊維は、それがリサイクルされたものでなければ、主原料は石油になります。そして商品化されたアウトドアウェアはユーザーの手に渡り、リサイクルされなければ、最終的には廃棄されてしまう運命です。しかし、フーディニはその流れに待ったをかけました。

「フーディニがいちばん強く発信しているのは、新しい地球の資源を使わないということ。新しい石油からアウトドアウェアを作り、それが最終的に廃棄されたら、地球の資源は使われたままで、何も循環していません。その流れを変えて、廃棄される運命の商品を、再利用して資源にする。これが、フーディニが考える循環型ビジネスです」。

循環型ビジネスのイメージ

 

そこで、フーディニはスウェーデンとノルウェーにある直営店に、ユーザーから着古したウェアを回収するための専用ボックスを2007年から設置。リサイクル可能なウェアをパートナー企業に送ることで、新たな資源として再利用する仕組みを構築しました。

回収したウエアは、直営店のスタッフがリサイクル可能なものと不可能なものに選別。直接のリサイクル作業はパートナー企業が担当する

 

さらに、この循環型ビジネスの実現に向けて、フーディニは2022年までに全商品を「循環型」にするという大きな目標を掲げています。

 

循環型商品に欠かせない、「リサイクル繊維」と「天然繊維」

フーディニが考える「循環型」とは、いったいどのような状態の商品に対して使われるのでしょうか?

「循環型の商品は、“リサイクル繊維”か、羊の毛や植物といった枯渇しない資源を原料とする“天然繊維”によって作られます。そして、リサイクル繊維から作られる場合は、再リサイクル可能であることが、さらに条件に加わります」。

実はリサイクル繊維から作られたウェアでも、中には再利用できないものがあるのだとか。その一例が防水透湿ウェアです。ネックは機能の要となる防水透湿素材。表地と裏地にリサイクル繊維が使われていても、肝心のメンブレンは再利用できない場合があると言います。

そこで、フーディニがラインナップする防水シェルの防水透湿素材には、もちろん再リサイクル可能なメンブレンを採用。繰り返し再利用できる商品が、フーディニのめざす理想です。

リーワード・ジャケット(5万円+税) 再リサイクル可能な防水透湿素材を採用した3レイヤーのシェルジャケット。耐久性に優れ、2wayの伸縮性も備えている。70%リサイクルポリエステル

 

「さらに言うと、たとえば有名なブルーサイン(※)の認証を受けていても、決められた繊維を使うことや、再リサイクル可能といった項目をクリアしないと、その商品は循環型とは認められません」。

※環境保全、労働環境、消費者の安全を厳しい基準で管理し、持続可能なサプライチェーンを満たした製品に与えられる認証のこと

この厳格とも受け取れる定義からは、循環型ビジネスへ本気でシフトしようとする確固たる意思の強さが、ひしひしと伝わってきます。この姿勢が他ブランドと一線を画す、フーディニの環境へ配慮したモノ作りの特徴といえるでしょう。

 

リサイクル繊維から作られる「モノ・エア・フーディ」

では、実際に循環型の商品には、どのようなものがあるのか。代表的なアイテムをいくつか紹介してもらいました。

まず、循環型商品には、リサイクル繊維から作られるアイテムがあります。使われる素材は、リサイクルポリエステルとリサイクルナイロンの2種類。ちなみに循環型とはいえなくても、一部でもリサイクル繊維を使う商品は、2020年現在、全製品の78%を占めています。

モノ・エア・フーディ(2万6000円+税) 伸縮性に優れたミッドレイヤー。繊維の抜け落ちによる海洋汚染を防ぐ新素材、ポーラテック・パワー・エア・ライトを採用。73%リサイクルポリエステル

 

土に還る天然繊維から生まれる「アウト・アンド・アバウト・シャツ」

フーディニが使う天然繊維は、主にメリノウールテンセルの2種類。テンセルとは植物由来の繊維で、この繊維から作られる生地は吸汗速乾性を備えており、まるでシルクのようなソフトな着心地を得られる点が特長です。フーディニでは、メリノール100%のウェアと、メリノウールとテンセルをブレンドしたウェアの2種類をラインナップしています。

