【書評】人気のエリアを地学の観点からひもとく一冊『槍・穂高・上高地 地学ノート』

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評者=渡辺幸雄

日本一のトンガリ山である槍ヶ岳や「岩の殿堂」と呼ばれる穂高の山容は、国内の山では希有な存在だ。この登山者に人気の槍穂高や上高地はどうやってできたのだろう?そんな疑問を解説してくれるのが本書である。主に槍穂高の成り立ちと氷河による地形の形成を中心に展開する。登山コースで見られる観察ポイントもガイドされており、本書を手に地形観察に出かけ遙か昔のイベント(地学的出来事)に想いをはせてみたい。

僕が槍穂高を歩いていて思うのが、ここに氷河が流れていたころは、いったいどんな景色だっただろうかと。それが本書ではイラストで描かれ、読者にもイメージしやすくなっている。地形写真家・竹下光士氏の美しくも重厚な雰囲気の写真と相まって、難しく思える地学がページをめくるだけでも充分楽しめ、理解を深められる。

もう一人の著者の原山智氏は北アルプス地質学の第一人者で、本書の全編を監修。コラムでは研究時の逸話も楽しめる。『「槍・穂高」 名峰誕生のミステリー』(ヤマケイ文庫)も併せて読みたい。

個人的には後付の地質図だけでも本書を入手する価値は充分ある。地理学的なことは客観的な出来事ではあるが、著者二人の槍穂高への熱い想いが伝わってくる。そんな一冊でもある。

槍・穂高・上高地 地学ノート

槍・穂高・上高地 地学ノート

竹下光士、原山 智
発行 山と溪谷社
価格 1,870円(税込)
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評者

渡辺幸雄(わたなべ・ゆきお)

山岳フォトグラファー。『ヤマケイアルペンガイド 槍・穂高連峰』(山と溪谷社)など著書共著多数。

山と溪谷2023年8月号より転載)

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