「地方に仕事は無い」は本当か? 移住先での働き方を考える
文・写真=鈴木俊輔
起業よりも就職が多い
田植え前の水鏡が美しい季節です。連休中は天気が良かったので、近くの雨引山(松川村)に登ってきました。会社員時代はゴールデンウイークになると、バックパックを背負って国内外を旅したものですが、地方で暮らすようになってからは近場で過ごすことが多くなりました。
私の知り合いでも移住してから遠出が減ったという人は少なくありません。近くに登りたい山はたくさんあり、まだ行けていないアウトドアスポットもいっぱいあります。私の場合は家にいても、まきを割ったり、料理をしたり、コーヒー豆を焙煎したりとやりたいことがいろいろ。そんなわけで、なんとなく毎日お腹いっぱいという感じです。
さて、今回のテーマは「移住先での仕事探し」。現役世代にとっては、移住先でどんな仕事をするかは重要ですよね。選択肢としては、主に就職か起業のどちらかですが、地方移住というと「古民家でカフェを開業」「有機農家として就農」など、起業のイメージを持つ人も多いかもしれません。というのも、自治体のホームページや移住パンフレットなどで紹介されている先輩移住者には、いわゆる「キラキラ移住」の事例が多いからです。しかし実際のところは、ハローワークなどで仕事を探して、移住先の企業などに転職する人の方がずっと多いのです。
「地方に仕事は無い」は本当か?
「地方には仕事が無い」、そんな言葉をしばしば聞きますが、必ずしもそうとは言えません。「仕事はあるが、業種や職種が少ない」というのが実情です。地方部では都市部以上に人手不足が深刻で、求人は決して少なくありません。 例えば、私が住んでいる北アルプス地域(ハローワーク大町管内)の月間有効求人倍率は、1.54倍(長野労働局発表 令和6年2月分)。同じ月の長野県の平均は1.35倍、全国平均は1.26倍で、県や全国の平均よりも多いくらいです。同資料の求人を産業別に見ると、次のようになっています。
- 「宿泊業・飲食サービス業」(110人)
- 「建設業」(81人)
- 「医療・福祉」(63人)
- 「製造業」(45人)
- 「運輸業・郵便業」(29人)
- 「卸売業・小売業」(12人)
- 「教育・学習支援業」(3人)
- 「生活関連サービス業・娯楽業」(2人)
- 「金融業・保険業・不動産業」(1人) 他
通勤範囲を広げて仕事を探す
地域によって産業分野は多少異なるかもしれませんが、全国的にも同じ傾向が見られます。なるほど仕事はありますが、都会に比べると業種が少なく自分が就きたい職が見つかるとは限りません。生活のための手段と割り切って近場で適当な仕事を探すのもよいですが、業種や職種にこだわりたいという人も多いはず。
職場を移住希望地のすぐ近くに限定するとあまり見つからないかもしれませんが、近隣の都市まで範囲を広げると選択肢は増えます。通勤時間や朝の交通渋滞なども考慮しながら、住まいと並行して探したいですね。
また、考えたいのは収入のこと。都会の企業で働いていて、移住後もこれまでと同じくらいの収入がほしいという人もいるかもしれませんが、これはなかなか難しい。同じ職種であっても、地方圏と東京や大阪などの大都市圏とでは賃金に大きな差があります。
しかしながら、たとえ収入が2、3割減ったとしても、消費の少ないライフスタイルにシフトすれば生活は可能です。どんな暮らしをしたくて、その生活をするためにどのくらいの収入が必要なのかをシミュレーションしてみましょう。
リモートワークという最強の選択肢
移住相談に乗っていると、最近は「今の仕事をリモートで続けたい」という人が増えてきました。コロナ禍をきっかけにリモートワークが定着して、その後も多様な働き方を認める企業が多くなった印象です。こうした時代の流れによって、地方での仕事の可能性が広がったように思えます。
これまでは「地方移住=転職」が必然でしたが、現在では地方に移住してもやりがいのある仕事を続けることが可能になりました。地方に住みながら都会の収入を得られるのは理想のように思えます。地方でのリモートワークの前例がない会社でも、「こんな働き方をしたい」と掛け合ってみるのも手です。同じように多様な働き方を望んでいる社員も思いのほか多いかもしれません。自治体によっては公共施設にコワーキングスペースを整備しているところもあり、リモートワークにも利用できます。
「本当に好きなこと」を仕事にする
「せっかく移住するなら、独立して好きな仕事にチャレンジしたい」。そう考えて起業を目指す人も多いでしょう。私もその一人で、移住前は都内の出版社で会社員をしていました。
毎日、片道1時間半かけて満員電車での通勤。忙しい時期は終電まで残業をして、休日出勤もしばしば。生活に足る収入はありましたが、生きるために働いているはずが、まるで仕事のために生きているよう。そして、いつまでこの生活を続けるのか? 都会で会社員を続けることに疑問を持つようになりました。
その時点で定年を迎えるまで30年以上あり、将来、年金をいくらもらえるのかも分からない。ましてや定年まで自分が生きている保証もない。たった一度の人生。好きな場所で暮らしながら、やりがいのある仕事を死ぬまで続けたい。職場での人間関係には恵まれていたので、後ろ髪を引かれる思いはありましたが、「犀の角のようにただ独り歩め」と意を決して退職。妻の理解もあって、以前から興味があった地方移住を実現し、地域おこし協力隊を経てライターとして起業しました。
仕事を考える際には、次の3つの視点が重要と言われています。
- 自分が好きなこと(Will)
- 自分が得意なこと (Can)
- 社会から求められていること(Must)
3つの円が示したポイントのうち、どれか一つ欠けていてもうまくいきません。例えば、好きな仕事でなければ苦痛になって続かない。スキルが伴わなければ成果を生み出せない。社会のニーズを満たすものでなければ自己満足で終わってしまう。だから、3つの円が重なる部分を探ろうというわけです。
なかでも私が特に重要だと考えるのは、「本当に好きなこと」を仕事にすること。時間を忘れるほど好きなことであれば、努力している意識が無くても自然と技術を磨いている。技術が高ければ、ニーズを満たす物やサービスを生み出せるからです。
私自身、新天地でゼロから事業を始めることは簡単ではないと身をもって感じていますが、本当に好きなことを仕事にできる喜びは起業の醍醐味です。趣味との境界がなく毎日をワクワクしながら過ごせますし、通勤や仕事のストレスがなくなり、娯楽にかける消費も減りました。
仕事に対する価値観は十人十色。就職でも起業でも、大好きな場所で納得のいく仕事や働き方を見つけたいものですね。
プロフィール
鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)
長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。
山のある暮らし
都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他