日本屈指の山岳エリア、穂高岳。『山と溪谷』2023年7月号特集より
『山と溪谷』2023年7月号の特集は「穂高岳」。北穂高岳、奥穂高岳、前穂高岳、西穂高岳。威風堂々、4つの頂が登山者を迎える日本屈指の山岳エリアです。同号の特集は、エリアを網羅する保存版コースガイドと穂高を知るための読み物でこの山域の魅力を紹介。山と溪谷オンラインでは、穂高岳の魅力を凝縮した特集のページから抜粋してお届けします。
文=山と溪谷編集部、写真=加戸昭太郎
穂高岳を安全に登るために
登山者憧れの穂高岳ですが、想いだけでは登れません。穂高を安全に登るための6つのヒントを紹介します。
1. 落石注意。
自分が落とすのにも注意
転落・滑落事故の多い山域であることは前頁に記載したが、そのほかに先行者起因の落石に当たる事故も少なくない。これらの落石は、登りのときの蹴りだしや下りでの着地時に荷重をコントロールできていないために足元の石をずらしてしまうことで発生する。つまりつたない歩行技術が原因だ。加害者にならないために、岩場での安定した歩行技術を身につけてから穂高岳に挑戦すること。
穂高岳エリア(北穂高岳~奥穂高岳~前穂高岳、奥穂高岳~西穂高岳)は長野県が山岳ヘルメット着用推奨山域に指定している。義務ではないが、自分の命は自分で守るという意識をもつ意味でも、山岳ヘルメットは必須装備と考えよう。
2. 涸沢~北穂往復が
穂高デビューにおすすめの理由
岩場歩きの伴う登山を複数回こなし、日本アルプスで宿泊を伴う登山を経験したら、まず挑戦してほしいのが北穂高岳だ。上高地から入山し、涸沢を経由し、北穂高岳を登頂するコース。穂高のピークをめざすのに、山のグレーディングのDグレードの部分が最も短いのが、涸沢~北穂高岳南稜~北穂高岳頂上のルートだからだ。
山のグレーディングなどルートごとの難易度を確認するには、『山と溪谷』2023年7月号綴じ込み付録「穂高岳エリアマップ」を確認するとよい。表面には穂高岳の山のグレーディングがわかりやすく色分けされており、裏面にはルートごとの高低図を記載。プランニングに役立てよう。
3. 体力に自信がないなら
横尾泊がおすすめ
上高地に早朝到着し寝不足の状態で穂高の稜線をめざし、途中でフラフラになる。こういう登山者は少なくないのが実態だ。一瞬の、一歩のミスが命取りになる穂高岳登山では万全な体調は必須条件で、初心者ほど体調管理に気をつけてほしいところだ。
体力に自信のない人、万全な状態で穂高に臨みたい人におすすめなのが、横尾で1泊し体調を整えた上で穂高の稜線をめざすプラン。日数も費用も増えてしまうが、登頂の確度が上がり事故のリスクも下がる。上高地~横尾間には明神、徳沢といった休憩ポイントがあるので、1日目はそこでゆったりした時間を過ごしながら体を慣らすのもいいものだ。
4. 涸沢定着型は
とても合理的なプラン
ピークへのピストンを経験したら次は穂高の縦走を、という気持ちはよくわかるが、もう少し場数を踏んでから挑戦することをおすすめする。穂高縦走は、ピークハントに比べ格段にレベルが高いからだ。前穂~奥穂間の吊尾根は狭い岩尾根で、長時間緊張を強いられる縦走路。奥穂~北穂に至っては途中の涸沢岳周辺が穂高エリアの中でも高難度のルートで事故が多い。
1回の山行で複数の穂高のピークを踏みたいなら、涸沢をベースキャンプにするとよい。涸沢から北穂高岳をピストンしまた涸沢で宿泊、リフレッシュした体で奥穂高岳をまたピストンといった具合だ。荷物も必要最小限に抑えられ軽量化ができる、非常に合理的な計画といえる。
5. 意外に難しい最適なルート選び
穂高岳に至るのには複数のルートがあるが、なかでも重太郎新道は長い急登で、ハシゴや鎖が断続的に続き気が抜けない。穂高岳を縦走しようとする登山者がまず挑戦したくなるルートだが、この重太郎新道は想像以上に難しく、事故が多いことを忘れてはならない。
また、秋に通れるようになるパノラマ新道も険悪なルートで、こちらはバリエーションルートと考えたほうがいい。地図を見ると涸沢から上高地へショートカットできるように見えるがそれは間違った認識で、思いのほか時間がかかる。その名前から好展望を期待して取り付くと、道のわるさに驚くはずだ。
穂高岳をめざすのに簡単なルートはない。事前の情報収集をしっかりして自分のレベルに合ったコースを選ぼう。
6. 西穂~奥穂縦走の
挑戦権を得るには
「いつかはジャンダルムへ」という岩稜好きの登山者はけっこう多い。ネット上の山行記録を見るとかなりの投稿数があり、その内容を見ていると自分も行けるのではと思ってしまうのも無理はない。
ジャンダルムへ至る西穂~奥穂の縦走路は、岐阜県山のグレーディングでは「極めて危険」としA~Eランクを与えていない。ということは、Eランクより上と考えてよいだろう。
つまり西穂~奥穂の縦走は、南岳~北穂高岳(大キレット越え)や涸沢岳~北穂、甲斐駒ヶ岳~鋸岳(南アルプス)などEランクのルートを複数経験し、危なげなく通過できた人のみに許されるということだ。
(『山と溪谷』2023年7月号より)
関連ルートガイド
岩稜の魅力が満喫できる穂高周遊奥穂高岳
https://www.yamakei-online.com/yamanavi/route_detail.php?id=12835
岩稜の魅力が満喫できる穂高のビッグ3をめぐる奥穂高岳
https://www.yamakei-online.com/yamanavi/route_detail.php?id=10862
穂高連峰縦走 前夜泊2泊3日
https://www.yamakei-online.com/ag_guide/guide_detail.php?id=19105
この記事に登場する山
雑誌『山と溪谷』特集より
1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他