自分が登った8000m峰の名前をもつザック、「ガッシャブルム」への愛着/書き手:谷山宏典 -私の山道具⑤

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山道具を選ぶとき、機能性やデザインはもちろん、やはり愛着も大事にしたい。そして愛着という点では、このザックがいちばんかもしれない。

文・写真=谷山宏典、イラスト=清水将志

大学の山岳部時代から愛用

パイネの「ガッシャブルム」は、なんだかんだ最も付き合いの長い山道具のひとつだ。

初めて“背”にしたのは、今から四半世紀前の大学山岳部時代。部のオフィシャルな山行である合宿ではキスリングを使っていたが、(年配の登山者の方は「90年代にキスリング!?」と驚かれるかもしれませんが、僕が所属していた山岳部では2000年代初めまでキスリングが現役でした)、個人山行では「とにかく荷物がたくさん背負える」という理由でガッシャブルムを使っていた。

卒業後、使い込んでヘタってしまったガッシャブルムに代わり、別メーカーの大型ザックを背負っていた時期もあった。けれど、別メーカーのザックをしばらく使い、そろそろ買い替えようというとき、さんざん迷った末に新たに購入したのが学生時代に愛用していたガッシャブルム(二代目)だった。

登山用品店に行けば、機能性に優れた大型ザックがずらりと並んでいる。かたやガッシャブルムは、背面にフレームも入っていなければ、背面長を調整する機能もない。フロントやサイドから荷物の出し入れができるジッパーもないし、ヒップベルトはペラペラで頼りない。ほかのザックよりも優れている点といえば、最大100Lにもなるサイズや、厚手の生地や強固な縫製による耐久性ぐらいだが、当時の僕はそんな巨大な容量を最大限に使うような長期山行はしていなかった。

自分の体力や山行スタイルを考えれば、もっと背負いやすいザックを選ぶのが妥当であり、選択肢はほかにいくらでもあった。にもかかわらず、ガッシャブルムを選んだのは、ひとえにこのザックへの愛着ゆえである。

「ガッシャブルム」という名前に魅かれる理由

なによりシンプルな構造がいい。シンプルさは僕がザックを選ぶときに重視するポイントで、テント泊用の大型のもの以外でもシンプルなデザインのザックを好んで使っている。

また、ガッシャブルムという名前もこのザックに魅かれる大きな理由だ。ガッシャブルムとはヒマラヤのカラコルム山脈に連なる山群の名で、そのI峰(8068m)とII峰(8035m)は僕が20代前半のころに登った思い出深い山なのだ。

似たようなシンプルな構造の大型ザックとしてアライテントの「マカルー」があり、実は60Lのザックはマカルーを使っている。だが、もっとも大きい80Lのザックとして、マカルーではなく、ガッシャブルムを選んだのは、「自分が登った8000m峰の山の名を持つザックだから」にほかならない。

40代となり、子どももできて、長期山行からはますます遠ざかり、ここ数年はガッシャブルムを背負うのは年1、2回程度になってしまっている。初代はボロボロになるまで使い倒したが、今の二代目は購入して10年ほどになるがそれほどヘタってはいない。今後、重い荷物をガッツリ背負う機会はさらになくなるだろうから、まだきれいなうちに後輩である現役山岳部員にあげてしまおうか、と考えたこともあった。

しかし昨年、家族で初めてのテント泊山行をしたとき、日数は1泊2日と短かったが、息子の小さなザックに入りきらない寝袋やマット、着替えやおやつなどを含めた荷物一式を詰め込むのに巨大なガッシャブルムが大いに役立ってくれた。家族3人で泊まれるテントも買ってしまったし(それまでは2人用テントしか持ってなかった)、これからはテント泊をしながら家族でいろいろな山に登ってみたいとあれこれ考えている。息子が背負える荷物はまだまだ限られているので、ガッシャブルムの出番がこれからまた増えていくかもしれない・・・と、その前に大型ザックを余裕で背負える体力をまずは取り戻さなければ!

プロフィール

谷山宏典(たにやま・ひろのり)

ライター・編集者。1979年愛知県生まれ。明治大学山岳部出身で、ガッシャブルムI峰・Ⅱ峰などの登頂歴を持つ。著書に『穂高に遊ぶ 穂高岳山荘二代目主人 今田英雄の経営哲学』『鷹と生きる 鷹使い・松原英俊の半生』(ともに山と溪谷社刊)など。

私の山道具

お気に入りの山道具、初めて買った登山ギア、装備での失敗談・・・。山道具に関する四方山話を紹介します。

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