13年を振り返りいま一度見直す山との向き合い方『山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方』【書評】

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評者=木元康晴

山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方

著:羽根田 治
発行:平凡社
価格:990円(税込)

 

本書では、平成登山ブームの2010年から新型コロナウイルス感染拡大による行動制限が続く22年までの、山岳遭難と遭難を取り巻く状況を取り上げている。

この13年の間には、さまざまな出来事があった。特に記憶に残るのは、東日本大震災や御嶽山の噴火など、予想しなかった自然災害が相次いだこと。登山中に、もし大地震や噴火が発生したらどうすべきかと、考えさせられた。

登山者の山への向かい方も変わった。特に影響したのは、スマートフォンの普及だ。初めて見たときはいかがわしいとすら感じた地図アプリが、今や必須のものになった。さらに情報収集や登山届の提出、記録の作成と公開、仲間との交流まで、スマホやインターネットで行なうようになったのだ。

しかし便利になったと思うと同時に、これではいけないとも感じる。スマホの便利さ、手軽さが、知らず知らずのうちに安易さにすり変わっているのではないのか?自分も含めた今の登山者に、そのような疑念を抱いてしまうのだ。

それら今の時代に着目すべき登山のリスクと、向き合うための答えを本書では示している。長く山岳遭難を取材し、検証してきた著者の言葉は重く、山をめざす意識の持ち方をあらためて考えさせられる。

 

評者=木元康晴

きもと・やすはる/日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅢ。著書に『IT時代の山岳遭難』(山と溪谷社)。

山と溪谷2023年4月号より転載)

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