防水・軽量なバックパック マタドール/フリーレイン22|高橋庄太郎の山MONO語りVol.102

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、マタドールの「フリーレイン22」です。

文・写真=高橋庄太郎

各種そろったアウトドアギアではあるが、そのなかでもさまざまな方向に進化を遂げているのが、小型バックパックである。今年は5月にはすでに大きな台風が発生し、梅雨入りが早かった地域も多いなど、日本は多雨が予想され、とくに“防水性”に秀でるタイプは出番が多そうだ。

そんなわけで今回ピックアップするのは、マタドールの“フリーレイン22”。モデル名に“レイン”という言葉が入っているだけに雨には強いはずであり、防水性には期待できそうである。

 

まずは構造を確認

アメリカのブランドであるマタドールは、一般的なトラベル用品のラインナップが多いこともあり、ブラックを中心としたシックなカラーリングが特徴だ。

このフリーレイン22ももちろんブラック。光沢を抑えたマットな質感である。

後述するが、フリーレイン22はパッカブルなバックパックだ。そのために携行性や軽量性を考え、かさばりの原因になる背面パッドやフレームなどを省いているのも大きな特徴である。

だから、荷物を入れずに広げると、このようにまったく厚みがなくなる。

同様にショルダーハーネスからもパッドを省いており、ウエストのベルトも最低限のものである。各部のバックル類も小さめで、これも収納時のコンパクトさに貢献している。

そして生地は防水素材。縫い目も防水処理が施されている。

では、はじめは携行性について。似たような用語だが、アウトドアギアではよく“パッカブル”や“ポケッタブル”という言葉が使われる。しかし、両者は似ているようで意味が微妙に異なる。その点、フリーレイン22は“パッカブル”。バックパック本体につけられたポケットに収納できるのではなく、収納用のメッシュ製スタッフバッグが別に付属しているからである。

このようなメッシュの袋には破けやすいものが多いが、これはかなり強靭な素材。細かい点だが、タフなギアが好みの僕はうれしくなる。

フリーレイン22をきれいに畳んでからこのスタッフバッグに入れると、ちょうど手の平サイズに収まった。

ただし、スタッフバッグは少し小さく、適当に畳むと収まり切れなくなり、きれいに畳んでもドローコードを引き絞れないほどのサイズ感なのであった。フリーレイン22そのものの機能とは関係ない点とはいえ、もうちょっと大きめのスタッフバッグだったら楽に収納できて便利だったと思うが、小さく収納できることには間違いない。

次に“防水性”にも大きく関係する、フリーレイン22の荷物の収納方法について見てみよう。

フリーレイン22は、上部の開口部(荷室へのアクセス部分)が大きく、その部分の生地をクルクルと巻いて留める、いわゆる“ロールトップ式”だ。

その開口部には、防水性を高めるために約40㎝の止水性のファスナーが一直線に取り付けられている。

以下の写真はファスナーのスライダー部分だ。

取り立てて特殊なファスナーではないので、最後まで閉めてもスライダーの横にはわずかに隙間が空く。そもそも使用されているのは“止水”ファスナーであり、“防水”ファスナーではない。この部分へ完全な防水性を求めるわけにはいかないのだ。

しかし、だからこそフリーレイン22はロールトップ式なのである。止水ファスナーの部分を内側にして巻いて留めることで浸水に弱い部分を防水生地で覆い、バックパックの構造として防水性を高めているわけだ。

メーカーの説明では、最低3回は巻くことが必要だという。

巻いた部分はサイドのバックルと連結し、水が浸透しないように生地の緩みをできるだけ失くす。

このような状態になると、止水ファスナーのスライダー部分(バックル部分)が下方にさがり、雨が上から流れてきてもバックパック内部には流れ込まない位置になることがわかる。

注意したいのは、上部を過度には巻かないことだ。巻きすぎるとショルダーハーネスの位置に干渉してしまい、背負い心地が悪くなってしまうからだ。

ちなみに、以下は巻き方を反対にしてみたときの状態である。じつは僕にはこのほうが巻きやすかった。

だが、この状態だとバックパック上部に水が溜まりやすくなる。構造上はそれでも内部に水は浸水しないはずだが、やはり水が流れ落ちやすい本来の向きの巻き方のほうがよさそうだ。