アウト・アンド・アバウト・シャツ(2万円+税) 耐久・透湿・速乾性を兼ね備える機能性シャツ。山から街使いまで、幅広いシーンで活躍する。51%テンセル 、49%メリノウール。

 

ちなみに、天然繊維から作られるウェアの生地には、化学繊維が一切使われていません。このため、バクテリアによって分解でき、最終的に土に還すことが可能です(※)。

※天然繊維は元々バクテリアによって分解される特性を持っているが、そこに化学繊維を混ぜて生地を作ると、分解ばかりでなくリサイクルもできなくなってしまう

フーディニはこの特性を活かし、「フーディニメニュー」という取り組みを、世界に先駆けて2016年から開始しました。

フーディニメニューによる天然繊維の循環イメージ

 

この取り組みは、回収した天然繊維から作られるウェアを堆肥に変えて、そこから実際に野菜を育てて、レストランで調理してもらい、最終的にユーザーがその野菜を食べるというもの。

 

「フーディニメニュー」は、フーディニの天然繊維のウェアが地球に負荷を与えないことを証明すると共に、廃棄されるはずのウェアが巡り巡って消費者に戻る流れを作ることで、循環型ビジネスを体験する機会を創出しているのです。

回収したウェアは、フーディニメニューのために提携した、スウェーデンの首都ストックホルムの郊外にある農園“ローゼンダルズガーデン”で堆肥に変えられる
 
 

レンタルサービス、中古品の買い取り

ほかにもフーディニは環境への負荷を減らすために、さまざまな取り組みを行なっています。

「本国では、ユーザーに必要以上の買い物をさせず、同時に企業も必要以上の製造を行わず、トータルで環境への負荷を減らすといった観点から、ウェアをユーザーに貸し出すレンタルサービスや、使用済みのウェアを買い取り再販する中古販売などを、積極的に行なっています」。

「また、羽毛も自然から得る有限な資源と捉えて、ダウン製品の製造からは完全に撤退。ほかにも新しいウェアを企画する際には、さまざまなシーンで飽きることなく使い続けられるように、街でも山でも違和感がなく、かつ流行り廃りに左右されないデザインやカラーリングを満たしているか、厳格に定められたチェックシートに基づいて精査されます」。

ダンフリ(3万6000円+税) プリマロフト・ゴールド・インサレーション・エコを封入。商品名はスウェーデン語で「ダウンフリー」を意味する。デザインは2008年の発売当時から変わっていない

 

ロードマップに描いた2066年へ向けて

2022年までに全商品を100%循環型にするという目標の達成率は、2020年現在72%となっており、ゴールは目前にまで迫っています。しかし、この目標は、2016年にフーディニが作成したロードマップの一節にすぎません。ロードマップでは、50年後の2066年までにフーディニが、そして社会全体が新たな価値観を作り上げ、自然と調和の取れた関係を築いていることが描かれています。

最後に、50年後の未来を見据える彼らが考える、企業の責任について聞きました。

「自然界にある資源を使い、それを廃棄するいままでのやり方で、いま地球が大変なことになっている。フーディニはその原因と責任が、ひとつひとつの企業にあると考えています。そうである以上、自然と共生しながらビジネスを行う会社として、新しいビジネスモデルを世界に示さないといけない。結果、それが世界を変えるきっかけになると考えているのです」。

来年には2022年という節目の年を迎え、フーディニは間違いなく自らが描いた理想に近づくことでしょう。彼らの姿は、私たちユーザーにとっても、かけがいのない地球の環境を守るために、何ができるのか考えるきっかけになるはずです。

 

HOUDINI https://www.full-marks.com/houdini

 

吉澤英晃
大学の探検サークルで登山を始め、社会人になってからは山岳会に所属。無積雪期は沢登り、積雪期はアイスクライミング、雪山登山をメインに四季を問わず毎週のように山で遊んでいる。山道具を扱う会社で約7年の営業職を経て、現在は登山・山岳ライターとして活動中。

未来でも登山を続けるために。

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