絶対必要な雪山装備って? 山岳ガイドに教わる“雪山登山 入門のススメ”(2)

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雪山登山をはじめたいが、「はじめる=出費」はつきもの。そこで、できるだけコストを抑えて、雪山登山はじめる方法を考えてみよう。

絶対必要な雪山装備って?

質問:
「雪山装備」を見ると、冬靴、冬ウェア、アイゼン、ピッケル、ビーコンなど、必要な装備が多すぎて、とても財布がついていきません。雪のない山では「最低限、靴・ザック・雨具」と言われて少しずつ揃えていきました。雪山装備も、できれば少しずつ買い足していきたいです。
冬の雲取山に行くレベルだと、絶対必要な装備、夏山の装備のままで良いものなど、分類できますか?

 

たしかに、雪山装備を一通り揃えるとなると、冬のボーナスは全て消えてなくなると思って間違いないです。それでも所得に対する登山用具の値段は、50年前に比べると格段に安くなっています。

古い山岳雑誌を捜してみたら1968年1月号に「シャルレ モンブラン(今は無き、フランス製のピッケル名)特価10,900円」という広告を発見。1968年の大卒者の初任給が20,000円に届かなかった時代にピッケル一本が、特価でこの値段だったことを考えると、雪山装備を揃えることの厳しさを思い出します。

老舗の社会人山岳会でも冬山全装備を一人一人が購入することをできず、アイゼンやワカンなどは山岳会内で使い回し。サイズは調整可能でも形状までは変えられず、ビニールの絶縁テープをベルトがけに巻いてピッタリサイズに調整していたのを思い出します。

 

1977年「山と溪谷 12月号」では、シャルレのピッケルは特価で13,650円~

 

低山の樹林帯であれば、普段で使ってるトレッキングシューズで大丈夫なことも

質問にあった「冬の雲取山辺りの樹林帯の雪山(2000m以下で樹林帯の山で、積雪の少ない山域)」に行くのであれば、靴のサイズが小さめでなく(靴のサイズに余裕がないと、冬は血行が妨げられて冷える)、防水透湿素材の靴であれば夏に使ったトレッキングシューズでも大丈夫です。それに、スパッツ(夏用レインスパッツでも可)と、軽アイゼン、ワカンが特別な装備となります。

小物類としては、手袋とウールかフリース素材の帽子。アウターはカッパの上下でも大丈夫です。夏はストックを使わない人も雪山では必要となります。

 

 

本格的な雪山登山をするのであれば、自前の“雪山登山靴”が必須です

問題は、それ以上の標高で森林限界を越えた本格的な雪山の装備です。絶対に、これだけは自前の物が必要となるのは“雪山登山靴”。「本格的な雪山登山靴は、何を購入するか?」を語りだすと、それだけで、もう一ページ必要なので、今回は核心部だけを言うと__。

時にはマイナス30度近くまで下がるかもしれない気温の中で、登山者の足を守り、できるだけ軽快に行動できる靴は最低でも6万円はします。とりわけここ数年の「円安」と「デフレ経済」では、給料は上らないのに、輸入登山靴の価格はうなぎ登り。そりゃそうだよね。つい最近まで1ドル80円以下だったのに今では115円。同じ1ドルを持っていても3割も価値が減ったんだから。

でも、雪山登山靴だけは自分の物が絶対に必要です。靴は履けば履くほど、その人の足に馴染んでいくので、あまり貸し借りは勧めません。ハードな雪山となれば、“ラッセル泥棒(トレースの無い雪山で、絶対に先頭に立たず、人のラッセルをあてにする人)”に徹しない限り、ワカンは必須です。それに、靴に合わせたアイゼンも靴と一緒に購入したい。

ピッケルも、これから目指す雪山登山に適当な物がほしい。手袋は、インナー手袋、中厚、厚手のウール製の物を、替えも含めて必要。それとオーバー手袋の使用も、僕はお勧めします。帽子もキャップの他に、目出帽が必要。

いやぁ、ここまで書いていて「オレ、フリーターだから絶対に無理」とガックリくる読者の顔が浮び辛いです。

でも、ズバリ・・・絶対に・・何としても、本当に必要なのは“雪山登山靴”。他は、登山をやめた友達や、山の先輩、親切なガイドに借りる・・・という手もあります。そして、ひとつずつ買い揃えていってはどうでしょうか?

うーん。やっぱり雪山装備はお金がかかります。

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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