こんなフリーレイン22は全面的に薄手の防水生地で作られており、その生地の縫い目からの浸水も防止するため、縫い目には徹底的にシームテープが張られている。  

生地が薄いので手荒く扱えば穴が空くだろうが、これだけの処理を行なっているのだから、穴さえできなければ浸水の恐れは少なそうだ。

こちらは表側から見たフリーレイン22の生地である。

マットなブラックの生地がいちばん薄く、穴あきには要注意。格子状の生地は地面に擦れやすいボトムの部分で、いくぶん生地が厚く、傷みにくくなっている。濃いブラックの部分は伸縮性の素材で、サイドポケットに使われている。

さて、先に述べたように、フリーレイン22は背面パッドを省いている。そのために適当に荷物を入れると背中がゴツゴツし、背負い心地はよくない。

このテストのときはその弱点を緩和するため、僕は折り畳んだ赤いレインウェアとレインパンツを背中側に入れておいた。容量22Lのフリーレイン22はもともと入れられる荷物の量に限りがあり、背中にかかる荷重も少ないこともあって、これだけでも十分なクッション性を確保できた。

 

フリーレイン22を背負って山へ

ここからは実際に背負って山を歩いて見た際の感想だ。

この日は晴天で、気温も高かった。バックパックの防水性をテストするためには好条件とは言えないが、気持ちのよさは格別である。

繰り返すが、使わないときの収納性と軽量性がフリーレイン22の特徴で、そのために背面パッドは省略され、ショルダーハーネスも簡素なタイプとなっている。

しかしショルダーハーネスの肩に当たる感じは悪くない。ほとんど伸縮しない張りのあるメッシュ素材なのだが、思いのほか荷重がうまく分散され、肩に食い込むこともない。また、5段階に移動できるチェストストラップもつけられている。

向こう側が透けて見えるのでもわかるように、通気性はすばらしい。

また、水分を含まない素材なので、汗を吸い取って重くなることもない。

ウエストハーネスも簡易的なものである。

荷物の重さを受け止めるのではなく、体を大きく動かしたときでもバックパックが体から動かないようにするためのストラップゆえに、これで充分だろう。

このウエストハーネスは簡単に取り外せる。山歩きではなく、街歩きや旅行のときにフリーレイン22を使うならば、このハーネスは邪魔なだけ。取り外してより軽量にしたほうが使い勝手は良くなるに違いない。

とはいえ、山ではこれらのハーネスやストラップはやはりあったほうがいい。

とくに下り坂ではバックパックが大きく動くため、これほど簡素なウエストハーネスでも大いに役立った。

その後、気温が高い山をどんどん進んでいくと、いつしかたくさんの汗をかき、次第にウェアが湿ってきた。

とくに背中の濡れが高まっているのを体感する。

フリーレイン22の防水素材は、レインウェアのような防水透湿性の生地ではなく、透湿性や通気性を兼ね備えてはいない。同時に背面パッドを省いているということは、パッドが汗を吸い取る効果も期待できないということである。そのために、背中にかいた汗はそのままダイレクトにウェアを濡らす。

これは想定内のこと。防水性を獲得するためにあえて汗の処理を断念しているだけで、これはこのバックパックの特徴なのである。設計上、織り込み済みの弱点ともいえる。この手の軽量な防水性バックパックでは避けられない現象なのだ。だが、相当な濡れであることも確かである。温暖な時期ならば薄手のTシャツが濡れる程度で少々不快なだけで済むが、肌寒い時期は吸汗性や通気性をもつ少し厚みのあるウェアなどを合わせて、水分の発散を促したほうがよさそうだ。

