地域おこし協力隊という選択肢|元隊員が語るメリット・デメリット
文・写真=鈴木俊輔
初夏になると、野菜を植えたり、まきを作ったり、地区の草刈りをしたり、やることがいっぱい。ちょうどこの季節は庭の梅がなる時期で、先日、慌てて収穫しました。自然は待ってくれないので、タイミングは逃せません。今年はやや不作ですが、なんとか梅酒を作るのに必要な量を確保できました。しばしば「地方でスローライフ」などと聞きますが、スローライフも思いのほか忙しいものです。そんなわけで、登山に行きたいけれど、なかなか時間を作れないというジレンマ…。今度はどの山に登ろうかなと、北アルプスの山々を眺めながら夢想しています。
地域おこし協力隊とは?
前回のコラムでは、移住先での仕事探しについて書きました。今回は、就職・起業以外の働き方として、「地域おこし協力隊」の制度について紹介します。
私も長野県池田町の地域おこし協力隊員として3年間活動しました。特産品開発の活動で、町の特産物であるハーブや在来種の小豆を使った加工品の開発に、地元の農家や事業者と一緒に取り組みました。任期中はイベントの企画や資格の取得など、いろいろなことにチャレンジさせてもらい、充実した3年間を過ごしました。そうした自身の経験からも地域おこし協力隊は地方移住をかなえるための一つの選択肢として魅力ある制度だと感じています。
最近では、地域おこし協力隊という言葉をテレビや新聞などで目にする機会も増えましたが、「協力隊って一体何なの?」と思っている人も多いかもしれません。始まって15年になる制度ですが、その概要はいまだにあまり知られていない印象です。
地域おこし協力隊とは、都市部から過疎地域などへ移住を考えている人を地方自治体が受け入れ、地域協力活動を行ないながら定住・定着を図る制度。2009年に総務省が始めた事業で、当初の隊員数は全国で89人でしたが、2023年には7200人が着任しています。同省が公表している2022年度の報道資料では、任期終了後に約5割の隊員が活動地と同じ市町村に定住。そのうち、47%が就業、29%が起業、14%が就農しています。
誰でも地域おこし協力隊になれる?
地域おこし協力隊の募集は、地方自治体ごとに行なわれています。移住先として考えている市町村や移住・交流推進機構(JOIN)のホームページなどで、募集情報を確認しましょう。活動内容は自治体によって異なり、移住定住促進、観光振興、営農支援、特産品開発など多種多様です。
地域おこし協力隊制度の概要
- 任期|1年以上で最長3年
- 年齢|20歳以上概ね40歳以下
- 移住前の居住地|三大都市圏内の都市地域や政令指定都市など
- 働く形態|会計年度任用職員(地方公務員)または委託
- 給与|166,000円~225,000円(月給)
池田町の移住ツアーや東京の移住イベントなどで相談に乗っていると、地域おこし協力隊に興味を持っている人も少なくありません。よく聞かれるのは、「地域おこし協力隊って誰でもなれるの?」ということ。地域おこし協力隊という制度は、都市部に集中する若者を地方部に分散させるための施策です。そのため、上記の制度概要にもある通り、誰でも応募できるわけではなく、年齢制限や地域要件が設けられています。
年齢についてはあくまで目安で、市町村や活動内容によって異なり、実際に40歳以上の隊員も多く活動しています。また、協力隊員になるためには、活動する自治体に住民票を移す必要があります。応募にあたって特別な資格やスキルは求められませんが、普通自動車の運転免許や基本的なパソコン操作のスキルなどが募集要項に記載されていることが多いです。
地域おこし協力隊になるメリットとデメリット
私自身も協力隊員として活動したなかで、この制度のメリットとデメリットを感じました。いちばんのメリットは、住まいと仕事が保証されること。初回の記事で「住まいと仕事が地方移住の最大のハードル」と書きましたが、地域おこし協力隊であればこの両方をクリアできます。住まいは自治体内の住居を借りることができ、任期中は隊員活動費から家賃が充当されます。仕事は基本的にフルタイムで、月給は多くないですが節約すればなんとか生活できる金額。現在は、私が活動していた時よりも給与額が上がり、賞与も支給されるなど待遇も良くなってきました。
また、もう一つのメリットは、協力隊活動を通して地域の人とのつながりを作れること。活動内容にもよりますが、人と関わる機会の多い仕事です。「地域おこし協力隊です。お話を聞かせてください」とお願いすると、いろいろな人に会いに行けます。私自身この仕事をしていなければ出会えなかったであろう人とたくさん知り合うことができ、そのつながりは協力隊を終えた今でも続いています。
デメリットは、最長で3年間しか活動できないこと。計画的に進めないと、何もできないまま3年間が過ぎてしまいます。イメージとしては、1年目は地域に慣れながら人脈作りや企画。2年目は人とのつながりをベースに企画を実行。3年目は活動を成果につなげながら定住に向けた準備といった具合です。3年間で成果を出して、任期後の道筋をつけることは簡単ではありません。かくいう私も任期後に向けた準備が足らず、仕事のことではとても苦労しました。隊員活動と任期後の準備のバランスを取るのは難しいところですが、もっと早い段階で身の振り方を考えるべきだったと反省しています。
また、デメリットとして挙げられるのは、協力隊活動がキャリアにつながりにくいということ。就職するにしても起業するにしても、隊員活動の経験が任期後にしたい仕事に生きればよいですが、関係のないものだとキャリアにはつながらず、むしろブランクになってしまいます。任期後のことを見据えて、活動内容を選んで応募したいものです。
地域おこし協力隊に向いている人・向いていない人
地域おこし協力隊は活動内容によっても異なり一概には言えないものの、基本的には人と関わることの多い仕事。また、受け身ではなく主体性が求められる仕事です。そのため、向き不向きはあります。次の項目に当てはまる人は隊員に向いていると思います。
- 活動する地域がとても好き
- 活動内容に興味がある
- 活動に生かせるスキルを持っている
- 人と関わることが苦にならない
- チャレンジしたいことがある
- 任期後のビジョンを持っている
すべてに該当していなくても問題ありませんが、当てはまる項目が少なく「とりあえず移住の選択肢として考えている」という人にはあまりおすすめできません。協力隊員になることは、人生の大きな決断。就いてから後悔しないように慎重に考えたいですね。また、協力隊への応募を検討するにあたって、実際に現地で活動している隊員から話を聞いてみるのもおすすめです。受け入れ先の自治体によって、地域住民の隊員に対する理解や活動の自由度は異なります。事前に地域の様子や職場環境などが分かると参考になりますよ。
地域おこし協力隊は、地方移住をかなえるための一つの選択肢として、うまく設計された制度だと思います。隊員になることをきっかけに、「山のある暮らし」を実現してはいかがでしょうか。次回は、「地域おこし協力隊の任期後」について、地域に定住した隊員の実例もまじえながら紹介します。
プロフィール
鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)
長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。
山のある暮らし
都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム
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