日本一高所にある温泉宿・みくりが池温泉で濁り湯に浸かり、残雪の雄山に登る

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ひとり気ままに山と温泉を楽しむ温泉登山。登山前後に泊まりたい至福の温泉宿を紹介します。第39回は残雪の立山と「日本一の高所にある温泉」みくりが池温泉へ。

写真・文=月山もも

4月中旬に立山黒部アルペンルートが開通すると、室堂周辺は観光客や登山客で一気に賑わいますが、その賑わいが少し落ち着いた5月下旬ごろに立山に行くのが私は好きです。

室堂ターミナルから徒歩15分のみくりが池温泉に泊まり、翌日は雄山に登って残雪の立山を満喫してきました。

 

みくりが池から登山開始、快晴の雄山に登る

朝一番の北陸新幹線に乗って富山駅で降り、電車、ケーブルカー、バスを乗り継いで室堂ターミナルへ。

5月下旬ともなると、雪の大谷もだいぶ背が低くなっていました。

みくりが池の向こうにこれから登る雄山の姿を眺めてから、登山開始。

1時間ほど雪の上を歩いて一ノ越に着きます。一ノ越までは滑りやすいトラバースもあるのでアイゼンを着けていましたが、完全に雪がなくなったのでアイゼンを外して、雄山を目指します。

一ノ越からさらに1時間、ザレた急坂を登って雄山の山頂に到着します。7月から9月までは、山頂の神社の社務所が開いていて祈祷もしてもらえますが、この季節は閉まっているのでとても静かです。

山頂は360度の大絶景で、どの方向を向いても北アルプスの名山を眺めることができます。

室堂方向を見下ろすと、白い雪が地獄谷からの噴気で染まっているのがわかりました。

景色を堪能した後はザレた急坂を慎重に下り、みくりが池に戻ってきました。

 

1人ずつしっかりスペースが確保された相部屋

みくりが池温泉に1人で泊まる際は、基本的には相部屋利用になります。

相部屋にもいくつか種類があるようですが、この日泊まったのは2段ベッドのある女性専用の相部屋。6名まで宿泊可能です。

暖房がついていて常に暖かく、ベッド毎に厚手のカーテンで区切られていてスペースもしっかり確保されています。それぞれのベッドにコンセントと読書灯があるのも便利でうれしい。

指定されたベッドに荷物を置いた後は、館内にある「喫茶みくり」でビールと軽食をいただくことにしました。

名物の「エンマ様のホットピザ」のハーフサイズと生ビールを注文し、すばらしい景色を眺めながら味わいました。

夕方になると、宿の前にあるテラスからは山に沈む夕陽を眺めることができます。

 

日の入りを眺めつつ宿の周りを散歩していると、冬毛から夏毛に変わろうとしている雷鳥とも遭遇できました。みくりが池温泉の周辺は雷鳥の出没スポットなので、滞在中は散歩が楽しみの一つです。

 

白濁の硫黄泉を「熱め」と「温め」2つの浴槽で楽しむ

みくりが池温泉には男女別の温泉浴室があり、宿泊客は朝8時から9時までの清掃時間帯以外はいつでも温泉を楽しむことができます。登山で早出したいときでも朝風呂に浸かれますし、チェックアウト後も16時までは無料で浴室を利用できるのがうれしいですね。

 

日帰り入浴が16時までなので、16時を過ぎて人が少なくなった時間帯に入浴するのがおすすめです。

浴槽が2つ並んでおり、どちらも源泉かけ流しですが、お湯の投入量で片方は熱め、片方は温めの温度になっています。

窓から残雪の山並みを眺めつつ濃厚な硫黄泉に浸かった後は、喫茶みくりでソフトクリームをいただきました。

 

ホタルイカや白エビなど富山産食材を味わう

食事は朝夕共に1階にある食堂でいただきます。宿泊した2022年の5月時点では、グループ毎にアクリル板での仕切りがありました。

飲み物の注文は、券売機で食券を購入し、半券をスタッフの方に渡す方式です。

私は「純米吟醸 立山」「満寿泉(ますいずみ)」「苗加屋 琳赤(のうかや りんのあか)」の3種類の富山県産のお酒が楽しめる、利き酒セットをオーダーしました。

ぶり大根やホタルイカの酢味噌和えなど、富山の魚介を使ったお酒の進む料理と共にいただきました。「菜の花の辛子和え」や「豆腐と春野菜の蒸し物」など、春らしい野菜のおかずが花を添えます。

