活動を通じて「自然保護思想」を広める。芸北自然保護レンジャー
豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は広島県の臥龍山(がりゅうざん)エリアで自然保護・啓発活動に取り組んでいる「芸北自然保護レンジャー」を紹介。
取材・文=一ノ瀬 伸、写真提供=芸北自然保護レンジャー
芸北自然保護レンジャー(2012年度認定)
Area:臥龍山周辺Main activity:自然保護・環境学習
Group profile:
1995年に発足し、現在は山や自然を愛するメンバー9人を主に活動。西中国山地を中心に、ナラ枯れ被害防止や自然体験イベント開催、子ども対象の環境学習などを行なっている。
「僕たちの活動だけでは実質的な効果はたかが知れています。でも、30年近くにわたってたくさんの参加者を募って山の中で自然の保全や観察などをやってきました。自然を大切にする思想や行動はそれぞれが住む地域に持って帰ってくれているのかなと感じています」
広島県北西部に位置する臥龍山をはじめ西中国山地を主な活動フィールドとする「芸北自然保護レンジャー」。その代表を務める川崎海山さんは、長年の活動についてそう振り返った。
会は1995年に旧芸北町(現北広島町)の公認ボランティア団体として設立。県森林インストラクターの資格を持つメンバーが集った。発足当時、希少植物の盗掘や生物の密猟が横行しており、対策のための町条例制定に尽力した。
2006年には臥龍山西側に位置する高岳で、広島県内初のナラ枯れ被害を発見。以降は周辺で枯れ木の撤去とともに被害予防を行なっている。ナラ枯れの要因となるカシノナガキクイムシの繁殖を防ぐ薬剤をナラ一本一本の幹に注入していくという地道な作業である。
「ナラ枯れによっていろいろな影響が生じます。食料とするドングリが減ってツキノワグマが市街地に出没したり、土砂崩れの可能性が高まったり・・・登山道近くの倒木も危険です」
また会では、山で数々のイベントを開催してきた。携帯トイレを持参する臥龍山登山、キノコ観察会、ヤマネの巣箱作りなど多彩な企画を用意し、老若男女が参加。将来の自然保護の担い手となる子ども対象の催しには特に注力する。
コロナ禍の間は大人数を集められず、メンバーだけで粛々と山で作業を続けてきた。現在は参加者を募った活動やイベント開催など、本格的な活動再開をめざして準備を進めている。
50代で会を始動させた川崎さんは80代になった。今も重いチェーンソーや発電機を背負って山で作業する現役だが、新たなメンバーも募集中だそうだ。
★日本山岳遺産認定地 詳細:北広島町 臥龍山 [ 広島県 ]芸北自然保護レンジャー(2012年)
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日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。
支援団体の条件
- 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
- 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行なっている団体
- 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体
助成対象となる活動費の主な用途
- 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
- 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
- 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費
助成金総額 250万円(予定)
詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html
(『山と溪谷』2023年8月号より転載)
プロフィール
日本山岳遺産基金
日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/
日本山岳遺産の横顔
日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!