雪山登山をはじめたい方のための服装・レイヤリング入門!

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夏山とは装備も違えばリスクの高さも違う。登山歴が長くても雪山に登ったことがないという方もいるだろう。今回は、そんな雪山に挑戦してみたい方のために、さかいやスポーツ高橋さんから実際に冬の低山に登る想定で、雪山登山の入門者のための服装・レイヤリングのコツを聞いてみた。

POINT
  • 雪山では「こまめな脱ぎ着」がとっても大事
  • まずは低山でレイヤリングのコツを学ぼう
  • 丹沢・塔ノ岳に登る時のレイヤリングはこう

レイヤリングの大切さについて語る高橋さん

みなさんに心から伝えたい。こまめな脱ぎ着がほんとに大事

編集部N:今回は雪山登山をはじめたい方のために、服装・レイヤリングについて聞きたいと思います。

高橋さん:分かりました。なんでも聞いてください!

編集部N:冬の山には、夏と違ったリスクがたくさんあると思います。服装やレイヤリングはどういったことに気をつけるといいでしょうか?

高橋さん:汗をかき過ぎないように、ウェアをこまめに脱ぎ着をすることがとても大事です。これをみなさんに心から伝えたい。

編集部N:それはなぜですか?

高橋さん:雪山は気温が低く、夏に比べて気候の変化が激しいので、低体温症のリスクが夏に比べて飛躍的に高くなります。そのリスクを防ぐためには、なるべく体を濡らさないようにしなければなりません。雨や雪で濡れないようにするのはもちろん、自身の汗で体を濡らして熱を奪われることに注意して温度調節することが必要です。

編集部N:汗をかき過ぎないようにすることが重要だと。

高橋さん:汗をかき過ぎる前に先のルートや自分の体の状態を見て、汗をかきそうなシュチュエーションなら脱いでおく。そういった予測をして動くようにするといいでしょう。例えば、登り始めはあっという間に運動量が上がって汗をかきますので、ハードシェルと防寒具2枚ぐらいを脱いでからスタートするなどの工夫をしてください。

編集部N:寒いからといって登り始めに厚着するのはよくないと。

高橋さん:天候が良ければ、僕は基本的に薄着で登るようにして、状況に合わせてこまめに脱ぎ着をしています。周りから「なんでそんなにこまめに着替えるんですか?」なんて聞かれることがありますが、これは汗冷えしないためです。こういった細かい温度調節が、のちのち標高を上げた時や疲れてきた時に快適に過ごせるかどうかを決めるのです。

編集部N:温度調節に慣れていない場合は、何を目安に脱ぎ着をするといいのでしょうか。

高橋さん:背中や脇の下が汗で湿ったら代謝が上がっているサインです。更に首筋に汗が出てきて、ネックゲイターやアンダーウェアが汗を吸っているようなら体が暑くなり過ぎている証拠。一枚脱いで、なるべく汗のないドライな状態を保つようにしてください。

編集部N:これ以上脱げない! という場合はどうすればいいですか。

高橋さん:安全な状況であれば、歩くスペースを少しゆっくりにしてみるといいでしょう。凍結した登山道ではアイゼンなどを付けますが、これが慣れていないと歩きづらい。また、山頂に早く着きたいという焦りから、どんどんスピードを上げてしまう傾向があります。すると気づかない間に汗をかき過ぎてしまい、それが冷えに繋がります。

編集部N:確かに慣れないアイゼン歩行は焦りを生みやすいし、汗もかいてしまいます。

高橋さん:初めての冬季登山での汗冷えの問題は、ほとんどの方が経験することだと思います。汗をかき過ぎないように、服装や歩くスピードを調節することを心がけましょう。

渋沢駅に集合して丹沢・塔ノ岳に登る。そんな時の服装は…?

編集部N:具体的に雪山入門に適した山を例に服装を考えていきたいのですが。おススメはどこですか。

高橋さん:関東ですと、降雪後の丹沢はどうでしょうか。丹沢の一般的なルート上は、大きな事故につながる岩場や鎖場が少なく、登山道が比較的明瞭です。標高1,000m以上の山でしたら時期によって雪もついていると思うので、雪山登山入門にもってこいです。冬の北八ヶ岳を登るための最初のステップとしても適していると思います。とはいえ、低山でも雪山です。しっかりとした準備と心構えを怠らないでください。

編集部N:では、今回は関東で雪が降った翌日に丹沢の山に登りに行く! という想定でレイヤリングを教えてください。

高橋さん:分かりました。山仲間と渋沢駅に待ち合わせして塔ノ岳まで登るとしましょう。「寒みぃ〜!」なんて言いながら渋沢駅を降ります。待ち合わせの時の服装はこんな感じ。

冬の丹沢・塔ノ岳に登る前のレイヤリング

​冬の丹沢・塔ノ岳に登る前のレイヤリング。ハードシェル、ダウンジャケットの下に行動着、アンダーウェアを着ている

高橋さん:「山頂のほうは雪付いてるね〜! 楽しみですね〜」なんて言いながら登山口まで移動します。ここから登り始めるわけですが、登り始めるとあっという間に運動量が上がり汗をかきます。ということで、ハードシェルとダウンジャケットを脱ぎます。

