谷川岳で雪山のスタートラインに立つ 冷えきった体を温めるのはダムカレー?!

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寒風に吹きさらされ、雪山への気持ちが高まる初冬の谷川岳。下山後はユニークなご当地グルメを楽しみ、味わった。

写真・文=西野敏子

谷川(たにがわ)岳西黒(にしぐろ)尾根、ラクダの背から山頂方向を望む。今年は本当に雪が少なかった。

ここ数年は、雪山始めが谷川岳だ。12月になると、山岳会の人たちと西黒尾根に足を運ぶ。年末の山行に向けた足慣らしが主な目的。雪山の歩き方、過ごし方を思い出し、今シーズンもしっかり歩けるだろうか、装備など見直したほうがよいものはないかを確認する。

今年の雪山始めはだいぶ気温が低かった。しかし登山道に雪は少なく、かなり登って岩稜帯に入るあたりでようやくうっすらと雪が積もっている感じ。こんなに嫌らしかったかなと思いながら鎖のついた岩場を登っていく。稜線の風は相当強そうで、昼前から荒れるという予報も気になったので、ラクダの背で撤退した。まあ、そんな年もあるのだ。

モデルコース:

コースタイム:谷川岳ロープウェイ土合口駅(10分)西黒尾根登山口(2時間30分)ガレ沢のコル(1時間20分)谷川岳(1時間5分)熊穴沢避難小屋(40分)ロープウェイ天神平駅  合計5時45分 

※コースタイムは無雪期のもの。積雪期は積雪や天候その他によりコースタイムは大きく異なります。

遊び心たっぷり、みなかみ名物ダムカレー

予定より早めに下山し、昼過ぎにロープウェイ山麓駅に戻ってきた。

「お昼ご飯を食べて帰ろうよ。あの洋食屋でいいよね」

交通手段が車で、みんなでお昼ご飯を食べて帰ろうとなったとき、好んで訪れるのが、道の駅「みなかみ水紀行館」からすぐのところにあるレストラン「諏訪峡」だ。たぶん私以外のメンバーは店名をちゃんと覚えていない。でも帰り道の途中だし大通り沿いだし、行けば場所はわかるからいいのだ。

赤い屋根の洋風の建物が目を引く

いそいそと車を降り、店に入る。広々とした店内、窓際の明るい席もあるが、奥のソファ席に座る。寒いねえ、お腹すいたねえ、と言い合いながらメニューを見る。我々はこのお店を「洋食屋」と把握しているのだが、とんかつやうどんなど和食のメニューも豊富だ。結局私以外のメンバーは、鍋焼きうどんや温かいつけうどんを頼んでいた。鍋焼きうどんは冬季限定らしい。

以前訪れたときはハンバーグを食べた。今回もハンバーグがいいかな・・・と思ったのだが、つい目に入ってしまったのが「ダムカレー」。アーチ式(矢木沢ダム)、重力式(藤原ダム)、ロックフィル式(奈良俣ダム)の3種類。なんだこれは、おもしろそうじゃないか。

利根川源流の町、水上はダムの宝庫でもある。ダムのある町では、ご当地グルメとして「ダムカレー」を提供している店も多い。みなかみ町の飲食店では、町内にある3つの型式のダムをかたどったカレーが味わえるという。

メニューの写真にひかれて、アーチ式ダムカレーをオーダーした。10年くらい前に、矢木沢ダムを訪れたことがあるはずだが、ダムの形はもちろん覚えていない。

店内の様子。居心地のよいソファ席がある

今日の山行の感想を言い合い、今シーズンの雪山の予定を語り合いながら待つことしばし。ダムカレーが登場した。

「スプーンでダムのご飯の底を少し掘って、カレーを放流してくださいね」

お店の方が笑顔で説明してくれる。・・・なんだなんだ、おもしろいじゃないか。

ご飯がダムになっているのだ。上流に軟らかめのカレーがたっぷり。ダムの上にはブロッコリーやまいたけ、ズッキーニ、ナスなどの焼き野菜、ワカサギのフライも乗っている。スプーンを手に取り、ダムを崩さないように、ご飯を少しずつ下から掘っていく。スプーンがスコップ型なのも楽しい。

アーチ式ダムカレー。ダムの上に焼き野菜が乗っている

ほかのメンバーに見守られながら掘り進めていくと、うまく底に穴が開き、カレーがどーっと下流に流れた。「おおー!」と一同歓声。おもしろすぎるぞ。動画に撮っておけばよかったな。

さっそく一口。スパイスがきいたカレー。食べていくうちに体がじんわりと温まっていく。野菜とともに一口。彩りがよく、野菜の味や食感を損なわない焼き加減がいい。食べ進めていくうちに、ご飯のダムが決壊。ああもったいない・・・でもおいしいからいいのだ。

遊び心いっぱいのダムカレー、楽しかった、おいしかったです。ごちそうさまでした。

おそらく谷川岳方面には今シーズンまた訪れる。そして下山後にこの店に、仲間たちと立ち寄るだろう。今度は違う型式のダムカレーをいただこうか。ほかのメンバーが食べていた鍋焼きうどんもアツアツでおいしそうだった。いや基本に立ち戻ってハンバーグでもいいな。みっちりと肉が詰まった、うまみたっぷりのハンバーグ。

好きな山の麓にまた行きたいと思う店があるのは幸せだ。一緒に山に行き、おいしい物を食べて帰りたいと思う仲間がいるのは幸せだ。

店名:諏訪峡
関越道水上ICと道の駅みなかみ水紀行館の間に建つ、赤い屋根が目印の食堂。地元食材を使った料理が味わえるほか、3種類のダムカレーが人気。
電話:0278-72-2397
住所:群馬県利根郡みなかみ町川上20-5
アクセス:JR上越線水上駅から徒歩30分

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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