魚介だけでなく牛肉の陶板焼きもあり、味も良く、ボリュームも十分な夕食でした。

 

朝食も食堂でいただきます。

サラダ、目玉焼き、ソーセージ、焼き鮭などおかずの種類も豊富で、納豆やふりかけなどご飯のお供もありました。

 

また、こちらの食堂では11時から14時まで昼食営業を行なっています。麺類や丼ものもいろいろと揃っていますが、おすすめは「蜃気楼御膳」です。

「白エビのお造り」「げんげの唐揚げ」「ホタルイカの沖漬け」など、夕食メニューとはまた異なる富山の海の幸を楽しめますので、時間があればぜひ、ランチでも立ち寄っていただきたいです。

 

*紹介した食事、サービスの情報は2022年5月取材時の内容です。
 

みくりが池温泉

料金:1泊2食付き/1名利用10,650円~ ※プラン、時期によって変動
住所:富山県中新川郡立山町室堂平
電話:076-463-1441
HP:http://www.mikuri.com/index.html

この記事に登場する山

富山県 / 飛騨山脈北部

立山・大汝山 標高 3,015m

 ふつう立山と呼ぶ場合、雄山神社を祭る雄山(3003m)か、浄土山、雄山、別山を含めた立山三山を指す。昔は毛勝三山から薬師岳辺りまでを含めて立山と呼んだし、江戸時代の文人画家、谷文晁(たにぶんちよう)の『日本名山図会』では別山、立山、剱岳をひとまとめに「立山」としている。つまり漠然とした山域なのだ。  その山域の最高峰が大汝山。古くは御内陣と書かれているので、雄山神社の奥社だったと思われる。縦走路から少し東にそびえている。  花崗閃緑岩質片麻岩で構成される大汝山には、西側に氷河地形として知られるカールがある。日本の地理学のパイオニアで、日本の氷河地形を初めて発見した山崎直方の名をとった山崎カールで、天然記念物に指定されている。  冬の北西の季節風で豪雪が山の東側に積もるため、日本のカール地形はほとんど東斜面に発達しているので、西斜面の山崎カールは珍しい。室堂から見ることができる。  地籍は富山県中新川郡立山町。乗鞍火山帯に属す火山で、溶岩台地の弥陀ガ原の上にそびえている。立山のもう1つの顔は加賀の白山とともに北陸の霊山として古くから信仰されていた修験道としての山。  開山は大宝元年(701)で越中介佐伯有頼(慈興上人)が鷹狩りの折、手負いのクマを追って奥山に入り岩屋に追い込んだが、中に入ると阿弥陀如来と不動明王に化身し「立山開山」を命じたとか。同じ8世紀には越中国の国守に任じられた万葉の歌人、大伴家持が「立山に降り置ける雪を常夏に 見れども飽かず神からならし」と歌ったように、立山は霊位に満ちた山なのである。  後年、天台宗と真言密教の修験道場となり、立山三山を極楽、地獄谷と剱岳を地獄に見立てた思想が独得の立山講を生み、山麓の芦峅寺衆徒の立山曼茶羅図による視覚に訴える全国布教で信者を増大させていった。ことに、宗教上のタブーだった女性にも極楽往生ができるという「布橋大潅頂」がセールスポイントで、江戸時代での先進的、精神的女性解放の旗印だった。  イラスト入りで地獄極楽を説き、ほかの宗門では不可能な、女性でさえ極楽往生ができるという説教を聞かされたときの驚きと喜びが、立山講中の賑わいを生み、芦峅寺から材木坂を登り、長大な弥陀ガ原をたどって室堂や雄山へと、三十数kmもの山道の苦行を悦びに変えていたのである。  現在の登山者は室堂までケーブルカーやバスを乗り継ぎ、室堂から2時間30分で雄山へ、さらに15分で最高峰の大汝山に登り着く。

プロフィール

月山もも

山と温泉を愛する女一人旅ブロガー。山麓の温泉宿を一人で巡るうちに「歩いてしか行けない温泉宿」に憧れを抱き、2011年から登山を始める。ゆるハイクから雪山登山まで、テントも一人で担ぐ単独登山女子。 ブログ「山と温泉のきろく」https://www.yamaonsen.com/に、温泉と登山のすばらしさについて綴っている。山と温泉に魅せられる人を増やすことが、人生のよろこび。著書に『ひとり酒、ひとり温泉、ひとり山』(KADOKAWA)。

ひとり温泉登山

山と温泉を愛する月山ももさんによる月1連載。登山前後に入りたい極上の温泉宿をご紹介します。

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