ハードシェルの下にはダウンジャケット

ハードシェルと、下に着ているダウンジャケットを脱ぐ

アクティブインサレーションの登場でレイヤリングがよりシンプルに

高橋さん:行動中に着る服装は、まず、モンベル「ジオライン」やメリノウール製の中厚手のシャツなどの長袖のアンダーウェアを着ます。その上に着るのは主に2パターンです。

冬の丹沢・塔ノ岳に登る時の中間行動着① 冬の丹沢・塔ノ岳に登る時の中間行動着②

中間行動着は①薄手のフリースとソフトシェル(写真左or上)と②アクティブインサレーション(写真右or下)の2パターンを紹介してもらった​

高橋さん:①(写真左)の場合は、ファイントラック「ドラウトクロー」やパタゴニア「R1」のような薄手のフリースの上からブラックダイヤモンド「アルパインスタートフーディー」などの撥水性が高くて防風性もある薄手のソフトシェルやウインドブレーカーを着ます。

ソフトシェルの下はフリースを着用

薄手のソフトシェルの下に薄手のフリースを着用

編集部N:フリースの上からハードシェルを着るのではダメですか?

高橋さん:ハードシェルを着てしまうと運動量が高くなった時に熱がこもって汗が出ますし、暑くなってハードシェルを脱ぐと、風が防げず逆に冷え過ぎてしまいます。アンダーウェアに薄手のフリースと薄手のソフトシェル、もしくはウインドブレーカーという組み合わせで登り始める、というのをおススメしています。

編集部N:防風性だけでなく透湿性がないといけないと。

高橋さん:①のレイヤリングが一般的でしたが、最近は②のようなアクティブインサレーションというアイテムも出てきました。これは保温に加えて防風性・透湿性・撥水性があるので、フリースとソフトシェルの役割を一枚で補うことができます。パタゴニア「ナノエア」だったりファイントラック「ドラウトポリゴン3」、「ポーラテックアルファ」素材を使ったフーディニ「C9」などがこれにあたりますね。

アクティブインサレーションの下はアンダーウェア

アクティブインサレーションの下はアンダーウェア

編集部N:一枚二役で、お得感もありますね。これから服装を揃えたい人に良い選択肢になりそうです。

高橋さん:アンダーウェアにアクティブインサレーションを着て 、状況によってハードシェルとダウンを着る。レイヤリングがシンプルで分かりやすいですね。今まではフリースや山シャツ、ウールのセーターにウィンドブレーカーというのが行動着の定番だったのですが、それを一枚でできるようになりました。

編集部N:暑がり寒がりなど、自分の体の特徴によって調節したい方もいると思いますが、その場合はどんなものを選べばいいでしょうか。

高橋さん:行く山や遊びの種類によって、アクティブインサレーションの厚さを選ぶといいでしょう。例えば北アルプスやバックカントリーに行くのであればパタゴニア「ナノエア」やアークテリクス「プロトン」などのような厚みのあるものを選んでください。低山であれば「ポーラテックアルファ」の60gのものを使ったりとか、「ナノエアー ライト」や「ドラウトポリゴンスリー」などの比較的薄めなアクティブインサレーションにしたりすることで保温機能を調整できます。

「汗が大敵」ということを理解する

編集部N:まとめると、体を暖かくする機能的な製品はたくさんあるけれども、ちょうどいい温度を保って汗をかき過ぎないように登ることが大事だと。そのために、まずは低山でウェアの機能と最適なレイヤリングを覚える。そして、ステップアップをして八ヶ岳などへ登った時にも、状況に応じた的確なレイヤリングと温度調節ができるようにしましょうということですか。

高橋さん:その通り! 汗が大敵になることを理解したうえで、標高の高いところへ登ったほうがリスクは減ります。最初から高山へ行き、登り始めで汗をかき過ぎてしまうと、後で必ず後悔します。冬季営業の山小屋があればまだいいですが、なければ本当に死活問題ですから。安全に雪山に登るために、まずは低山で自分に合ったレイヤリングを試してみましょう。

編集部N:分かりました。寒さの感じ方や汗のかき方は人それぞれなので、読者のみなさんも自身の体質や感覚に合ったレイヤリングを研究してみてください!

パンツのレイヤリングは…?

上着のレイヤリングは記事に書いたとおりだが、パンツのレイヤリングはどうか? 高橋さんに聞いたところ「メリノウール素材などの保温性のあるタイツやアウトドアブランドから出ている冬季用の速乾・保温タイツに、冬用のトレッキングパンツを履くのが基本です」とのこと。
悪天候時は、防水性・耐久性の高いオーバーパンツを、トレッキングパンツの上から履くといいだろう。

プロフィール

高橋 典孝(さかいやスポーツ ウェア館)

山の世界で働いて20年のベテラン。ウェアに関する知識はオタク級だが山道具も大好き!!
ゆったりオートキャンプからガッツリ登山まで何でもこなすが特に最近は、トレイルランニング、テンカラ釣りに没頭中。

さかいやスポーツ

創業以来、約60年にわたり神田神保町で全国の登山家やアウトドアマンに愛されている登山用品店。ウェア、シューズ、ギアなど品目別の専門館を6店舗展開。ウェアや道具に詳しいスタッフが丁寧に解説してくれるので、ビギナーでも安心。

住所/東京都千代田区神田神保町2-48
TEL/03-3262-0432
営業時間/11:00~20:00
アクセス/神保町駅A4出口より徒歩6分、JR中央・総武線水道橋駅東口より徒歩8分

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