雪山登山の目標は赤岳! 山岳ガイドに教わる“雪山登山 入門のススメ”(8)

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いつか登りたい山はありますか? 目標を持つことで、山へのモチベーションがあがったり、自分を知り、ステプアップにつながったりすることもあるでしょう。今回は、雪山登山でよく目標とされる「赤岳」について、憧れとされる理由、難しいポイント、挑戦する際に注意したいことなどを聞きました。

POINT
  • 見事な山容・アクセスの良さ・山小屋の冬季営業
  • 一番の難しさは、岩と雪のミックスした氷雪登山
  • 訓練を積み重ね、安定した技術と体力の上に、ぜひ赤岳へ挑戦を!
雪山登山者の憧れ「赤岳」

質問: 今年から雪山登山を始めたのですが、目標は「赤岳」です! 週末には、たくさんの登山者が赤岳を目指して登っていると聞きます。私も、ぜひ登りたいです。赤岳について教えてください。

八ヶ岳最高峰、屹立した岩壁をもち重厚な山容の赤岳

八ヶ岳最高峰・主峰である赤岳は雪山登山者の憧れです。東西に屹立した岩壁をもち、どこから見ても重厚な山容は見事です。“初めての本格的な雪山”として赤岳が目標とされる理由には、首都圏からも関西からもアクセスが良い事、山麓・山中・頂上直下に冬季も営業する食事付きの山小屋があり、雪山登頂に専念できる事が考えられます。

諏訪側から登山を行なう場合、登山口の美濃戸口の標高が1500m。山頂との標高差は1400m前後で、これを一泊二日で登る計画であれば、体力的には一般の登山者なら対応できるレベルです。行く前から他人のトレースをあてにするのも何ですが、週末には多くの登山者が入山しているので、赤岳鉱泉や行者小屋などの拠点までは、ラッセルすることなく行けることが多いです。

*赤岳鉱泉からの現地情報はこちらから

岩と雪のミックスした氷雪登山、慎重さを要する尾根ルート

積雪期の赤岳の一番の難しさは、岩と雪のミックスした氷雪を登山することでしょう。八ヶ岳全体では、この赤岳と阿弥陀岳、横岳、権現岳は、アイゼンやピッケルを使う氷雪技術をフルに活用しての登山となります。足元が完全にアイスバーンのように凍結していることも、気がついたらホワイトアウトになることもあります。その状況下でも間違いなく、アイゼンを斜面に効かせ、ピッケルで確実にバランスを保ち続ける技術が必要になります。

特に、赤岳の山頂を行者小屋から目指す周回ルートで通る地蔵尾根では、木々がまだらになる辺りから雪が不安定になり、雪質を観察する事が必要です。そこからの斜面は岩混じりの氷雪の斜面で、安定したアイゼン歩行が求められます。さらに主稜線に出る手前は尾根が痩せて、高度感もあり、慎重に行動しなければいけません。天望荘から先は、上に行くほど左右の岩壁が迫り、風の影響も受けやすく、僕でも緊張します。

また、文三郎尾根をルートにとった場合は、いきなりの急登でここも注意が必要です。中岳との分岐を過ぎ、立場川の上部へと回り込むまでは強い風の中。ここからは岩と雪のミックスで、一見、穏やかに見える傾斜の下は立場川奥壁で一気に切れ落ちています。キレットからの尾根に合流してからは急峻な登りで、山頂直下は、これまた佐久側(東側)が大門沢まで切れ落ちていて、慎重な行動が求められます。こういったところでの転倒は、滑落につながり致命的な事故になるケースがあるので、細心の注意で臨んでください。

ぜひ、安定した技術の上で挑戦を!

赤岳に登っている登山者は、みな雪山技術を身につけた人ばかりでしょうか? 雪山初心者に登山経験を訪ねると「赤岳は登ってます」という登山者に多く出会います。「えっ。大変じゃなかった?」と尋ねると、「大勢登っていたし。高齢の人も一人で登っていたし。僕も大丈夫でした」などの答えが返ってきます。赤岳を登っていると、単独山行で、ピッケルの持ち方すら怪しい登山者がクサリにしがみついて前進している姿をよく見かけます。それは、とても危険な状況です。実際に、多くの滑落事故が発生していることを認識してください。

雪山技術を習得中で、ちょっと自信のない人は、氷雪技術の基礎を繰り返し習得してから挑んでほしいと思います。それが不十分な場合は、ロープを積極的に使用してください。「みんなロープ使ってないし・・・」なんて、言っていてはダメ。僕がガイドのときは、積極的にロープを使ってもらいっています。

赤岳は、大きな指標となる山です。「雪の赤岳に登りたい!」と努力しても良いですし、赤岳の登頂がきっかけとなって、本格的に雪山登山をはじめる登山者もいます。丁寧に訓練を積み重ね、安定した技術、体力の上に挑戦していただければと思います。

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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