身近な低山での遭難事例から教訓を学ぶ『侮るな東京の山 新編 奥多摩山岳救助隊日誌』【書評】

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評者=松本圭司

侮るな東京の山 新編 奥多摩山岳救助隊日誌

著:金 邦夫
発行:山と溪谷社
価格:1100円(税込)

 

タイトルのとおり、東京の山は侮られがちなのだろう。よく界隈の山岳関係者がヘッドランプも持たない登山者に対して苦言を呈している。本書は1966年に警官となり、2013年まで各種救助隊を歴任してきた金氏による遭難救助の実録記である。金氏の著作3冊を再編集したもので、その結果300ページを超えるボリュームとなった。

舞台は金氏が担当していた奥多摩周辺で、標高は最高でも2000mくらい。日本アルプスの3000m峰などと比べると標高は低い。だが実際は多くの人が遭難して亡くなったり、遺体も見つからなかったりする。奥多摩の山は意外と厳しいのだ。まさに侮るな、である。

登場する山名や地名は、奥多摩に通っている登山者ならピンとくるものばかり。そんな場所でこれほど多くの遭難が起きているのかと、驚く読者も多いだろう。ぜひ地図を片手に読んでほしい。

そんなことまで!?と驚くのが「その他」の章だ。山中での危険ドラッグキャンプの末路や、奥多摩の山賊とその捜査について克明に描かれている。刑事ドラマを見ているようでハラハラした。

登山者の安全を、いかに警察や消防、民間救助隊が支えてきたのかぜひ読んで知っていただきたい。

 

評者=松本圭司

まつもと・けいじ/ライター、アプリ作家。道迷い遭難をなくしたいという理念で地図アプリ「ジオグラフィカ」を開発。

山と溪谷2023年4月号より転載)

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