「山の雪」〜冷たさを粧う|山の写真撮影術(9)
冬の山を真っ白に染める雪。だが白さを写すだけではその細部を表現できない。雪が持つ優しさと狂気を表現するポイントを解説します。
文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭
雪は変幻自在である。すべてを柔らかく包む優しさと、やむことのない荒くれ噴き上げる狂気のふたつの顔を持っている。すべてのものを真っ白く染めたかと思えば、憂いを帯びた深い灰色に沈み込む。時には桃色橙色に輝き、暗い青に沈んで暮れる。
雪の撮影というと、露出を調整して真っ白に表現しなさい、というのがテキストの決まり文句となる。そういう考えからすると、今回の作例はキワモノである。下手をすると、暗すぎるだけの写真になる。しかし、それでよいのだ。
どこまでも暗い雪中に、一閃の光明を見る。暗い中だからこそ、明るさが生きてくる。
はたしてディテールの飛んだ明るい写真が本当に山の雪なのか、考えてもらいたい。
純白にこだわるな。明るさに惑うな。山の雪を写すなら、それは撮影者の心の映し鏡。そう思って露出なども調整していただきたい。
【作例1】青白く霞む霧氷
凍りつくようなモノトーンの一日。鈍い明暗、低い彩度をそのまま受け入れる。冬の静けさだけが知る、淡い階調の美しさ

①主役は霞む枝
白い景色に、現われては隠れ、隠れては現われるような数本の黒い枝が、寒さに耐える生命力を示唆させる印象を生む。これらの枝を生かすため、樹幹は画面の中央より少し左側に配置した。
②不明瞭さを残す
霧氷とも雪とも区別のつかないほどの朝景。細かい枝は精緻な描写を必要とするが、一方で霧の中のような、不明瞭さが混在していてもいい。少しハイキーな描写が、冷たさを演出する。
③冷たさはブルーで表現
この写真には暗部も明部もほぼない。フラットな光という条件下で、静的な描写である。全体にブルーな色調はシャドー部でより顕著となり、純白より冷たさを強調する。

カメラ:ルミックス DMC-GM5
レンズ:LEICA DG MACRO-ELMARIT 45mm / F2.8 ASPH./ MEGA O.I.S.(35mm換算で90mm)
ISO:200
絞り値:f6.3 シャッタースピード:1/20
備考:ホワイトバランスは晴れ、絞り優先AE +1
【作例2】淡い陽光を反射する雪の文様
橙色の太陽一閃。寒さに凍えてじっと待つだけの時間が終わった。凍風の刻んだ文様が露わになった。シャッターを切っているはずだが、指先は凍えたままだ

①太陽が全体を引き締める
暗い写真だからこそ生きるのが、とびきりの明部である。すべてが真っ黒では救いようのない写真になることもあるが、大自然の光源である太陽をダイレクトに入れると写真が引き締まる。
②白さを出さず細部を表現
白いはずの雪を白く表現しない。思い切りアンダーな橙色での表現。しかも暗いうえに逆光だからこそ、明部のディテールが生きる。風が刻んだ文様の微妙な凹凸に気づく。
③暗部は暗いままに
不必要な場所は見せない。影の暗い部分、いわゆるシャドーはデジタル技術で明るくすることも可能だ。しかし、闇のように暗くすることで、迫力が出る。想像を掻き立てる余地ともなる。

カメラ:ペンタックス K-3
レンズ:シグマ 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM(16mmで撮影、35mm換算で24mm)
ISO:200
絞り値:f9 シャッタースピード:1/1250
備考:ホワイトバランスはオート、風景モード、絞り優先AE -12/3
コラム
初冬を広角で写す
秋の終わりと冬の始まり。ほんのり柔らかく薄化粧したような雪は、確実にやってくる、すべてが白い世界への最初の一歩だ。この時期の雪はまた特別な印象を与えてくれる。
真冬のずっぽりと積もった雪や、春先のザラメ状の雪と異なる、冬の始まりを告げるだけの初々しい雪。その透き通るような白さと、ハイマツの深い緑が重なる組み合わせも、季節うつろう刹那だけに許された、秀でた景色である。これが主題であり前景となる。
遠景には、すでにしっかりと雪をかぶって真っ白に染まった稜線。しかしその足もとに残るのは、秋の名残と言うべき黒き山肌。こうした組み合わせを背景にすることで、前景の醸す初冬の清々しさは、なおいっそう引き立ってくるものである。

(山と溪谷2022年12月号より転載)
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プロフィール
三宅 岳(みやけ・がく)
1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。
山の写真撮影術
『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。
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