登山用ストーブ(バーナー)を、冬の山で使うなら?
山でお湯を沸かしたり料理をしたりする際には、登山用のストーブ・バーナー(以下 ストーブ)は欠かせないアイテムだ。燃料や形状など、さまざまな種類のストーブの中から、今回は冬の山などの気温の低い場所で使用に向いたストーブについて好日山荘の栗山さんに聞いてみた。
編集部N:栗山さん、今回はストーブについて教えてください!
栗山さん:どうも〜。なんでも聞いてください!
高火力と安定性で選ぶならガソリンストーブ
編集部N:たくさんのストーブが置いてありますね。それぞれ特徴があると思いますが、この中で冬の山など、気温の低い場所に向いたものはどれですか?
栗山さん:冬山などの気温が低い場所で考えられる主なリスクは、気温が下がって火力が落ちてしまうことです。ということは、強い火力を維持できるものを選べば、その問題点を解消できます。高火力と炎の安定性という点で一番強いのはガソリンストーブです。雪山で雪から水を作ったり、グループ登山で鍋を料理したりするようなシチュエーションでは、ガソリンストーブを持っていく方が多いですね。ただ、使用する前にプレヒート(※予めストーブに余熱を与え、気化を促進すること)が必要な製品が多く、いかんせん着火に一手間かかります。
編集部N:強い火力で安定して使いたい場合は、ガソリンストーブが良いと。
栗山さん:その中で、私がおススメするのはMSRの「ウィスパーライトインターナショナル」です。
栗山さん:見てください。デザインが無骨でカッコいいでしょう! プレヒートが必要なことや火力調節ができないなどの弱点はありますが、シンプルな構造で丈夫です。定期的にメンテナンスをすれば、一生ものですよ。これは、灯油も燃料に使えるマルチフューエルのモデルです。同ブランドの「ウィスパーライト」という、ホワイトガソリン専用の、よりシンプルなタイプもあります。
編集部N:山で使うと、玄人感が出せそう…。
栗山さん:この赤い燃料ボトルも、見ていてワクワクしますね。こういった「定番ものの良さ」、みたいなところを私は推したいです。ガソリンストーブでもプレヒートの必要がないSOTOの「MUKAストーブ」や、ガスカートリッジも使える同ブランドの「ストームブレイカー」といった製品も最近は出てきています。実用性を重視する方は、そういったものを選ぶといいでしょう。
はじめて買うなら、手軽なガスストーブ
栗山さん:はじめてストーブを買う方には、取り扱いが楽なガスストーブをおススメします。低温下で使う際は「ドロップダウン」という、ガスが気化する際にガスカートリッジが冷やされて火力が下がる現象に注意が必要です。これを解決するためにSOTOのマイクロレギュレーター機構といった、火力を安定させる出力安定装置が付いている製品も出ています。
編集部N:出力安定装置が付いていることが大事なんですね。
栗山さん:山でお湯を沸かす目的に絞ってストーブを選ぶ場合は、SOTOの「マイクロレギュレーターストーブ ウィンドマスター」がおススメです。
栗山さん:これは低温下でも火力を安定させる気化促進機構に加えて、耐風性も高い製品です。
編集部N:耐風性が強いストーブは、何が違うのでしょうか。
栗山さん:「マイクロレギュレーターストーブ ウィンドマスター」は、独自のすり鉢状のバーナーヘッドを採用しており、これが風に強い構造になっています。他のメーカーの製品は、ゴトクに注目してみてください。例えば、EPIgasの「REVO-3700 STOVE」とPRIMUSの「153ウルトラバーナー」です。
栗山さん:これはゴトクがX字になっていて、バーナーヘッドが4つに区切られています。風で一つの区画が消えても、残りの区画が炎を出し続けてくれるのです。「REVO-3700 STOVE」と「153ウルトラバーナー」は火力も3,600〜3,700kcalと強いので、冬の使用もおススメできます。
編集部N:冬に使うガスストーブは、火力が強いほうがいいのですか?
