半生とつづる 旅を続ける意味 『それでも僕は歩き続ける』
評者=大武美緒子(フリー編集者)
「日本三百名山ひと筆書き」の旅に挑戦中の田中陽希氏。コロナ禍の緊急事態宣言下の2020年春、山形・酒田市で空き家暮らしを続ける3カ月間に、これまでの半生、挑戦を続ける理由、次世代へのメッセージについてリモート取材で語った内容をまとめた本書。小学校高学年から読めるようルビがふられ、道中での子どもたちとの交流も大きな喜びとしてつづられている。
田中氏と聞いて思い浮かぶのは、ドキュメンタリー番組で見せる快闊な笑顔。ネガティブな感情とは結びつかなかったが、同氏は本書で「日本二百名山ひと筆書き」の途中での葛藤を率直な言葉で吐露している。「僕はなんで旅をしているんだろう」と。その原因は時間に追われ、応援がうれしくもつらいと感じ、ひとり一人に丁寧な対応ができないストレス、反省から。その葛藤を経て、口癖だった「すみません」をやめ「ありがとう」に変え、心をフラットに保つ術を得る。個人的な原動力に加えて「利他的」な視点が大事だと現在のスタンスについて語る田中氏の、旅を通した内面の変化を知ることができたのは新鮮だった。
本書は、日本の自然環境の変化、天候や新型コロナウイルスの影響で旅が大幅に長引いていることに触れ、「自然の神様が自分に何かを託したのではないか」と今後の行動を模索する言葉で締めくくられる。インターネットからでもテレビからでもない。人力旅だからこそ得られたリアリティのある氏の言葉、今後の発信に耳を傾けたくなった。
(山と溪谷2021年6月号より転載)
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