高水三山――、奥多摩の入口にそびえる、それぞれに個性があるかわいい3つの山を訪れる

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

雲取山から青梅方面へと延びる尾根の東端近くに聳えるのが高水三山だ。山中に立つ歴史ある寺社、埼玉や東京の平野部を見下ろす眺望、そして3月下旬ころから咲き出す、梅やサクラやツツジなどの樹木――。奥多摩に春がやってきた頃に訪れたい山だ。

 

東京都最高峰・雲取山から埼玉県と東京都を分け、標高を下げながら東へと延ばしている都県境尾根。棒ノ折山で1000mを切り、最後に青梅丘陵の中に落ち込む尾根の最後の高まりが高水三山だ。

山頂直下に常福院という古刹のある高水山(759m)、最高峰で、明るい広大な展望のある岩茸石山(イワタケイシヤマ/793m)、山頂が杉、檜の森に覆われ青渭神社の大きな社殿がある惣岳山(ソウガクサン/756m)と、それぞれ800mにも満たない小さな山ながら、それぞれに違った個性を持つ楽しい山々だ。

岩茸石山から惣岳山に向かう間にある伐採地に広がる展望


軍畑駅、御嶽駅からバスを使わず駅から直接、登ることができる取り付きやすい山だが、一つひとつの山頂の登り下りは急で、特に岩茸石山の降り、惣岳山の登りは小さな岩場があり、小さな山とはいえ侮れない。そして、すぐ足元から広がる東京、埼玉の都市の眺め、岩茸石山から尾根続きに少しずつ標高を上げて遠く雲取山まで続く展望は、奥多摩の入口に立ったことを知る楽しい山だ。

軍畑駅から高水三山縦走

行程:軍畑駅・・・高源寺・・・常福院・・・高水山・・・岩茸石山・・・惣岳山・・・御嶽駅(約4時間)

⇒コースタイム付き登山地図

 

梅や桜が咲く長閑な山里から登山道へ

歩きだしは青梅線・軍畑駅だ。駅の青梅よりの踏切を渡り、成木へと向かう車道を歩き、平溝川に沿った舗装路を登っていく。平溝は明るい集落で、春先なら梅や桜が咲く長閑な山里の中を歩くのは楽しい。

高源寺という寺院から先は、舗装路ながらも急な登りが始まる。釣り堀のある建物の前で舗装路は終わり、杉の木立の中を登りだす。傾斜は急で沢沿いの道からジグザグに登りきると高水山から伸びる尾根の上に登り着く。程なくして傾斜は落ちてくるが、ずっと人工林の中の道が続く。やがて伏木峠方面からの道を合わせると、ホウの木などもある明るい林の中を抜けていく。

やがて山門があり、境内に大きな鐘などもある立派な社殿が常福院だ。右手の社殿は、かつては都民観光の家として宿泊もできた施設だ。山上のお寺とは思えない立派な伽藍は、彫ってある龍などが美しい。興味深いのは秩父方面の寺などと同じで、入り口に鎮座するのが狛犬ではなく、牙を持った狼が守っていることだ。

高水山にある常福院の山門

写真左/常福院の伽藍の「彫り物」は立派だ 写真右/狛犬ではなく「オオカミ」が守るのは興味深い


常福院を後にして、4月上旬には点々とカタクリの咲く斜面を登れば高水山の山頂に到着する。背後には青梅方面の眺め、大岳山や御岳山の山頂付近が間近に眺められる。

4月上旬、高水山の北斜面にはカタクリが咲く

 

優れた展望のあとは、意外と厳しい下山が待つ

次に目指すのが岩茸石山だ。少し急な斜面を下り、尾根の背を歩くようになると明るい雑木林が続き、右手には子ノ権現、竹寺といった奥武蔵の山々が見えてくる。高水山から30分ほどで岩混じりの急な登りが始まるが、右手が開け、登るごとに背後の東京から埼玉の街並みが大きく振り返られる展望の中を進めば、やがて最高峰・岩茸石山の山頂に立つ。

雑木林の間からは、奥武蔵の山々を眺めることができる


開放感のある頂上は、三山の中で最も優れた展望があり、東西に長い広場となっている。西側に大きく雲取山が見え、その左手に大菩薩嶺も確認できる。また、大丹波川を挟んで川苔山が目の前に聳える展望は圧巻だ。この山頂は4月中旬にはミツバツツジが咲き、山頂西寄りの直下にはアカヤシオ咲く。まだ新緑も訪れない季節に紫やピンクの鮮やかな花が見られるのは、この山行に彩りを与えてくれる。

4月上旬、岩茸石山に咲くアカヤシオ


岩茸石山の降りは、登り同様に小さな岩場のある急な降りとなる。やがて杉林の中の道が再び始まり、小さな上下が続く。かつては延々と杉林の連続だったが、数年前から左手が大規模に伐採され、大きく開けた眺めの良い尾根が続く。先程越えてきた、高水山や岩茸石山が並んでいる姿が見えるだろう。

伐採地の最後あたりから惣岳山の登りとなるが、ここは岩の中を攀じ登ることになる。木の根、岩角につかまって登った先に暗い木々の中に囲まれた惣岳山に到着する。山頂には金網に囲まれているが、立派な神社があり、やはり立派な彫り物を施した社が山頂を占めている。

惣岳山は全く展望が無いが、越えてきた2つの山とは違う静けさに満ちた山頂だ。惣岳山からの降りは杉の森の中をグイグイと降る。かつては湧水の出ていた青渭神社の小さな社を過ぎてからは、「こんなに登ったかな?」と思うほどの下りが続く。やがて右に御岳渓谷の丹縄集落に降りる道、沢井駅に降りる道を左右に分け、小さなピークを越えるとゴールが見えてくる。青梅線の線路を越えて青梅街道に降り立てば、御嶽駅はすぐ右手だ。

高水三山は、ゆっくり歩いても元気な登山者なら歩行4時間足らずで一周できるが、小さな岩場がある登山道は登りごたえがあって楽しい。足元に広がる都市の眺め、雲取山へと続く尾根の眺望は、奥多摩の入口に立ったことを知る楽しい場所だ。山麓で桜や梅が咲く時期、山中でカタクリやツツジが咲く時期――、奥多摩に春が来たことを強く感じさせてくれるのが、この高水三山だ。

 

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
 ⇒山岳ガイド「風の谷」
 ⇒質問・お悩みはこちらから

奥多摩は春が美しい! 春の奥多摩の魅力、楽しみ方、そして厳しさ――

暦の上では「立春」となる2月初旬頃、少しずつ春の兆しが訪れる。東京の奥庭である奥多摩でも、少しずつ春の気配を漂わせる頃だ。そんな奥多摩が最も美しいい時期は2月下旬~5月初旬と、山田哲哉ガイドは語る。この魅力を、山田氏の目を通して紹介していく。

編集部おすすめ記事