ザ・ノース・フェイスが伝えたい、気候変動を防ぐためのシンプルなアクション「モノを大切にする」ということ

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「モノを大切にする」。子供のころ、親から先生から、当たり前のように教わった記憶があります。それが環境問題を解決するうえでいちばん大切と語るのは、大人気アウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス」の商品開発に携わってきた大坪岳人さん。人気ブランドの環境に配慮した取り組みから、“モノを大切にする”ことの重要性を改めて考えてみましょう。

文=吉澤英晃

つい最近、都内にある馴染みの登山用品専門店に立ち寄ると、いままでなかったウエアの回収BOXが目にとまりました。環境問題に対する意識が高まる中、衣類のリサイクル事業は広がりをみせつつあります。さらに、アウトドア業界ではリサイクル繊維や天然繊維など、環境に配慮した素材を使うアイテムも頻繁に見かけるようになりました。

アウトドアに限らずカジュアルシーンでも高い人気を誇る「ザ・ノース・フェイス(以下、TNF)」も、環境に配慮した取り組みを行うブランドのひとつ。GREEN IS GOODというコンセプトを掲げ、古着のリサイクルを行う「GREEN CYCLE」、環境に配慮した素材を使う「GREEN MATERIAL」といった活動を進めています。

ただし、TNFの商品開発に携わりつつ、社内で環境問題に対する取り組みのリーダーも務める大坪さんは、環境問題の解決に向けて古着のリサイクルや環境に配慮した素材の使用と並行しつつ、さらに大事なことがあると言います。

「環境問題に対するアクションはすごくシンプルな話で、モノをなるべく捨てずに、大切に使い続ける。これに尽きるんです」。

そのため、TNFが掲げる「GREEN IS GOOD」のなかには、もうひとつ、モノを大切に使うサポートを行う「GREEN MIND」というアクションが含まれます。

モノを大切に使い続けることが環境問題を解決する一助になる。「GREEN IS GOOD」の内容と共に、その言葉の理由を聞きました。

 

着古した製品を回収、再資源化する「GREEN CYCLE」

数ある環境問題の中でも、TNFは気候変動を大きな課題として捉えています。その原因とされているのが温室効果ガスです。モノを燃やすと発生することが知られていますが、着古したアウトドアウエアを捨てた場合、それがリサイクルされなければどうなるでしょう?

「現在、リサイクルできているものは、主に、紙やペットボトル、ガラス、缶など。それ以外のゴミは燃やすか埋め立てられていて、アウトドアウエアの多くは焼却処分されています」。

これでは温室効果ガスが発生して、気候変動を防ぐことはできません。そこではじまったアクションが「GREEN CYCLE」。着古されたアウトドアウエアを処分せずにリサイクルする取り組みです。

店内に置かれた回収ボックス。TNFの直営店を中心に設置されている(回収BOXがある店舗リストはこちら

 

「回収するウエアは、TNFブランドのものだけではありません。他社製品のウエア(※)も別け隔てなく回収しています。そして、集められたウエアは、ナイロン、ポリエステル、ダウンのいずれかに再資源化され、一部の着続けられる状態の服は、支援物資として他国へ寄付もしています」。

※TNFは株式会社ゴールドウインが取り扱うブランドのひとつ。「GREEN CYCLE」では、株式会社ゴールドウインが取り扱うブランド以外のウエアも回収している

 

FLスーパーヘイズジャケット(3万9000円+税) オリジナルの防水透湿素材フューチャーライトを採用した一着。表生地にリサイクルナイロンが使われている

 

自社ブランドのウエアを回収する動きは近年増えてきましたが、他社製品まで回収する活動は初耳。捨てられて焼却処分されるウエアを少しでも減らそうとする想いの深さが感じられます。

 

環境負荷を最小限に抑えた繊維を選ぶ「GREEN MATERIAL」

TNFは、環境に配慮した繊維の使用も積極的に進めています。そのアクションが「GREEN MATERIAL」です。

「この取り組みは、環境へ与える負荷を抑えられる繊維の選定からはじまります。現在選ばれているのは、主に“再生繊維”と呼ばれるもので、たとえばユーカリを原料にしたテンセルや、ブナから作られるモダールなど。これらは植物由来の繊維と説明した方が分かりやすいかもしれないですね」。

ここに、先ほど紹介したGREEN CYCLEによって再資源化されたリサイクルナイロンやリサクルポリエステル、リサイクルダウンも含まれ、さらに無農薬の畑で作られたオーガニックコットンも加わります。

