関東の太平洋側と日本海側の植物が同時に見られる、玉原湿原の高山植物

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群馬県沼田市、武尊山の西側に広がる玉原湿原は、尾瀬の近くにあって目立たないが、小規模ながらも植生豊かな場所だ。6月、そんな玉原湿原に高橋修氏は訪れた。

ワタスゲの白い果穂が揺れる玉原湿原


今年の梅雨は突然明けたようだが、6月中旬の梅雨のさなかに、群馬県沼田市の玉原高原に行った。目的は玉原湿原の高山植物だ。ワタスゲの白いフワフワした果実や、青紫の花が目にもつややかなヒオウギアヤメ、オゼヌマタイゲキの別名があるハクサンタイゲキなどの花が美しく咲き揃っていた。

ヒオウギアヤメが木道脇に咲く

ハクサンタイゲキの黄色い花


玉原湿原は、関東平野北部に位置する上州武尊山の麓にある湿原。位置的に近い尾瀬に比べると規模は小さいが、生えている植物種は似ている。標高も高く、夏も涼しい。日本有数の豪雪地帯でもあり、周囲はブナの森に囲まれている。本州の脊梁山脈より南に位置して、水系としては太平洋側に位置するが、植物の多くは日本海要素植物であり、関東の太平洋側と日本海側の植物が同時に見られる貴重な場所である。

日本海要素植物タニウツギの花

玉原高原のブナ林


6月から7月上旬にかけては、ヒオウギアヤメの青紫色の花とハクサンタイゲキの黄色の花が目立つ。湿原の中央部にはワタスゲの白い果穂が風に揺れ、林縁にはガクウラジロヨウラクがピンク色の花を咲かせる。コバイケイソウは当たり年と外れ年がある。コバイケイソウは北アルプスでは7月に咲くが、玉原湿原では6月に咲く。しかし2022年にはコバイケイソウの開花はまったく見られなかった。どうやら今年は外れ年のようだ。

ガクウラジロヨウラクの花は釣鐘型


盛夏にはミズギクやキンコウカの黄色い花が湿原を彩り、紫色のオゼヌマアザミも咲き始める。こうして初夏から夏にかけて途切れることなく、玉原湿原には花が咲いていく。秋になると草紅葉になり、あとは雪に覆われてしまう。

この貴重な玉原湿原を、ぜひ多くの方に知ってほしい。現在はシカの食害でずいぶん傷められてはいるが、それでもいい湿原なのである。尼ヶ禿山の周囲は広大なブナの林だ。関東有数のブナの森も合わせて楽しんで欲しいものである。

鹿よけネットの説明/ミズバショウは、ここまでしないと鹿から守ることができない


玉原湿原と組み合わせて登ることができる山は、玉原高原の尼ヶ禿山、鹿俣山などがある。鹿俣山はちょっときついので、玉原湿原をメインにするならば、尼ヶ禿山に登ってから玉原湿原を歩くとよい。玉原湿原は歩くだけなら一周30分程度である。ゆっくりと植物を楽しみながら歩きたい。

玉原湿原から歩ける、尼ヶ禿山の山頂


玉原湿原までのアクセスはマイカーであれば簡単で、首都圏から日帰りも可能だ。土日祝日には沼田駅から路線バスが出る(2022年調べ)。湿原は木道でよく整備されている。

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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