「新緑」〜爽やかに切りとる|山の写真撮影術(2)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。今回は、新緑を主役に爽やかな春の山を表現する方法を紹介します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=平のゆきこ

 

山笑う季節。それが春。モノトーンであった山々が、一気に色をまとう。とはいえ、そのうつろいは一斉の同調主義ではない。時にダイナミックでありながらも、繊細でほのかで淡くて甘い、初々しい変化がまばゆいばかり。

この季節の変化を支えるのが、萌える新緑だ。緑の鮮やかさを活かすために、同じように鮮やかな空を組み合わせるもよし。また、あえて樹幹や枝をシルエットのように暗く力強く表現すれば、新緑はより爽やかな印象だ。

一方で、新緑の見せる黄緑と深緑、明と暗が織りなし醸す淡いグラデーションを忠実に写し撮るというのも、見せ方の一つである。同じ色に見えながらも、その中の微細で微妙なトーンの違いが、あるやなしやの明暗が、山の春を静かに静かにことほぐ。一見フラットで穏やかな一枚に春が凝縮するはずだ。

反射光を調整する偏光(PL)フィルターで鮮やかさを際立てることも、新緑らしさを引きだす一つの古典的テクニック。

 

新緑のブナ林をダイナミックに捉える

ブナ林の新緑は光にあふれている。
森の中だからこそ、樹幹の力強さを活かした。
超広角も幹の太さの演出に効果的だ。
丹沢・臼ヶ岳にて

①明るい部分を入れて広がりを出す

写真は明暗の表現である。ささやかな白い雲の向こうの太陽を葉越しに入れて、葉を明るく透かした。樹幹のシャドーと対照的なこのハイライトがあることで、光の階調が豊かになる。


②青空の面積は控えめに

テーマは新緑である。明るく映える緑である。青い空は緑と同じような明るさなため、緑と競合してしまう。ここではテーマの緑を画面の中でしっかりと見せるために、青い空を少し控えめに取り込むことにした。


③樹幹を大胆に見せる

画面でどっしりと暗部を支えているのが、この樹幹。メインテーマではないので、ちょっと横から。とはいえ、存在感は活かしたい。斜めのラインでグッとせりあがる構成でメリハリをつけた。

カメラ:シグマSD1
レンズ:シグマ8-16mm f4.5-5.6 DC HSM 8mm(35mm換算で約14mm)
ISO:100
絞り値:F11 シャッタースピード:1/40秒
備考:マニュアル

 

緑の濃淡で春の息吹を表現する

入笠山のカラマツ。
春になると、カラマツの森に淡い緑が萌え始める。
アクセントとなる常緑はツガだろうか、
トウヒであろうか。

①濃緑を入れて新緑の柔らかさをプラス

カラマツの一斉林に春の息吹を狙った。その淡く柔らかな緑の質感は春そのものだ。そこに濃緑で異質な存在感を出す常緑針葉樹が入ることで、新緑の柔らかな印象が一気に増してくる。


②均質な被写体にも奥行きを出す

光線が真上から降る昼間では、山肌は陰影乏しく均質に表現される。すると量感ある表現となるが立体感に乏しい。ここでは、左奥の遠方に、濃緑常緑の樹々の固まりを配置することで、バランスのある奥行き感を出してみた。


③空や稜線を入れずに写す

春の空。光に満ちながらも、時には黄砂さえ混じり、ちょっと色のクリアさに欠ける時もある。また、山肌だけで構成することで、どこまでも山が無限に続くような想像が湧いてくる。不要な空は排除してパチリ!

カメラ:ソニーα7
レンズ:シグマ マクロ105mm f2.8 EX DG OS HSM
ISO:160
絞り値:F10 シャッタースピード:1/125秒
備考:絞り優先

 

コラム

想像力をかき立てる、流れにきらめく新緑

写真、特に自然を相手にした写真は、リアリティーある表現にとどまりがちである。しかし、そこから簡単に踏み出すことができるのも写真である。

静かなだけでなく、動きのある写真に、爽やかな新緑をさりげなく配置。動きのなかに季節をにじませる、というのはどうだろうか。

たとえば、流れる水。清き流れをふっとのぞき込めば、たえず揺らいで休むことを知らない水面。そこにも、鮮やかな緑がゆらゆら映り込んでいるものだ。奔流が生む無限の変化に、浮かんでは消え、消えては浮かぶ季節の色と光。これこそが新緑の妙味である。飽くことなく何枚もシャッターを切り、その色合いを楽しんでみよう。きっと写真の幅もぐっと広がるはずだから。

山と溪谷2022年5月号より転載)

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プロフィール

三宅 岳(みやけ・がく)

1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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