活動のきっかけは山のトイレマナーの悲惨な状況でした。山のトイレを考える会|日本山岳遺産の横顔 vol.09

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。第9回は、大雪山系や十勝連峰など北海道の山で、トイレ環境改善活動に取り組んでいる「山のトイレを考える会」を紹介する。

写真=山のトイレを考える会、取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年9月号掲載記事

写真=山のトイレを考える会
取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年9月号掲載記事

 

■日本山岳遺産候補地を募集中

山のトイレを考える会

山のトイレを考える会 〈 2016年度認定 〉

Area:大雪山系ほか
Main activity:山のトイレ環境改善
Group profile:
2000年に設立。北海道の山々で携帯トイレの普及・啓発、携帯トイレブースの維持管理などを行なう。運営委員13人、個人78人、10団体(2021年3月現在)の会員で活動している。
http://yamatoilet.jp/

活動のきっかけは山のトイレマナーの悲惨な状況だった。約20年前、大雪山系トムラウシ山や十勝連峰美瑛富士のテント場周辺では、糞尿やトイレ紙が散乱していた。

「あまりにひどく、なんとかしなければいけないと思いました」

「山のトイレを考える会」の発足初期から活動に参加する3代目代表の小枝正人さんはこう振り返る。そうして問題意識をともにする地元の山岳ガイドや大学の研究者、一般登山者らが集まり、北海道をメインに山のトイレの問題解決へ取り組み始めた。

同会が長らく注力してきたのが、登山者への啓発活動だ。道内の主要な山のトイレの位置情報を掲載したマップを制作。情報は毎年更新している。山のトイレのマナーガイドや使用済みトイレ紙の持ち帰りのための袋も作り、登山者に配布している。

山のトイレ問題に関する啓発ツールを登山者に配布するメンバー
山のトイレ問題に関する啓発ツールを
登山者に配布するメンバー

また設立当初から「山のトイレを考えるフォーラム」を開催。活動報告とともに、課題を討論する場としている。フォーラムで配布する資料集は、道内外から山のトイレ問題に関する寄稿を募り、ホームページでも公開することで広く情報発信している。

山のトイレ環境改善や携帯トイレブース設置に向け、行政への働きかけも続けてきた。美瑛富士の避難小屋周辺には2019年、固定式のブースが環境省によって建てられた。同会を含む山岳関係9団体が管理連絡会を結成し、清掃や点検を分担する。トムラウシ山の南沼野営指定地へも同年、北海道がブースを増設した。同会も名を連ねる、前年の「大雪山国立公園携帯トイレ普及宣言」による機運の高まりが設置を後押しした。

独自に制作した「山のトイレマップ」。登山口や宿泊施設な どに置いている
独自に制作した「山のトイレマップ」。
登山口や宿泊施設な どに置いている

小枝さんは「約20年の活動でようやく目に見える成果が出てきた」と安堵する。現在は旭岳の裏旭野営指定地へのブース設置をめざして調査を実施している。

「行政に要求するだけではなく、民間団体や一般登山者も含め官民で問題意識を共有し、それぞれができることをしていく仕組みが大切です。それが少しずつできてきたと感じています」

小枝さんはそう語る。環境改善の手応えとともに「北海道の山をいつまでもきれいに」との思いをもって今後も活動を続けていく。

★日本山岳遺産認定地 詳細:美瑛富士 [ 北海道 ]山のトイレを考える会(2016年)

日本山岳遺産候補地および助成団体を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体。
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体。
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体。

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費。
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費。
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費。

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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