一方、ショルダーハーネスの部分は通気性が高く、ほとんど濡れがない。

少々湿ってはいたが、休憩中に乾燥してしまう程度の軽微なものであった。

次に、防水性が高いメインの荷室以外の収納機能も見ておきたい。

いちばん大きいポケットは、フロント部分。長い止水ファスナーが使われている。

ファスナーのスライダーの末端は袋状のスリットに押し入れられる。

ちょっとした防水性のカバーになり、上から流れてきた雨を浸水させない効果が生まれる。

フロントポケットの構造も簡素なものだ。

平面的なデザインのため、かさばるものは入れられないが、防水性が高い点には安心感がある。

それに対し、サイドのポケットの大きさは、容量22Lのバックパックとしては十分な余裕がある。

500ml程度のボトルがちょうどよく収まるが、1Lのボトルでも入れられなくはない。23㎝ほどの深さもあり、上の写真のボトルはわかりやすさのために頭の部分を出して撮影したが、本当は完全に隠れるくらいに押し込める。

これまた簡素なものだが、フロントの左右にはバンジーコードが付属。ボトムのループとの連動でピッケルやトレッキングポールを固定できる。

雪山などでもいわゆる“アタックザック”として活躍しそうだ。パッカブルで携行性が高いフリーレイン22は、大型バックパック内に入れて持参し、サブパックとしても重宝するだろう。

 

防水テスト

それにしても、この日の天気は最高だった。

モデル名は、フリー“レイン”22で、雨のときにこそ実力を発揮するバックパックなのに……。

しかし、僕には考えがあった。

このテストを行なった山域の登山道は途中で溪谷を通り、小さな滝のような場所がいくつも現れる。その地形を利用し、防水テストを行なうつもりだったのだ。

というわけで、苔で滑る谷間になんとか降り、1mほどの高さの小さな滝の下にフリーレイン22をセット。

フリーレイン22におそらく「百年に一度」どころではない“大雨”を体験させた。水量も大変なものだが、相当な耐水圧もかかっているはずだ。じつは水圧に負けて、岩にもたれさせて立てていたフリーレイン22が、途中で横倒しになってしまったほどであった。

あまりに過酷な条件なので短時間でも十分だろうと、5分ほどで滝の下から回収する。

さて、内部の荷物は守られているだろうか?

おお! メインの荷室のなかはまったく濡れていない! 中身をすべて取り出してもみたが、縫い目部分からの浸水もない。さすがフリーレイン22は優れた防水性を見せてくれた。

上の写真では黒い生地の一部に水滴がついているが、これはファスナーを開けるときに外側に付着していた水滴が弾き飛んで付着したもの。浸水したものではないので、ご安心を。

一方、フロントのポケットは浸水が見られ、内部に入れておいた薄い紙が破れてしまった。

やはり止水ファスナーは“止水”ファスナーであり、“防水”ファスナーではない。あれだけの耐水圧がかかり、しかも横倒しにまでなってしまったのだから、浸水するのはやむを得ないだろう。むしろあれだけの水に打たれたのに、浸水した量は少なかったようにも思える。

ぐしょ濡れになったフリーレイン22だが、もともと水を含みにくい素材が多用されていることもあり、その後の乾燥は早かった。

とくにメッシュのショルダーハーネスは軽く叩くだけで大半の水分が消失。ウエストハーネスなどのストラップ類はそれなりの水分を含んでしまったが、好天ということもあり、30分も歩くとほとんど乾燥した。

 

まとめ:防水性は◎! 山でも街でも使いたいバックパック

“雨”ではなかったが、それ以上の耐水テストを行なってみたフリーレイン22。

フロントポケットはともかく、メインの荷室への防水性は充分であった。小さく収納できるパッカブルタイプでもあり、雨が多い時期の日帰り山行だけではなく、テント泊山行のときなどにはサブパックとしても活躍しそうだ。“防水”“軽量”“かさばらない”という長所を重視すれば、“背中が汗で濡れやすい”短所は割り切って受け入れるしかない。

それにしてもシックなデザインはカッコよかった。雨の日には山に限らず、街でも使いたくなるデザインである。手元にひとつ持っていると重宝しそうなバックパックなのであった。

 

今回のPICK UP

マタドール/フリーレイン22

容量:22L

重量:300g

価格:1万4300円(税込)

メーカーサイトへ >>

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
Facebook  Instagram

高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

編集部おすすめ記事