スウィートウォータープルオーバーバイオ(2万2000円+税) ペットボトルを再利用したリサイクルポリエステルから作られた一着で、微生物による生分解性も持つ。

 

「中長期的な目標では、GREEN MATERIALで定めた繊維から作られる製品を100%にしたいと思っています。そして、その過程として2025年までに80%を達成するのが直近の目標です」。

聞くと、現在の達成率は50%前後とのこと。しかし、21年の秋冬と来年2022年の春夏コレクションから、その比率はグッと上がると言います。

 

気候変動を防ぐ、もっともシンプルなアクション「GREEN MIND」

紹介してきた「GREEN CYCLE」と「GREEN MATERIAL」だけでも、気候変動に対する大きなアクションといえるでしょう。しかし、ここで冒頭に紹介した言葉が繰り返されます。

「それよりもさらに大事なことがあって、それが“モノをなるべく捨てずに、大切に使い続ける”ということなんです。それが当たり前になる活動を行っていきたいと思っています」。

大坪さんが大事と語る“モノをなるべく捨てずに、大切に使い続ける”の主語は、TNFではありません。この2つの言葉は、商品を使うのは私たちユーザーに向けられています。消費者がモノを大切に使い続けるサポートを行うのが、3つ目のアクション「GREEN MIND」です。

モノを大切に使い続けることがなぜ気候変動の防止につながるのか、改めてその理由を聞きました。

「温室効果ガスは、多くのアウトドア製品に使われている化学繊維を作るときや、素材から製品が出来上がるまでの流通過程など、商品を作る現場でも排出されています。モノを大切に使い続ければ新たに商品を買う機会が減り、それはイコール温室効果ガスの排出量の減少にもつながるんです」。

ユーザーに“モノを大切に使い続けてもらう”ためには、メーカー側のサポートも欠かせません。そこで、TNFでは1968年のブランド設立時から、破損した製品のリペアサービスを行ってきました。

「受付窓口は全国にあるTNFの販売店で、いまではオンラインでも申し込みが可能です。商品は富山県にある修理部門に送られて、状態を確認した後、見積もりが出ます。金額に納得いただければ修理開始。早ければ2週間。遅くても1ヶ月ほどで手元に戻ります」。

TNFの修理で特筆すべきポイントは、ジャケットからパンツまで、ほぼすべてのウエアが対象ということ(※)。もちろん状態によって修理できない場合もありますが、いったんはすべて引き受けると言います。

※アンダーウエアや靴下などの消耗品は除く。また、ウエアだけでなく、テント、バックパック、シューズなども修理可能

修理後のシェルジャケット。脇下にできた損傷が新しい生地でふさがれている。

 

子供服も対象で、実は無償で修理しています。いまでも残る子供服のお下がりの文化の中で、ひとつでも多くの製品をなるべく多くの子供に着てもらいたいですね」。

 

TNFが伝えたい、ただひとつのシンプルな答え

テントやバックパックはもちろん、レインウエアやハードシェルなど、いわゆる“装備”の意味合いが強い道具なら、破けた場合などに修理するのは当たり前と思うかもしれません。しかしそれが、ミッドレイヤーなど肌に近いウエアになるとどうでしょう。さらにファッションアイテムだったら、破損したら買い換えるという人が増えるのではないでしょうか。

中には、服まで修理してくれるサービスがあることに驚く人もいるかもしれません。しかし、TNFはもちろんのこと、いまでは多くのアウトドアメーカーが製品の修理サービスを行っています。

リサイクルされるから"捨てる”のではなく、まずはひとつの製品を“大切に使い続ける”。誰もがいますぐ取り組めるこのアクションこそ、TNFが私たちユーザーに伝えたい、気候変動を防ぐひとつのシンプルな答えなのです。

 

ザ・ノース・フェイス https://www.goldwin.co.jp/tnf/

TNFリペアセンター https://www.goldwin.co.jp/tnf/special/repair-center/

GREEN IS GOOD https://corp.goldwin.co.jp/greenisgood/

 

吉澤英晃
大学の探検サークルで登山を始め、社会人になってからは山岳会に所属。無積雪期は沢登り、積雪期はアイスクライミング、雪山登山をメインに四季を問わず毎週のように山で遊んでいる。山道具を扱う会社で約7年の営業職を経て、現在は登山・山岳ライターとして活動中。

未来でも登山を続けるために。

アウトドアメーカーのサスティナブル(持続可能)なモノづくりや、環境のための取り組みを紹介していきます。未来のために登山者として何ができるかを一緒に考え、行動しましょう。

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