高尾山に登ったら立ち寄りたい、とろろそばの名店

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高尾山口駅
 

“信仰の山”でふるまわれた名物とろろそば

​高尾山を訪れたら、なにはともあれ食べたくなるのがとろろそば。

高尾山の名物がとろろそばであるということを知ったのは、山歩きを始めてからだいぶたってからだった。まあ観光地の軽食処ならそばがメニューにあって当たり前、そばがメニューにあるならきつねそば、たぬきそばと並んでとろろそばもあるでしょ、ぐらいに思っていた。

信仰の山である高尾山や薬王院にお参りにくる人たちに、疲れを癒したり歩くための活力をつけるために周辺の茶店でふるまわれていたのがとろろそばと言われる。栄養があって、しかもとろとろしているから疲れていても食べやすいであろうとろろは、山を歩き慣れていない参拝者に有り難かったに違いない。

高尾山口駅からケーブルカー乗り場に向かう参道にも、山中にも、山頂にも、とろろそばの味わえる店が点在している。山頂の茶店で登頂の喜びに浸りながら味わうもよし、下山後に一杯やりながら味わうもよし。

お店によって少しずつ中身は違う。温かかったり、冷たかったり、とろろをつけて食べるタイプだったり、とろろ以外の具が入っていたりいなかったり。食べ比べて好みのお店を見つけるのも楽しみ。食べ歩く…のはさすがに胃袋に限界があるので、今日はこのお店、次回はあそこに行ってみようか…などと考えるのも楽しい。

絶品とろろそば

髙橋家の絶品とろろそば(写真/和氣淳)

 

ひたすら美味しいそばを食べれば、心が満ち足りる。それだけで幸せ

いくつもある店のなかで、いい山歩きができたなぁと、とてもいい気分だったり、がんばった自分をほめたいと思ったときに入るのが、髙橋家。ケーブルカー清滝駅の向かいにある、古い木造の建物が目をひくそば屋だ。創業は江戸時代、現在の建物が建てられたのは昭和初期だという。店内は昔ながらの茶店の雰囲気を感じられる、落ち着いたしつらえだ。

登山者にも観光客にも人気の店で、ハイシーズンはかなり混み合う。行列にめげて、今日はもう無理だな…と諦めることも多々あるが、山歩きのあと、少し時間を外せば案外に少し待つぐらいで入れることもある。多少運試しのような気持ちで店に向かい、ほっとして列の最後尾に並ぶのがいつものパターン。

とろろそばは冷たいのと温かいのがある。いずれもつゆに入った状態で供され、別の器のとろろを、丼に入ったそばにかけて食べる。すっきりした細めのそばと、風味のよいとろろ。うずらの卵をとくとさらにまろやかさが加わる。そばが供されるまでは山の話で楽しく盛り上がっていても、食べ始めるとついつい無言になる。

ここのそばは好きだな。よく締まっていてのどごしがよく、スルスルと入っていく。本当はせいろでそば本来の風味を味わいたいけど、ついついとろろそばを頼んでしまう。とろろもちゃんと味わい深いんだもの。寒い時期はやっぱり温かいほうがいいよね、体の中からよく温まるよ。ズル、ズル、ふはぁ。…やっぱり美味しいや。

そば粉にも、とろろにも、そばを作るすべてのものを吟味して作っているお店。食通であればそば粉の産地やつゆの成分も気になるのだろう。しかし下山後に美味しいものを食べたいだけの私は、正直そこは気にしていないのだ。居心地のよい店内で、ひたすら美味しいそばを食べて下山後の空腹が満たされ、心が満ち足りる。それだけで十分、それだけで幸せ。

実はこのお店の焼き味噌も絶品だ。いい感じに焼けた味噌の匂いと、ぷちぷちとしたそばの実の食感。ビールも合うけどこの味には日本酒だよね…と飲み始めたら間違いなく止まらなくなるであろう。一度味わってこれは危険だと思って以来、なかなか手を出せずにいる。

今日のお店
高尾山 髙橋家
住所:東京都八王子市高尾町2209
電話番号:042-661-0010
http://www.takahasiya.com/

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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