いよいよ秋本番。南アルプス南部周辺で見られる黄葉の魅力

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秋本番の10月。真っ青に澄みわたった空の下、山河が錦に染まる季節となる。標高の高い場所はそろそろ降雪の便りも届くが、山麓にも目を向けると、この時期、素晴らしい色彩が楽しめる。ここでは南アルプス南部周辺の黄葉とその魅力について紹介しよう。

写真・文=岸田 明

椹島・牛首峠から赤石沢の奥に赤石岳山頂部を見る(11月上旬)

椹島・牛首峠から赤石沢の奥に
赤石岳山頂部を見る(11月上旬)

「紅葉」ではなく「黄葉」なのは、南アルプスの場合、紅く色づく木々が少なく、ほとんどは黄色に色づく落葉樹が中心となっているからである。垂直変化で見ると、稜線付近の木々は黄色に染まるダケカンバが中心で、高度を下げるに従って常緑のシラビソやツガの針葉樹林帯になり、その中に黄色のブナなどが混じってきて、さらに高度を下げると一部地域で黄色に染まるカラマツの植林帯になる。

黄葉の時期は、ほかの中部山岳地帯と同じで、稜線では9月下旬から10月上旬。他方視点を広げて見ると、南アルプスを形造った大井川のみならず、西の天竜川の支流の遠山川や小渋川などは、日本有数の落葉樹を中心とした長い流域を持っており、川に沿って高度を下げれば長い期間、それぞれの場所で黄葉を楽しむことができる。大井川最北の二軒小屋で10月下旬、椹島付近で11月上旬、畑薙ダム周辺で11月中旬、大井川の支流・寸又川では11月下旬が見頃だ。

二軒小屋上流、東俣の黄葉と限られた時にしか見られない幻の滝

二軒小屋上流、東俣の黄葉と
限られた時にしか見られない幻の滝


ここからは、黄葉がとくに素晴らしいスポットをいくつかピックアップしよう。

●千枚岳から荒川小屋
稜線付近の黄葉はダケカンバが中心と前述した。千枚岳から荒川小屋間はダケカンバが密生していて素晴らしいコースになっている。千枚小屋から歩き始めてすぐ、ダケカンバの並木道があり、山の主のような形のよいダケカンバも見られる。

千枚小屋の先、まるで植林されたかのように登山道の両側に並ぶダケカンバ

千枚小屋の先、まるで植林されたかのように
登山道の両側に並ぶダケカンバ


森林限界を超えると、笊ヶ岳や富士山の眺望が開ける。千枚岳山頂付近で赤石岳の立派な姿を愛でた後、悪沢岳手前にある丸山の山頂付近を歩けば、南アルプス南部では珍しい紅葉も見ることができる。荒川小屋はダケカンバに囲まれた別天地だ。9月下旬から10月上旬が適期。
(※注)千枚小屋、荒川小屋の開設期間は10月上旬まで。2022年10月12日現在、これらスポットはシーズン外。

⇒付近の地図をヤマタイムで見る

草紅葉の丸山付近から見た赤石岳と奥に聖岳、上河内岳

草紅葉の丸山付近から見た赤石岳と
奥に聖岳、上河内岳

荒川前岳山腹から見た赤石岳。右手中腹に荒川小屋が小さく見える

荒川前岳山腹から見た赤石岳。
右手中腹に荒川小屋が小さく見える

 

●大井川流域
大井川流域で黄葉がとくに素晴らしい区間は、椹島から赤石渡付近まで。このあたりは大井川が蛇行していて、またスカイラインにも変化があるので、よい写真が撮れる。第一の撮影ポイントは椹島の牛首峠(本記事一番上の写真)。また、赤石沢に沿って林道を下り黄葉のトンネルを抜けると、コバルトブルーと黄葉のコントラストが素晴しい赤石ダム湖になる。このダムの麓は対岸の紅葉が見事で、またダム越しに上河内岳を見ることができる。

⇒付近の地図をヤマタイムで見る

赤石ダム湖と鳥森山の黄葉

赤石ダム湖と鳥森山の黄葉

赤石ダムを見上げる。左の平らな山頂が上河内岳

赤石ダムを見上げる。
左の平らな山頂が上河内岳


さらに下ると、赤石沢と大井川本流の合流点である赤石渡、屋根形の岩壁が目をひく破風岩など見所が多い。最盛期には山に登らず黄葉見物に訪れる人も多い。またここ数年、林道の舗装工事も進んできたので、自転車利用で黄葉見物をするのもよいだろう。適期は11月上旬。

赤石沢と大井川本流の合流点、赤石渡。奥は鳥森山の山頂付近の稜線

赤石沢と大井川本流の合流点、赤石渡。
奥は鳥森山の山頂付近の稜線

赤石渡の下流の破風岩までが、スカイラインに変化があり絵になる区間

赤石渡の下流の破風岩までが、
スカイラインに変化があり絵になる区間


(※注)2022年の台風14号、15号の影響により、2022年10月14日現在、林道東俣線(沼平~椹島)は歩行に注意が必要で、通行規制がある場合もある。最新情報を要確認のこと。
⇒静岡市 林道通行規制情報
⇒「椹島ロッヂからの現地情報」

 

●その他周辺
天竜川の支流、遠山川沿いは日本のチロルといわれる下栗の里や、旧森林鉄道跡の遊歩道などが見所。遠山川沿いはかつて森林開発が行われ、森林鉄道を利用して木材が搬出されていた。近年、南信州山岳文化伝統の会が遊歩道として整備し、黄葉を楽しめるようになった。適期は11月上旬。

下栗の里より、谷の奥に兎岳、聖岳、上河内岳

下栗の里より、谷の奥に
兎岳、聖岳、上河内岳

遠山川沿いの旧森林鉄道跡

遠山川沿いの旧森林鉄道跡


また大井川水系ではないが、静岡市を流れる安倍川上流の梅ヶ島周辺はカエデ類が多いほか、赤水の滝など名瀑も多く、温泉に浸かりながらのんびり過ごすのもよいだろう。適期は11月中旬。

梅ヶ島キャンプ場のカエデ

梅ヶ島キャンプ場のカエデ

赤水の滝。奥に大谷嶺の七人作りの尾根の稜線

赤水の滝。
奥に大谷嶺の七人作りの尾根の稜線

プロフィール

岸田 明(きしだ・あきら)

東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。

奥深き南アルプス南部の魅力

南アルプス南部は、北部と比較してさらに山深く、簡単にはいけない反面、独特の魅力にあふれている。季節、エリアなど色々な切り口で、南アルプス南部の魅力を取り上げよう。

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