大晦日を冬季小屋で過ごし、常念岳山頂で迎えた初日の出

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日の出はいつでも美しいものですが、やはり初日の出は特別なもの。山岳カメラマンの渡辺幸雄さんの、2023年の初日の出の一枚と思い出です。

写真・文=渡辺幸雄

久しぶりの初日の出

「年末が近づいてくると今年の越年登山は何処にしようかと冬山に思いを馳せる。僕のホーム・フィールドとしている北アルプスは冬に営業をしている山小屋は限られるが、そこを拠点に行動することも多い。しかしこの何年か営業小屋利用が続いていたので、昨年末は気分を変えてテント&冬季小屋での越年登山を企画した。

単独での冬季撮影山行はテント装備や雪山装備、さらには全ての機材を背負わなくてはならず、重量が30kgを優に超えてしまう。登山者がいない山では必然的にラッセルになってしまうので、出発前から撤退を想定して挑むことになる。どんな山でも状況次第では撤退するのはやむを得ないが、はじめから撤退ありきではモチベーションも下がるというもの。結果、安曇野からアプローチできる常念岳へ行くことにした。常念岳の冬季ルートは近年東尾根がよく使われて、年末年始なら登山者も少なからずいるだろうとの判断からだ。

以前残雪期にこのルートを歩いたことがあるが、その時はテントを持たず。比較的軽くできたのだが、今回は肩に荷物がずっしり食い込む。しかもまだ雪が踏み固まっておらず、時折腰近くまで踏み抜いてしまい歩きづらい。多くの登山者が1泊2日でのピストンらしいが、何人もの登山者が追い越していった。それでも初日は予定通り森林限界下の2200m付近でテントを張った。

翌日も同様に軽身の登山者に抜かれ、山頂を往復し下山する際にまたすれ違うという事を繰り返す。さながら亀のような足取りだが、なんとか前常念岳を越えて主稜線へ。さらに眼下に見える常念小屋へ無事到着。大晦日ではあるが自分以外は単独男性一人のみである。

森林限界を超え、前常念岳をめざす
森林限界を超え、前常念岳をめざす

年が開け、新年を迎えた。予定通り暗いうちに冬季小屋を抜け出し、夜明け前に常念岳山頂に到着。カメラを三脚にセットしてその時を待つ。毎年越年登山をしているが、実はこの何年か正しく元旦の初日の出は拝んでいなかった。北アルプスではこの何年か元日は冬型の気圧配置となっていて、日の出が見られなかったのである。元旦と前日の大晦日や1月2日でなにが違うかと言われてしまえば身も蓋もないのだが、元旦の初日の出は理屈ではなく気持ち的に拝みたいものなのだ。

かくして日の出を待って東の空にカメラを向けていると、何処からか雲が立ち上がってきた。「こ、これはまずい。今年も初日の出は拝めず終わるのか。」と一瞬最悪のシチュエーションが頭をかすめた。気を持たせながらダメだったこともこれまで幾多もあった。果たして今回は?

数分後ガスの合間からオレンジ色の太陽が顔を出してきた。徐々に霧のカーテンも消えていく。無我夢中でシャッターを押したのは言うまでもない。

この何年か続いたコロナ禍だが、ようやく収束に向かった2023年。元旦の初日の出に「希望」という光を感じた。


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この記事に登場する山

長野県 / 飛騨山脈南部

常念岳 標高 2,857m

 松本平の西に連なるのが常念山脈。南北に続く穏やかな起伏の少ない稜線の中で、ひときわ目をひくピラミッド型の山が常念岳である。平行して山麓を走る大糸線の車窓からもよく眺められる。南へ延びる稜線で蝶ヶ岳に、北に下れば常念小屋の建つ常念乗越を経て横通岳に続いている。山脈の西には梓川の谷を隔てて槍・穂高連峰が平行して連なっている。  常念岳頂上から東に前常念岳(2662m)へ尾根が延び、常念乗越の東側には安曇野からの登山道がついている一ノ沢、西には小黒部とか不帰ノ谷と呼ばれる一ノ俣谷(現在は通行禁止)がある。  この頂上辺りから北は花崗岩、南は不変成古生層と分かれ、花崗岩の風化砂礫地を好むコマクサも、常念乗越や横通岳から北に限られている。  「常念」という名にはいくつかの伝説がある。よく知られているのはW・ウエストンの『日本アルプス・登山と探検』第12章に書かれている話だ。この山の銘木を盗みに入っていた山盗人が野宿していると、夜風に乗って山の上から読経と鐘の音が何時間も聞こえ、恐れおののいた盗人たちは逃げ下ったとか。いつまでも経を唱える坊様、というのが名の由来だとか。ほかに酒を買いに下りてくる山姥の妖異の話などもある。  この山で忘れてはならないのは、山麓の安曇野市に住んでいた高山蝶研究の第一人者で、優れた山岳写真家でもある田淵行男のことだ。彼の高山蝶研究のフィールドがこの常念乗越を中心にした岩礫地帯である。ここでタカネヒカゲが3年がかりで羽化するプロセスを、四季にわたって研究したのである。  田淵は一ノ沢から常念乗越、常念岳、蝶ヶ岳、大滝山を経て徳沢、上高地へとたどるコースでは日本アルプスの高山蝶9種すべてが見られるとしている。昭和34年以前のことで、今では見られなくなったものも多い。  常念岳の北には、乗越を挟んで横通岳がそびえている。その名のとおり中腹を道が横切り、東天井岳に続いている。コマクサの咲く山として知られている。  登山道は一ノ沢コースを利用すれば、豊科からタクシーを使えば終点から約4時間30分で常念乗越、あと1時間20分程度で常念岳頂上に着く。三股コースの場合は、豊科からタクシーで三股へ行き、前常念岳経由で約4時間30分で登り着く。

プロフィール

渡辺幸雄(わたなべ・ゆきお)

1965年埼玉県越谷市生まれ。1987年東京綜合写真専門学校卒。北穂高小屋勤務を経て、フリーカメラマンに。近年はネパールのフォト・トレッキング・ツアー(アルパインツアーサービス主催)などの写真セミナーも開催。山岳雑誌やカメラ雑誌、カレンダー制作等で活躍中。日本山岳写真集団最終代表、(公社)日本写真家協会会員。

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