大変だけど楽しい、村の共同作業「道普請」|北信州飯山の暮らし

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日本有数の豪雪地域、長野県飯山市へ移住した写真家・星野さん。里から森と山を行き来する日々の暮らしを綴ります。第28回は、村の共同作業「道普請」について。

文・写真=星野秀樹

 

 

自分たちでできることは、自分たちの力で

今日は村の「道普請」。各戸から一名ずつ集まって、道路の清掃管理などの共同作業を行うことをそう呼んでいる。13時に集荷場に集合して、まずは区長から役割分担を受ける。

「最初にみんなで谷から。それが終わり次第、山へまわってもらって。公民館の人はガードロープとカーブミラーの設置、氏子さんたちはお宮の雪囲い外しを。堤係は五六七(山奥の水路)を見てきてもらって。あと何人かはチェーンソーで道路脇の木切りをしてもらいます。16時くらいをメドに、終わったら公民館に集合してください。」ってこんな感じ。

この道普請は春と秋の年二回行われていて、道路の維持管理を中心に、村の溜池に引く水の管理、お宮の雪囲いなど、みんなの共同生活に欠かせない作業が行われている。

作業分担が決まると、さっそく軽トラに分乗して各自作業にかかる。
まずは谷へ下る道路沿いの側溝掃除。春は泥、秋は多量の落ち葉が詰まる側溝をひたすら掘り出していく。時にヤブ木が根を張り、泥や石で詰まった側溝からは水が溢れ出し、それを掘り出すのはなかなか大変な作業だ。泥水に浸かり、スコップで堆積物を掻き出す。腰が痛いし、冷たいし。こりゃキリがない、終わらんぞ、といつも弱音を吐きそうになるけれど、しかしこの村の人たちは相変わらずくだらないバカ話しを繰り出しながら、見事側溝を掘り出していく。あーだこーだと笑いが絶えない作業場って、自分の登山でももっと学ばなければいけないな、なんて気づかされるのだ。
掘り出した多量の堆積物は、重機で道路脇へと押し出され、これでここの作業は完了。

一方、山へ向かう道路沿いでは、公民館役員の人たちが中心になって、ガードロープとカーブミラーの設置が行われていく。除雪の邪魔になったり、雪で引っ張られて壊れたりするために、秋の道普請で外したものを春に再設置するのだ。また、村の溜池を管理する堤係の人たちは、片道1時間半ほどかけて山中にある水路の状態を確認しに行く。ヤブ道の枝木を刈り払いながらの行程はヤブ山嗜好の登山愛好家ならともかく、これまたなかなか大変な作業。年によっては雪に阻まれることもあり、時期をずらして行われることも多い。みんな、「道に迷った」とか、「遭難しそうになった」とかブツブツ言いながら帰ってくるけれど、そうは言っても、もともとこの山辺に暮らす人たち。なんだかんだとヤブ山歩きを楽しんでいるように思えるのだった。そうして各自分担作業が終わると、谷から上がってきた側溝掃除組と合流して、山の道の作業が行われていく。

 

 

村の共同作業はこの道普請だけではない。祭礼や冬の道祖神祭り、消防団活動だって共同作業だ。場合によっては個別に招集がかかり、その都度必要な作業が行われることもある。山中にある水路整備に出向いたり、村内に側溝を設置したり。時には溜池に溜まった泥を流す作業とか、数年に一度の大規模な作業も行われる。この時はみんなで腰近くまで泥に浸かり、子供顔負けの泥んこ作業だ。大変だろうが、ややこしかろうが、やはり現場には笑いがあって、面倒な困難にぶつかっても、いつも真剣に、それでいてのんびりと解決していくこの村の人たちには驚かされるのだ。

移住以前に住んでいた神奈川の住宅地にも、自治会による公園清掃や簡単な道路清掃のような共同作業はあった。しかし側溝を掘り出したり、設置したり、時には重機を用いて作業するなんて、行政に頼んでやってもらうことだと思っていた。街から遠い山間地の暮らしは人任せではできない。消防団のような組織もそうだけれど、自分たちで出来ることは自分たちでやる、というのは当たり前のことなのだろう。

百の姓を持つから百姓という。百の姓とは、百の仕事を持つことだ。
土地を拓き、耕し、作物を育てる。修理や大工、ちょっと昔だったら鶏や牛など家畜のこととか、みんな多くの知識を持って生きてきた。ここはそんな百姓の住む村なのだ。
そうして、作業を終えたお百姓さんたちは今宵もまた、いつ終わるとも知れぬ酒宴に興ずるのだった。

 

 

●次回は6月中旬更新予定です。

星野秀樹

写真家。1968年、福島県生まれ。同志社山岳同好会で本格的に登山を始め、ヒマラヤや天山山脈遠征を経験。映像制作プロダクションを経てフリーランスの写真家として活動している。現在長野県飯山市在住。著書に『アルペンガイド 剱・立山連峰』『剱人』『雪山放浪記』『上越・信越 国境山脈』(山と溪谷社)などがある。

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