栗山さん:低温下でガスストーブを使う際は、どうしても火力が落ちてしまいます。鍋とガスカートリッジがセットになった一体型のような構造でないかぎりは、燃費が悪くても火力が強いほうがいいと思います。
一体型は低燃費が魅力。大人数の料理なら分離型
編集部N:ジェットボイルのような鍋とストーブが一体になったものが出ていますが、メリットは何でしょうか。
栗山さん:一体型ストーブの鍋底には、ジャバラ状のパーツがついています。ストーブで起こした熱を鍋に伝える際に、一般的な鍋は炎が横に広がってしまい、熱の伝達に40〜50%くらいのロスが出ます。一体型ストーブは、ジャバラ状のパーツを鍋底に施すことで熱を伝えやすい構造を作り、熱効率を高めているのです。そうすることで、10〜20%までロスを減らすことができ、お湯をより早く沸かすことができるようになります。燃費がよくなることで、ガスカートリッジを持って行く量を減らすことができるので、結果的に軽量化にもつながります。縦走などの山行日数が多い時に効果を発揮するでしょう。
編集部N:鍋の構造が大きな違いなんですね。
栗山さん:最近は、DUG「HEAT-Ⅰ」のような、ジャバラ状のパーツが施された鍋が単体で売っています。すでにストーブを持っている方や、汎用性のある直結型ストーブを選びたい方には、こういった製品がおススメです。このタイプの鍋を使う場合は、ストーブは低火力のものを選ぶといいでしょう。
編集部N:火力が弱くてもいいのですか?
栗山さん:このタイプは鍋底に熱を効率よく伝達できるので、火力が弱いストーブでも大丈夫なのです。
編集部N:PRIMUSの「イータスパイダー」のように、ゴトクが分離しているストーブは他にもありますよね。こういった分離型のメリットはどんなところにありますか。
栗山さん:ガスカートリッジが下にない分、重心が低いので、大きな鍋を安定して置くことができます。大人数で鍋をしたい時や、スープを作りたい時に活躍してくれます。また、分離型は火力が強いものが多いので、山ごはんにこだわりたい方にもおススメですね。ガスカートリッジを雪の上に置いてしまうとドロップダウンの原因になるので、そのあたりは注意が必要です。
おさえておきたい、ガスカートリッジ選びのキホン
編集部N:ガスカートリッジにも種類がありますが、気をつけることはありますか?
栗山さん:まず、使っているストーブと同じメーカーのガスカートリッジを使うようにしましょう。また、カートリッジは使える温度帯で大きく3種類に分かれます。
栗山さん:例えば、-10℃くらいの気温が低い所でキャンプ用のカートリッジを使っても、なかなかお湯が湧きません。逆に、気温の高い所でエクスペディション用のカートリッジを使おうとすると、ガス圧が強すぎてボッと炎が勢いよく出てきたりして危険です。温度帯に合ったガスカートリッジを使うようにしてください。どれを買ったらいいかわからない時は、店員にご質問くださいね。
編集部N:ストーブは燃料も形状もさまざまなので、迷ったら店員さんに聞くのが一番ですね。
栗山さん:例えば「このストーブで、どんな料理ができる?」とか、料理のレシピでも構いません。私たちもいろいろとネタを持っていますので、なんでも気軽に聞いてください。
山専ボトルは、お湯の持ち運びに便利
「朝、お湯を沸かして山専ボトル(保温性・保冷性の高い登山用ボトル)に入れていけば、その日のうちは温かい状態が保てます。ストーブの燃料も節約できて便利ですよ」と栗山さん。お湯を山専ボトルで持ち運び、料理で熱いお湯が必要な時は、それを沸かしなおせば燃料の節約になる。冬に限らず活用したいテクニックだ。
プロフィール
栗山 啓一(銀座好日山荘)
登山歴9年。登山・キャンプ・自転車・スキー・バイクツーリングなどジャンルをクロスオーバーして遊んでいます! 自分の経験をお伝えするのがモットー!! 実はネットサーフィンが大好き!?
銀座 好日山荘
日帰りハイキングから長期縦走、クライミング、雪山登山、沢登りまでさまざまな登山スタイルに対応する品揃えを誇る登山用品店。同じビルにはクライミングジム「グラビティリサーチ」が併設されており、ロープワーク講習や岩稜帯の歩き方など、さらなるステップアップを目指す登山者に向けてさまざまな講習会を開催中。
所在地/東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビルB1・B2
TEL/ 03-6228-5018アクセス/銀座駅B7、B9出口より徒歩2分。有楽町駅南口より徒歩5分。
営業時間/月~金 12:00~21:00 土日祝 11:00~20:00
※コロナ禍で営業時間が変更になる場合があります
http://www.kojitusanso.jp/shop/kanto/ginza/
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