鳥海山の魅力を伝える写文集 『鳥海山を登る』

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評者=早川輝雄(山岳写真家)

鳥海山を登る

著:佐藤 要
発行:自費出版(問合わせ=yamaruzakki@gmail.com)
価格:2700円+税

 

「振り返ると生活の中心に山があった」と本文に書かれているとおり、鳥海山に程近い山形県庄内町在住の、登山家であり写真家でもある佐藤要の渾身のフォトエッセイ集である。

鳥海山は、東北第二の高峰で、高山の魅力である森林限界から上の面積が極めて大きい。残雪・湿原のお花畑と岩峰の山頂が特徴で、日本海に接しており降雪量が極めて多い。雨を加えた年間降水量は6000㎜以上ともいわれる。それらの厳しい条件が魅力を作っている山である。

本書は、巻頭グラビアの鳥海山の四季・鳥海山に咲く花に続き「回想の山」10篇と「再会の山」43篇からなる写真と紀行文の構成となっている。写真は見開きが多い。完成度が高く迫力と美しさにあふれている。なかでも「回想の山」の、登山家の視点の写真で冬季の厳しくも秀麗な山中をゆく登山者の姿が感動的だ。「厳しいほど思い出に残る充実した登山」ということを如実に表わしていると感じる。「山の写真は美しい風景だけでも魅力はあるが、そこに登山者が関わると哲学的になり訴求力が強くなる」という、評者の思いとも共通する。

「再会の山」は本格的に鳥海山登山を再開した2009年以降の記録である。穏やかでありながら迫力のある風景写真と、力のこもった紀行文が、行程の描写を主としてストイックにつづられており、ガイドとしても秀逸だ。

鳥海山のすべての登山コースと、積雪期に考えられるルートを漏れなく掲載しており、ガイドブックでもこれほどの収録数はない。鳥海山の魅力を余すところなく伝える貴重な一冊である。

 

山と溪谷2021年3月号より転載)

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