「日本一汚い野営場」からの脱却。おらが山を守る新得山岳会
豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、北海道のトムラウシ山で、自然環境保護に取り組んでいる「新得山岳会」を紹介する。
取材・文=一ノ瀬伸、写真=新得山岳会
新得山岳会(2018年度認定)
Area:トムラウシ山Main activity:携帯トイレの普及
Group profile:
トムラウシ山麓の新得町を拠点に活動する山岳会で、70年以上の歴史をもつ。現在、会員は30~80代の57人。一年を通じて、道内のさまざまな山に登っている。自然保護や登山道整備の活動も行なう。
愛する「おらが山」を守るために
「日本一汚い野営場」。大雪山系トムラウシ山頂近くの南沼野営指定地は、そう言われてきた。山小屋やトイレはなく、登山者の排泄物や使用済みのティッシュペーパーが散乱。用を足すために登山道から外れて岩陰へ向かう踏み跡ができ、高山植物に被害が出た。野営地に携帯トイレ用の便座ブース、登山口に携帯トイレの回収ボックスを設けるなど対策は講じられたが、大きな改善は見られなかった。「あぁ、白いティッシュの花が咲いているよ」。悲惨な光景に、そんな嘆き声が上がっていた。
潮目が変わったのが2017年。環境省や北海道、地元の新得山岳会などによる対策部会が発足し「トムラウシ南沼汚名返上プロジェクト」を始動した。トイレ問題の深刻さを発信し、登山者に携帯トイレ使用を粘り強く呼びかけた。「山岳会にとっておらが(私たちの)山という愛着がトムラウシ山にあります。大自然のなかで不快な思いはしたくないし、足を運んでくれる人にもさせたくないです」新得山岳会会長の小西則幸さんは力を込めて話す。
山岳会は、1951年設立の長い歴史をもち、プロジェクト以前からトムラウシ山で登山道整備や野営地での清掃活動などをしてきた。
登山者へのアンケート調査の結果を受け、山岳会は動いた。まず2019年、野営地の携帯トイレブースの増設。従来の1基では朝の混雑時などに利用できる人数が限られてしまうからだ。会員延べ約20人が計200kg近い資材を5日間かけて荷上げし、完成させた。
さらに昨年、登山口に携帯トイレの販売ボックスを設置。持参しない登山者が手軽に入手できるようにする試みで、協力金500円を支払って、1回分を取り出す。 プロジェクトの効果はしっかり表われてきている。2カ所の登山口で回収している携帯トイレの数が劇的に増加。15年前には100個にも満たなかったが昨年、過去最多の1453個に上った。
「以前に比べればずいぶんきれいになりましたよ。でも、まだまだ完全ではない。携帯トイレを持つのが当たり前になるように、呼びかけを続けていきます」
★日本山岳遺産認定地 詳細: トムラウシ山[北海道]新得山岳会 (2018年)
日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します
日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。
支援団体の条件
- 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
- 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体
- 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体
助成対象となる活動費の主な用途
- 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
- 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
- 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費
助成金総額 250万円(予定)
詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html
(山と溪谷2022年6月号より転載)
プロフィール
日本山岳遺産基金
日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/
日本山岳遺産の横顔
日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!