なぜ、夜の山に魅かれるのか?ヤマケイ新書『ナイトハイクのススメ』著者インタビュー①
異世界のような夜の山に魅了され、約30年にわたってナイトハイクに親しんできた中野純さん。ヤマケイ新書『ナイトハイクのススメ 夜山に遊び、闇を楽しむ』では、ナイトハイクの極意を紹介している。夜の山歩きの魅力とはいったいなんなのか、中野さんに聞いた。
写真=中野 純
ナイトハイクは女性向き!?
――その後はどんどんナイトハイクにのめりこんでいったのですか?
初めのうちは、かもしか山行的な登り方をしていました。ハードな山行のなかで、夜も歩いてピークをめざす、というスタイルで。それがだんだん、ピークハントの意識が薄れていって、別にピークを踏まなくてもいい、闇さえあればいい、と思うように徐々に変化していきましたね。
――中野さんは闇に関する書籍をたくさん執筆されていますが、ナイトハイクにハマる前からそのような闇の書籍を手がけられていたのですか?
いえ、ナイトハイクをするようになってから闇に興味をもち、その後、闇に関する書籍を手がけるようになりました。それまでは音楽関係の仕事をしていました。
――これまで多くの方々を闇の世界にいざなってきたと聞いています。
1997年8月から、友達や知人を誘って闇を歩くツアーを企画するようになりました。初めは仲間内の遊びの延長のようなかたちですね。そこでいろんな人が楽しんでくれていることがわかったので、このおもしろさを『闇を歩く』(2001年/アスペクト)という本にまとめました。この本が出た後、写真家の中里和人さんの個展があり、その写真展の関連イベントとして2002年8月に青梅丘陵で、初めて有料でのツアーを企画しました。2~3時間ぐらいの短いツアーでしたが、意外と多くの参加者が集まったことを覚えています。
――参加者の方々はどうやって募集されていたのですか?
初めは新聞、チラシとメールニュース、ウェブで宣伝していました。それを見て、私の本や連載の読者が参加してくれたりしました。雑誌やテレビで紹介されたほか、ラジオに呼ばれることも時々あって、そのラジオを聞いた人が参加することも多いですね。宣伝は、今はほぼ100%、ネット、SNSです。
――ツアーの参加者はどのような方々ですか?
ツアーによって違いますが、おおむね男性3、女性7という比率でしょうか。リピーターの方は圧倒的に女性が多いです。
――女性のほうが多いのですね!? なにか理由があるのでしょうか?
日中の登山は、脳に入る情報のおよそ9割が視覚によるものです。しかし、ナイトハイクは視覚情報がグッと減ります。4〜6割ぐらいという感じです。そのぶん、視覚以外の聴覚、触覚、嗅覚を最大限に駆使し、想像力を働かせながら歩くことになります。そのためには論理で考えながら歩くのではなく、心を解放して歩く必要があります。
女性には、想像力を働かせながら、心を解放することを苦にしない人が多いように思います。しかし、男性は頭で考えがちというか、頭でっかちになりがちで、心を解放することは苦手な人が多いように思われます。だから女性のほうがナイトハイクに親しみやすいのかもしれません。
あと、防犯的な観点もあるでしょう。男性なら、一度ツアーに参加して闇の楽しさを感じたら、次は自分だけでも行けるかもしれませんが、女性はなかなか自分だけ、あるいは友人とふたりだけ、というのは難しいと感じるかもしれませんね。
ヤマケイ新書
ナイトハイクのススメ 夜山に遊び、闇を楽しむ
夜の山では自分も世界もすべて変わる。
「灯りを消して歩く、夜の山の楽しみ方」
著 | 中野 純 |
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発行 | 山と溪谷社 |
価格 | 1,210円(税込) |
プロフィール
中野 純(なかの・じゅん)
1961年、東京都生まれ。「闇」に関する著作を数多く発表しつつ、ナイトハイクや夜散歩など闇歩きガイドとしても活躍。主な著書に『闇で味わう日本文学 失われた闇と月を求めて』(笠間書院)、『「闇学」入門』(集英社新書)、『闇と暮らす。』(誠文堂新光社)、『庶民に愛された地獄信仰の謎』(講談社+α新書)、『東京「夜」散歩』(講談社)、『闇を歩く』(光文社 知恵の森文庫)、『月で遊ぶ』(アスペクト)、など。東京造形大学非常勤講師。
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