山岳アクションとくとご覧あれ 『冬華』
評者=木元康晴(登山ガイド)
高校生の頃の元旦、テレビのニュースが相次ぐ遭難を報じたことがある。それを見た父が、「正月に山に行って遭難するやつなど助ける必要はない!」と冷たく言い放った。私も当時は登山に興味がなく、この人たちはなぜ過酷な雪山に向かったのか不思議だった。
ところがそれから数年後、友人の誘いに応じて私も雪山登山をすることになる。初めて登った雪の山は、想像以上にすばらしく、過酷さに立ち向かって頂上をめざす人の気持ちを、充分に理解できるようになった。
本書の舞台は、厳冬の涸沢岳西尾根。かつて私も登った、穂高連峰を代表する雪山コースだ。だが本書の登場人物は、登るだけではない。そこで命がけの、激しい銃撃戦を繰り広げるのだ。
雪山の過酷さは甘受できても、極寒の山で銃撃戦を行なうことには驚きを感じる。男たちはなぜ、そこまでして争わなければいけないのか?
しかしそのような疑問が生じるのも、自分が愛着をもつ場所だからとも言える。それを取り除いて読めば、本書は秀逸なエンターテインメントだ。
元自衛隊の特殊工作員と老猟師とが撃ち合うさまは、まるで異種格闘技戦。二人が手にする銃の描写もリアルで、マニアックな読者も楽しめるはずだ。
ちなみに本書は、槍ヶ岳を舞台にした『夏雷』、八ヶ岳の天狗岳を舞台にした『秋霧』の続編だ。本書を読んで感じた戸惑いは、それを読むことで解消した。したがって未読の方には、先にこの2冊を読むことを強くお勧めしたい。
(山と溪谷2021年7月号より転載)
登る前にも後にも読みたい「山の本」
山に関する新刊の書評を中心に、山好きに聞いたとっておきもご紹介。
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他
