
稜線だけに目を奪われるな! 秋が凝縮された北アルプス・白馬岳を楽しむコツとは?
秋の白馬(しろうま)岳は美しい。しかし、漠然と稜線を歩いているだけでは本当の魅力には触れられない。紅葉の白馬岳を楽しむには、白馬岳の自然を知っておくことをおすすめする。
写真・文=三宅 岳
いち早く秋の風を感じられるのが3000m級の主稜線を延ばす北アルプス。9月の声を聞けば、もう秋の始まり、というのが常だが、この酷暑の時代になって、やはり少し秋の訪れも遅くなっているような気がするが。
さて、北アルプスの秋。その魅力はなんだろうか。紅葉なら里山だって楽しめる。つまりは、ただの紅葉だけではない秋の山旅とは。その極意は、主稜線だけに目を奪われるな、なのである。
* * *
落葉樹は、おおむね秋が深まればその葉が色づくもの。北アルプスにあっては落葉広葉樹であるダケカンバやナナカマドのきらびやかな黄葉紅葉が、まさに秋を彩る主人公となる。そのことはあらためて記す必要もないだろう。これらの木々が生えているのは、主稜線の延びる高山帯よりわずかに標高を下げた亜高山帯以下のエリアということになる。本コースの歩きはじめである八方(はっぽう)尾根では、ダケカンバの黄葉トンネルが出迎えてくれるのであり、蓮華(れんげ)温泉では湯煙の向こうに深紅のナナカマドが揺れるのである。
なお、ダケカンバにナナカマドといえば、これらは落葉広葉樹。さらに標高を下げたエリアに広がるブナももちろん落葉広葉樹であり、こちらはちょっと地味な茶色系の色彩ながらも、滋味深い秋色を演出するのである。
一方、忘れてほしくないのが「カラマツ」である。この樹は針葉樹ながらも落葉するという、なかなか珍しい性質をもっている。本コースでは、たとえば「天狗の庭」。白馬大池(はくばおおいけ)から蓮華温泉へと歩を進める中途に、高木が切れてポッカリと現われる明るい斜面である。そこに環境に鍛えられたカラマツが生えている。
長野県をはじめ、ちょっと寒冷な地域では、スギ・ヒノキに代わって随分とカラマツが植林されてきた。山一面、カラマツの人工林も珍しくはない。そういった、植林されてスクッと背筋を伸ばしたように仕立てられたカラマツばかり見ていると、この天狗の庭に生える樹木がカラマツだということは信じられないかもしれない。
グニャリグニャリと折れ曲がり、まさに風格を醸す天然自然のカラマツたち。風雨にあらがい、積雪や低温に耐え続けた結果、天狗の庭のカラマツの姿は、まさに苦節の権化である。それらがカラッと明るく黄葉するのだから、たまらないではないか。 なお、カラマツは、かなりの高山帯にまで生きているものである。まるでハイマツのように矮性となり、地を這っているのだから、なかなかの戦略家でもあるようだ。
さて、ここまでは樹木の秋を眺めてきたが、侘び寂びさえ感じられるのが、草もみじである。 樹木といえばハイマツばかりという高山帯であっても、草もみじが秋の使者となる。さらに、本コースでは、その締めくくりに湿原や草原を堪能できるのだが、そういった広々とした空間が一面の草もみじになっていれば、これはもう言うことなしの景。
風吹大池(かざふきおおいけ)という静謐な山上湖へのアプローチは、コレはみごとな草原である。さらに、その池からわずかに外れた血の池や餓鬼の田圃(たんぼ)と呼ばれる池塘群。秋の北アルプスを語るならば、ぜひそっとのぞき込んでもらいたい、秘密の園といったたたずまいである。
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冒頭、主稜線だけに目を奪われるな、と記した。
北アルプスの秋。その極意は、稜線から下の森や草原にあるというのが、なんとなくわかっていただけただろうか。そして、3000m級の主稜線が初めて白く染まるころ、北アルプスの彩りはまさに最高潮!なのである。
コースガイド
アルプスの秋を締めくくる、波打ち広がる草もみじ
唐松岳(からまつだけ)〜白馬岳(しろうまだけ)
長野県・富山県/2932m(白馬岳)
紅葉の見ごろ:9月下旬~10月上旬
不帰ノ嶮(かえらずのけん)といった岩稜から大草原、樹林や湖沼もあれば温泉も楽しめる、北アルプスのエッセンスを濃縮したぜいたくコース。それだけに体力も必要だ。紅葉が楽しめるスポットは、八方尾根のダケカンバ林、天狗の庭周辺や風吹大池周辺の草もみじ、蓮華温泉からの眺めなど。技術体力に不安がある、あるいは日程が合わない場合、最終日のコースとなる蓮華温泉から風吹大池を経由して栂池に抜けるコースに絞っても、秋の北アルプスを満喫できる。
コースタイム
1日目 八方池山荘〜唐松頂上山荘:約4時間
2日目 唐松岳頂上山荘〜唐松岳〜白馬鑓ヶ岳〜白馬山荘:約8時間
3日目 白馬山荘〜白馬岳〜小蓮華山〜蓮華温泉:約4時間55分
4日目 蓮華温泉〜風吹大池〜栂池自然園:約8時間
山麓情報
みみずくの湯は、白馬駅から徒歩10分ほどの立ち寄り温泉で、下山後におすすめである。アルカリ性の湯は無色透明。ちょっとぬめり系である。露天風呂からは白馬連峰が眺められ、思わず山旅を振り返る時間となる。大人700円。年中無休。営業時間は登山シーズン中(〜10月29日)は10:00~21:00(20:30受付終了)
この記事に登場する山
プロフィール
三宅 岳(みやけ・がく)
1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。
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